次、止まります

404-フグ

次、止まります。


 

『次は〜あべの橋〜、あべの橋〜終点です――』


 

 平日の十三時、車内アナウンスがバスの中に流れる。

 だが、それを聞く人はこの空間には私と運転手もう一人しかいない。


 私はかれこれ十年近くこのアナウンスを聞き続けている、通称「車内アナウンスの達人」である。

 未だその異名を呼ばれた事は無いのだが、私にアナウンス聞き取り勝負で勝てる者など、それこそアナウンサー本人か運転手ぐらいだろう……


 ……平日のこの時間帯の都市バスというのは寂しいものである。

 通勤通学で必然的に箱詰めになる朝や夕方以降とは違い、真昼間と深夜帯のバス内というものは空になった弁当箱以上に寂しい。


 お客さんは多くても五人か六人程度。それも大体がお爺さんやお婆さんなので会話の内容も年代的によく分からない事が多い。

 昨日なんて、人の気配はするのも関わらず全く言葉が聞こえなかった。


 車内での禁止事項に会話禁止が追加でもされてしまったのだろうか。


 私は目が見える訳でもないので言葉と音と振動だけが外界とのアプローチなんだ。只でさえ少ないそれが更に減ってしまうという事につくづく悲しみを覚える。


 運転手よ。歌でも歌ってくれないか。

 暇で暇で仕方がない。


 朝や夕方は仕事で詰め切りで、少しは休みたいという思いでいっぱいなのに、いつも昼になると働きたいという欲求が暇を凌駕してしまう。


『扉が開きます。お近くにいる方は――』


 あ!お客さんが乗ってきた。

 どんなお客さんなのだろう。

 顔も見えないし何人かも分からない。

 それでも働くモノとして機会が回ってくる瞬間は嬉しいものなのだ。


 あれこれ考えているうちに、お客さんが私の近くに座ったらしい。それも一人じゃ無い。服の擦れる音がして小さい声ではあるが、話声が聞こえてくる。

 このお客さんはどんな会話をしているのだろうか――



 

 

「お母さん、このバス、明日でいなくなっちゃうんだって。」

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