第3話 六つの花
「星を売って欲しいんです。私には星が足りないの。足りないから買わないといけないの。前に母から古書店では星をよく売っていると聞きました。だから、買いに来たの」
少女の好奇心旺盛な両目がそれこそ、彗星のように輝いた。
「ごめんなあ。この子も今日、会ったばかりなんだ。星のことを聴いてもこの子は分からないよ」
おじいさんが少女に対して話しかけた。
「星とは人と人とのめぐり逢いのことを言うんだ。誰か無性に会いたい人に会うために人々は星を買うんだよ。とは言え、昔からすると星を買える機会はめっきり減ったんだが」
おじいさんのしみじみとした解説に僕は頷いた。星なんて買えるわけがないのに買おうとする人々に僕は一抹の寂しさを覚えた。
「私たち、前から会っていたような気がするの」
「会っていたような気がするって?」
「うん。あなたと私は昔、友達だったかもしれない。会っていたような気がするから」
「会っていたらいいね。僕は自分の存在も分からないんだ」
「星ってどこに売っているんですか」
「星? ああ、昔はうちでも売ってはいたんだが、今ではすっかり見かけなくなった。ごめんな。もう、売り切れなんだよ。星は高価なものでなかなか手に入らない。この街でも売っているところはもう、ないだろう」
「星をまだ売っているところはあるんですか」
少女とおじいさん、そして、古書店の長年愛された古書の匂い。それらが僕の透明な孤独を揺るがすように詰め寄って来る。
「この街から」
おじいさんが店頭から、とある本を取り出した。
「この街の外れに無人駅がある。その無人駅から北のほうへ行くと雪原があるそうだ。氷の大地で常に雪と氷に覆われている、寒い大地でそこに行けば、星も手に入れられるかもしれない」
その古い書にはひと雫が滲んだような跡があった。ひょっとしたら、僕はその無人駅からこの古書店に瞬間移動でもしたのかもしれない、と妙な胸騒ぎを覚えた。どんなに酷い目に遭っても僕はその運命から逃げてはやらない。どんなに振り暮らす吹雪に見舞われても、僕は六つの花を愛してやるんだ。
「そんなに行きたいのならば」
おじいさんはその古書のページを畳んだ。
「私が連れて行ってやろう」
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