第4話:朝の満員電車~小さな恋の奇跡~
朝の満員電車はいつも通りの混雑ぶりだった。
肩が触れ合い息苦しい空間の中で、誰もがスマホの画面に視線を落としている。
— ガタンゴトン シュルルル ガタンゴトン ―と、一定のリズムで走る電車が突如として悲鳴をあげた。
― キイィィィィィィ― ― ― ― ―ッ!! —
金属が擦れる鋭い音が車内を貫く。振動が床を通じて足元に伝わり、乗客たちは不意を突かれて前後に体を揺らした。
次の瞬間、電車が急停止し、車内はざわざわ驚きと不安な空気が流れた。
「只今、安全確認を行っております。しばらくお待ちください」
車掌のアナウンスが響く中、不安を胸に抱えながらも、それぞれの方法で会社や学校などに連絡をしながら、状況を見守るしかなかった。
ふと、隣の女性が落とした本を必死に拾おうとするが、やはりぎゅうぎゅう
詰めの車内では思うように身動きがとれない。
僕は思わず立位体前屈をするように上体を下方に倒して本を拾い上げた。
その時、本のタイトルが目にとまる。
― 偶然の出会い必然の恋 —
彼女が恥ずかしそうに会釈して本を受け取ろうとした時、僕は思わず彼女に
話しかけていた。
自分でも突然のこの行動に驚きを隠せない。
「この本、面白いですか?」
彼女も少し驚いた様子で顔を真っ赤にしながら答えてくれた。
「ええ、私の大好きな一冊です」
その後もまるで二人だけしかいない空間にいるように、好きな小説や作家の話をしていた。
再び電車が動き出した時、幾分か車内の窮屈さにもなれた気がした。
僕はもう少し、いやあと3分でいいから彼女と一緒に過ごしたいと思っていると、 電車は無情にも次の駅に到着する。
彼女が電車から降りようとする姿を、僕はなんとも言い難い気持ちで見送っていた。
電車の発車を知らせる音が響く中、彼女は小さく手を振りながら恥ずかしそうに、僕に言葉を投げてくれた。
「また会えたら、続きを話しましょう」
満員電車の空間で起きた小さな恋の奇跡。
それは今日という日の特別な始まりだった。
ショート☆ショート集 あさき いろは @iroha-24
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