猛毒の洗礼
新たな脅威
エリック・バイオレット撃破の噂は多くの地域に瞬く間に広がっていた。リベリオン帝国の精鋭部隊ローズ・マリオネットが敗れたのは、衝撃的だったのだ。
人々はブレイブを讃えた。戦う勇気を与えられた。
各地でリベリオン帝国に対抗する動きが活発化した。
しかし、ローズベル率いるローズ・マリオネットが放っておくはずはなかった。各地で過酷な争いが勃発し、多くの人が命を落とす事案となったが、ブレイブは知らない。
リベリオン帝国の南東でも、動きがあった。南部地方と東部地方の境目で、荒野がある。乾いた土と岩があり、乾燥に強いごく僅かな種類の生物が住むだけだ。通常なら人はもちろん、大型の動物の行き来はない。
しかし、今日は例外であった。
夕暮れを颯爽と走る獣の群れがあった。土埃をあげて勇猛果敢に駆けていた。獅子、虎、ヒョウ、熊など、大きさや形は違うが、共通点はあった。
黄色く光る瞳を持つ、四つ足の獣たちであった。いずれも体表を毒々しい黒紫色の毛皮で覆われている。
群れの中央で、黒紫色の馬が走る。馬には、銀髪を縦ロールにした奇抜な服装の少女が乗っていた。黒を基調にした、白いフリルとレースで装飾されたドレスを身につけている。胸の部分には、大きな黄色いリボンがくっついていた。
少女の名前はシルバー・レイン。リベリオン帝国の東部地方担当者である。
シルバーは、厚底の黒いブーツで馬の脇腹を蹴る。
「急ぎなさい、時間がありませんのよ!」
シルバーの命令に応えるように、馬のいななきが荒野に響く。獣たちの咆哮が重なる。
シルバーは凶報を受けて、憤っていた。
リベリオン帝国の南部地方担当者であるエリック・バイオレットが倒されたという知らせである。彼の部下が報告をあげたらしい。生死はこれから調査するらしい。
倒したのはブレイブ・サンライト。行方知れずだったサンライト王国の王子だ。
直接連絡してきたのは、リベリオン帝国の中央部担当者ダーク・スカイであった。
ダークから自らの担当地方を死守するように言われている。地方担当者はその場を動かないようにという指示だろう。しかし居ても立っても居られなくなり、周囲の反対を押し切って、エリックがいるはずの南部地方に向かっている。
シルバーは、胸の黄色いリボンの真ん中に付けた同色のブローチを握りしめる。薔薇の形をした小さなブローチだ。同じ形のブローチを持つ人間と言葉を交わす事ができる。
深呼吸をして、会話対象となる人物を強く思い描く。これで会話が可能になるはずだ。黄色い薔薇のブローチが淡く光る。
「エリック、返事なさい! できないのなら、あなたの担当地方をいただきますわ!」
今までなら、面倒臭そうな声が返ってくる。しかし、今は荒野の風が虚しく土埃を巻き上げるだけだ。
ブローチは光を失う。
シルバーは身を震わせて、含み笑いをした。
目からこぼれ落ちそうな雫を両手でぬぐい、前を見つめる。
「……敵討ちなら任せなさい」
静かに決意を呟く。
エリックを倒したブレイブはもちろん、彼に味方した人間や、彼からエリックを守れなかった不甲斐ない人間も葬るつもりだ。
「エリック、あなたの事は決して忘れませんわ」
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