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ブレイブは新しい白いローブに着替え終えると、エリックの寝るベッドに腰かけた。
「疲れたよ。大変な戦いだった」
ブレイブにとって初めての戦いであった。相手は今はベッドに横たわるエリックだった。リベリオン帝国の精鋭部隊ローズ・マリオネットだ。彼の鋼鉄を操るワールド・スピリットには苦しめられた。
アリアは頷いて、長剣の柄に手を掛けた。
「エリックを別所に運んで処分しますので、どうぞベッドでお休みください」
「僕はちょっと座るだけでいいから、エリックに危害を加えないでくれ!」
ブレイブが大慌てで両手をパタパタさせると、アリアは不思議そうに首を傾げた。
「敵ですのに」
「今は敵でも、味方になるかもしれないよ!」
「闇の眷属を受け入れてはいけません。彼らは大罪人です」
アリアが憎悪を込めた視線をエリックに向ける。
エリックはまだ気を失ったままだ。
「今なら簡単に殺す事ができます」
「僕は彼を殺すつもりは無いよ」
「国王陛下を殺害し、あなたも命を狙われていますのに」
アリアの全身がワナワナと震える。
「国王陛下も女王陛下も殺害され事は、私たちにも落ち度があります。しかし、この男の過ちを見過ごす事はできません」
「エリックには悲しい事情があったんだ。バイオレットという女の子を知っているだろうか? サンライト軍に理不尽な扱いを受けた挙句に殺されたんだ」
「……恥ずかしながら存じ上げません。しかし、闇の眷属の大罪に比べれば軽いものでしょう」
アリアの声音は弱まったが、憎悪の視線を浮かべたままだ。
「現在はリベリオン帝国皇帝となったルドルフを生き返らせるために、かつて世界中の人間を犠牲にしたのです。たった一人の人間のせいで世界中を貶めたのです。許されるものではありません」
「人が死んだのに人数なんて関係ないよ。みんな大切な命だ。無下に奪っていいものじゃない」
ブレイブがきっぱりと言い放つと、アリアは歯噛みした。言い返せないのが悔しいのだろう。
そんなアリアの肩を、メリッサが軽く叩く。
「アリアさん、ブレイブ様の方針に従いましょう。私たちが信じた主でしょう」
「……そうだな、熱くなりすぎた」
アリアの青い瞳にいつもの冷静さが戻る。
「憎しみや復讐のために戦うのは良くないでしょう。しかし、ローズ・マリオネットは牙をむいてくるでしょう。対策を立てるべきです」
「ローズ・マリオネットにはどんなメンバーがいるのだろう?」
「私が知る範囲では、エリックを含めて五人いるという事です。いずれも強力なワールド・スピリットを操ります」
ブレイブの質問に、アリアは一呼吸置いた。
「鋼鉄を操る南部、猛毒を操る東部、無数の糸と精神破壊を操る北西部、天変地異を操る中央部と言われますね」
「南部はエリック・バイオレットか。確かに強かったね」
ブレイブが相槌を打つと、アリアは額に汗をにじませた。
「危ない所でした。紙一重で助かったと言えるでしょう。他のローズ・マリオネットを倒せるとは限りませんし、引き続き警戒するべきです。より警戒するべきなのは中央部担当者だと思われます。北西部担当者の情報はほとんどありませんので、何とも言えない所ですが」
「できるだけ情報を共有しよう。中央部担当者について詳しく教えてもらえるか?」
「そうですね。可能な限り教えます」
アリアの瞳がぎらつく。
「中央部担当者の名前はダーク・スカイ。サンライト王国が滅んだ最大の要因です。女王陛下の命を奪い、王城を消し去りました」
「母さんの命だけでなく、王城を消し去ったのか……」
ブレイブは身震いした。祖国が滅んだ日の事は覚えている。王城が漆黒の球体に吞まれる光景は、悪夢としか言い様がなかった。
アリアは頷く。
「極めて残虐な男です。彼の操る天変地異は、多くの人を絶望に落としています」
「きっと僕の命を狙っているだろうね。そういえば、東部地方担当者はどうなんだ? 中央部担当者と北西部地方担当者の事は言っていたけど」
「東部地方担当者はシルバー・レインです。おそらくエリックほどではないと思いますが、警戒するに越した事はありませんね。猛毒を操る少女ですが、毒さえ気を付ければどうにかなると思われます。私が毒を食らっている間に、ブレイブ様が倒せば良いでしょう」
「アリア、すぐに自分を犠牲にするのはやめてくれ! 僕は誰にも死んでほしくないんだ!」
ブレイブは悲痛な想いで訴えるが、アリアは冷淡な表情を浮かべる。
「何の犠牲もなく世界を変える事はできません。甘えた考えは捨ててください」
「僕は甘えてないよ。僕とみんなのために世界を癒したいんだ」
反論しようとするアリアに、メリッサが耳打ちする。
「アリアさん、熱くなりすぎてはいけませんよ」
「分かっているが、ブレイブ様の行く末は心配になる」
「ブレイブ様は優しすぎますからね。そんなブレイブ様を守り導くのが私たちの役目でしょう」
メリッサの言葉に納得したのか、アリアは溜め息を吐いたが反論しなかった。
「ブレイブ様が心身共に無事であるように、精いっぱい努力いたします」
「ありがとう、頼りにしているよ」
ブレイブの両目は輝いた。
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