第4話 決意の行き先

俺は車に戻り、持ってきた封筒とペンを取り出す。

封筒に殴り書いた単語を見ても何も心は動かなかった。

ただ。


「……汚い字…」


それだけだった。


ふと気づいた。


「便箋ねーじゃんか…」


目の前にあるコンビニを見つめる。

俺ははぁーッと息を吐きまたコンビニに向かった。

今度こそ便箋を買い、車へ戻ろうとした時。


「…もしかして…?冴嶋さん?私!前に部署が一緒だった!覚えてる?」


俺は驚きで目を丸くしたまま見つめてしまった。

昔、唯一と言っても過言ではない

俺の話を聞いてくれ、支えてくれた恩人が目の前にいた。


「…ともこ先輩?」


「そうそう!元気だった??」


昔と変わらないハツラツとした声が俺の耳に響く。

俺は少し言葉につまったが


「…はい。」


とだけ返事をした。

先輩は少しの間じっと俺を見たあと


「…また、ご飯でも行こうね。

 いろいろと、話聞きたいし!」


と言ってくれた。

これがお世辞でもいい。

だって。もう俺は…


「…はい。またいつか。

 ……すみません。急いでて…」


俺は曖昧な笑顔を向けて足早に立ち去った。

昔の先輩も、俺の様子を気にして声をかけてくれていた。

お局様たちにも臆さず言うことはきっぱり言う人だった。

だが、ある日。先輩は。仕事に来なくなった。

外側ではハツラツとしてかっこいい先輩だったが…かなり無理をしていたようだった。

後から聞いた話は…いろいろと悲惨だった。


だけど今の先輩は、つきものが取れたような明るい先輩に戻っているようだった。


良かった。良かった。


俺は、コンビニの駐車場から移動し、人けのない公園の駐車場に車を止めた。

田舎の山の中にある公園は、整備されているようだったが、日中も木々に覆われ薄暗い場所だった。

夜となるとさらに雰囲気がましているような感じがした。


俺は買ってきた便箋にペン先を当てる。

その瞬間、スマホの通知音がなった。

通知画面を見ると

母からだった。


「元気?お母さんね、ワンちゃんお迎えしましたぁ〜」


その言葉の下にはまだまだ小さい子犬が写っていた。


「犬種は柴犬だって〜( ´∀`)里親さんとお父さんと一緒にいっぱい悩みましたぁ〜」


動画も送られてきていた。

寡黙で厳格な父親が子犬の行動に不器用なりに付き合う姿が収められていた。

父親が皿に入ったオヤツをもって子犬に近づき、一生懸命語りかけている。


「まて。まてだ。うーん。食べちゃった。」

「お父さん。気長に教えましょ〜」


その後、子犬が皿の淵に間違えて足を置き、皿をひっくり返したあたりで動画は終わっていた。

2人があーー!と言いながら片付けをしているのが目に浮かんだ。ははっ。



「ちゃんと食べてる?いつでも帰ってきてね〜」


俺は、心臓を握られた様な感覚を覚えた。

一瞬で画面が霞んでいく…

ボタッボタッ。

画面が濡れる感触がどんどんと惨めにしていく。

俺は霞む画面にゆっくり文字を打つ。

一番心配させたくない二人にこんな姿見せたくないよな…


「ごめん。俺。もうしn 」


途中まで書いた。


……。


文を消した。


俺はスマホの画面を消してから助手席へ置いた。

助手席のスマホがまた通知を知らせてくる。

俺は見ることができなかった。


「はぁ…無理だったんよ。生きんの。必死…だったんよ…でも無理だったんよ…ごめん…」


俺は、服の袖で顔を拭った。

びっしょりと濡れた袖をみる。

今からすることであいつらは何を思うんだろうな…

おもちゃを無くしたガキのように泣くんだろうな…


いや。ないな…


俺がいなくなった後も俺の悪口で満たされてるんだろうな…

ていうか。失敗して明日もあの空間に行かなきゃいけないの…

キツすぎる…


俺はまたペンと便箋を持った。

また便箋にペンを当てる。


「母さん。父さん。

 ごめんなさい。

  俺。だめだった。」


これだけ書いたあと。

便箋をたたんで封筒に入れ、車のダッシュボードへ入れた。

その後、後部座席の方に手を伸ばし、買ってきた道具の入った袋を持ち上げる。

助手席に置き、少し眺める。

もう…決めたよ…


俺は運転席の扉に手をかけた。


ピリリリリリリリリッ


スマホがけたたましく鳴り響く。


そうだった…

部長と電話するんだった…


俺は、電話に出て話を聞く。


「…何を言ってるんですか…?」

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