第4話 ドラゴンと登校

 その後、夏樹たちは無事に学校まで到着することが出来た。

 校門に近づくほどに生徒の数は増えていく。

 色々あって、いつもより遅い登校となったのだが、どうやら交通遅延などもあって他の生徒たちも遅れていたらしい。

 生徒たちはすれ違うと、驚いたように夏樹たちへ振り返っていた。


「凄く目立ってる……」

「そりゃあ、ドラゴンを引き連れてたら目立つでしょ?」

「がうがう!」


 生徒たちに見られて、夏樹は気まずそうに身を縮こませていた。

 逆にクロミツは注目されるのが嬉しいのか、堂々と胸を張って歩いている。

 少しだけ凛々しい顔をしている気がした。キメ顔だろうか。


 夏樹がそんなクロミツを眺めながら、よそ見をしていて歩いていた時だった。

 ガッ!!

 自販機の影から太い腕が伸びで、夏樹を影に引き込んだ。


「よぉ、夏樹ちゃん。今日こそ金払う気になった?」

「か、金暮かねくれくん……だから、お金を払うつもりは無いんだけど……」

「はぁ!? 俺がパーティーに入れてやるって言ってんのに!?」


 夏樹を影に引きずりこんだのは、プリンみたいな金髪の男子だった。

 ゴリラみたいに体格が良い。

 丸太みたいに太い腕を、夏樹の方に回して捕まえていた。グッと首を絞めつけられるようで少し息苦しい。


 彼の名は金暮。

 夏樹はパーティーを追い出されてから、金暮に執拗に追いかけ回されている。そして彼のパーティーに入るよう強要されているのだ。

 その理由は現金。

 ぼっちをパーティーに入れてやる代わりに、定期的に金を払えと金暮は要求している。


「いや、僕は金暮くんのパーティーに入るつもりはないから……」

「はぁ……勘違いすんじゃねぇよ。そもそも、お前に拒否権なんかないの。なんなら、力づくで分からせてやっても――ひぃ!?」


 金暮は拳を振り上げた――と思ったら、か細い悲鳴を上げた。


「がう?」


 その理由はクロミツである。

 自販機の影に消えた夏樹を追いかけて、クロミツが不思議そうにのぞき込んだ。

 慣れてきた夏樹からすると可愛いものだが、本当ならばライオンの百倍は恐ろしいドラゴンである。

 学校では強気な不良を気取っている金暮も、ドラゴンは普通に怖いらしい。冷や汗をだらだら流しながら、膝をガクガクと震わせていた。


「ひぇ……な、なんでドラゴンが街中に……」

「えっと、今朝から俺と一緒に居るドラゴンなんだ……一応、危険は無いはずだけど……」

「がう?」


 クロミツはふんすふんすと鼻を鳴らして、金暮の臭いを嗅ぐ。


「ギャオォォス!!」

「ひ、ひぇぇぇぇぇぇぇ!?」


 そして盛大にくしゃみをした。

 どうやら、金暮の付けていた香水が効いたらしい。

 夏樹はくしゃみの直前にしゃがんで避けたが、金暮の顔にはびしゃびしゃとよだれが飛んだ。

 そして金暮はくしゃみを威嚇と勘違いしたのか、悲鳴をよだれまみれで逃げて行った。


「あ、行っちゃった……」

「ぎゃう?」

「鼻が垂れてる……ポケットティッシュで拭けるかな……」 


 くしゃみのせいで、クロミツの大きな鼻から鼻水が垂れていた。

 ディッシュを何枚も使って拭いていると、心海も覗き込んできた。


「さっきの人、一年の不良生徒だよね? なんで逃げてったの?」

「まぁ、色々あって……早く登校しちゃおう!」

「ふーん?」


 ごまかす様に夏樹が歩き出すと、心海も横に並んで付いてくる。

 そのまま二人と一匹が校門に向かうと、朝の挨拶活動をしている先生が見えてきた。

 ジャージを着て竹刀を持っている体育教師だ。


「おざまーす」

「お、おはようございます」

「おう、おはよ――ドラゴン!?」


 夏樹たちが校門を通ると、体育教師はあんぐりと顎が外れそうなほど口を開いた。


「ちょ、待て待て待て!! なんだ!? そのドラゴンは!?」

「えっと、庭に落ちて来たドラゴンで……なんだか、僕に興味があるみたいで付いてきちゃったんです」

「『付いてきちゃった』って……そんな野良犬じゃないんだぞ……」

「やっぱり、学校に連れて来るのはマズいですか?」

「いや、夏樹はテイマーだから、動物の持ち込みは許可されてるが……ドラゴンかぁ……」


 体育教師は腕を組んで考え込んでしまう。数分ほど『うーん』と唸っていたが、カッと目を開いた。


「分かった。ドラゴンを連れて入るのは問題ない。だが、その大きさだと校舎に入れると邪魔になる。校庭の隅っこで待たせててくれるか?」

「分かりました。それで大丈夫か?」

「がう!」


 クロミツは力強くうなずいた。問題ないらしい。

 無事に教師から許可も出たので、夏樹たちは学校に入ろうとした。


「あ、ちょっと待ってくれ。混乱が起きるかもしれないから、まずは職員室に知らせて来る。すぐに戻って来るから待っててくれ!」

「あ、はい」


 体育今日はそう言って、たったかと校舎へと走って行った。

 待てと言われると待つしかない。


「それにしても居づらい……」

「めっちゃカメラ向けられてるもんねぇ」


 登校中の生徒たちは、クロミツに気づくと遠巻きに眺める。

 眺めるだけなら良いのだが、スマホのカメラまで向けられていた。

 『肖像権侵害反対!!』と言いたいのだが、クロミツに肖像権は無いし、夏樹には文句を言う勇気がない。

 居心地悪くスマホを向けられるしかなかった。


「……ここは私が恩返ししてあげますか」


 心海は呟くと、夏樹たちの前に立って手を振った。


「ちょっと、スマホ向けるの止めよう!! ドラゴンが珍しいのは分かるし、SNSでバズリたいのも分かるけど、スマホをジロジロ向けられたら気分悪いよ!!」


 心海が一喝すると、生徒たちが構えていたスマホは下げられる。名残惜しそうにしていたが、撮るなと言われれば従うくらいの良識があったのだろう。

 心海はその様子を見て、グッと夏樹に親指を立てた。


「ま、こんなもんよ」

「こ、心海姐さん……!!」

「いや、そんな可愛くない呼び方しないで。普通にここみんって呼んでよ」


 残念ながら、姐さん呼びは拒否られた。

 その後、すぐに体育教師は戻って来て、夏樹たちは登校することができた。

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