第5話こう見えてみたまんまです
会計待ちをしている間にふとスマホを見れば、姉からメッセージが届いていた。姉はとうに下着は買い終わり、今は化粧品を買っているらしい。車に荷物を置きに戻るから、駐車場入り口近くの出口付近で待っていろ。との返事が来た。
「化粧品の方が時間がかかるよな」
おそらく姉はブランド物のクリスマス限定コスメを予約しているに違いない。毎年職場で同僚と自慢しあっていると聞いている。貴文は下着の入った紙袋を持って指定された出口に向かった。日曜日だから親子連れが多い。レストラン街はすでに行列ができていた。それを眺めながら、こんなところで姉と二人で何を食べようかと考えた。母親から、ここにしか出店していない惣菜店でお土産を買ってくるように言われている。名前だけ聞くと中華っぽいが、画像を見たらとてもおしゃれなカフェで出てきそうなサラダだった。
「この年でファストフードとかはないよな」
道路の向こうに人気のファストフードの店が見えたが、遠目にも満席だとわかる。
ぼんやりと考えながら歩いていたら、路上に停められた車から、慌てた勢いで男が一人おりてきた。
「
そんな声が聞こえたが、貴文は気にも留めてはいなかった。だって、どう考えても急いでいたとして、人にぶつかるなんてマナー違反をいい年をした男がするなんて思っていなかったからだ。
だが、そんな貴文の楽観的な考えはあっさりと覆された。
「うわ」
急ぎ足で店内に入ってきた男が貴文の目の前を横切ったのだ。ぶつからなかったといえばそうだけど、それは貴文が体をひねって回避した結果に過ぎなかった。
「なんだよ、もう」
紙袋を握りしめ、貴文がぼそりと文句を呟いたとき、突然貴文の膝から力が抜けた。
「大丈夫ですか?」
背後から声をかけられた。その声はおそらく先ほど貴文にぶつかりそうになった男を呼び止めた人物だろう。「大丈夫です。ちょとびっくりして」と貴文は言うつもりだった。そう、いうつもりだった。それなのに、強い耳鳴りがして目の前があっという間に真っ暗になった。ゴンっという音が聞こえた気がしたが、痛みは感じなかった。そう、痛みを感じる前に貴文の意識がなくなったからだ。
「え、ちょっとあなた」
もちろん慌てたのは貴文に声をかけた男である。自分の主人の不始末を詫びようとしただけなのに、相手が急に倒れてしまったのだ。ちゃんと見ていたが、ぶつかってなどいない。ちょっと無理な体勢だったが、目の前に倒れこんだ男は自分の主人をよけてくれた。それなのになぜ?
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