第4話 セットだとお安いんですか?
ネームプレートを見れば、【β・M】との表記があった。
この第二の性がある世の中において、見た目の性よりも重要視されるのはその人がアルファなのかオメガなのかベータなのかである。恋愛に対しての趣味嗜好は千差万別。同性が好きであろうと異性が好きであろうと他人に干渉されるご時世ではないが、アルファとオメガの間にベータが割り込むことは基本容認されてはいない。ただ、ベータはナチュラル性であるからアルファもオメガも受け入れてくれるのだ。特にこういったセンシティブな商品を扱う売り場においては、ベータが接客をするのが無難なのだろう。
「ええと……冬物を探してるんですが、ずっと綿の下着だったんですよね」
貴文がそう言えば、店員は合点がいったようで、すぐに品物を貴文に見せてきた。
「こちらの商品は敏感肌の人用に開発されまして……」
長々とした説明を聞いたけれど、いまいちよくわからないという顔をすれば、見本を見せてくれた。タグが縫い付けてなくて、縫い目もない。肌に触れる面は天然素材で、外側に保温力に優れた素材を使っているらしい。去年はやった水分に反応して発熱する素材は、肌に弱い人たちに不評だったそうだ。
そんな説明をうけつつ、貴文は下着を選んでいった。もちろん上下である。ワイシャツの下に着るのはずっと白のTシャツだった。ただ、それだと透けないだけで保温力はない。そんなことを話していたら、店員があちらの方から下着をひとつ持ってきた。
「こちら、海外で人気なんです」
渡されたのはどうみてもスポーツブラにしか見えなかった。やや厚手の生地で、少し濃い色をしたベージュである。
「オメガ男性用に売られている下着なんですけどね、最近ではベータ男性でも着用しているんですよ」
そう言って店員はタブレットで画像を見せてきた。映し出されているのは男性の胸部だ。貴文にも見慣れた感じの胸部にそのままワイシャツを着用した状態と、白の肌着を着た場合、そしてこの下着を付けた状態の比較画像だ。場合によってはセクハラだと言われそうだ。まぁ、だからこうして接客の時だけ見せてくるのだろう。
「へぇぇ」
貴文が思わず感心したのは、男ベータはこの下着を着用することにより、透けないという安心感と男らしい腹筋を隠さない。というメリットを手に入れられる。というところだった。が、残念ながら貴文には男らしい腹筋など備わってはいないのだが。
「心臓周りが守られるということで、年配の男性からも人気なんですよ」
そんなことを言われてしまったので、思わず父親の分まで買ってしまった貴文なのであった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます