第3話 なんか俺騙されてる?

「下着ねぇ」


 よく乾いた洗濯物を取り込みながら貴文はつぶやいた。

 確かに、貴文のパンツのゴムは緩くなっている。だがそれが履き心地が良くてやめられないのだ。そもそも、買った下着が肌になじむまでそれなりに時間がかかるというものだ。それを寿命は三か月。なんて無茶だ。


「この形、安定するから気に入っているんだよな」

 

 リビングで床に洗濯物を広げてたたみながら貴文は考える。父は母が買ってきたものを黙って履いている。去年の夏に貴文と一緒にドライメッシュの下着を買ったのは、父親の職場で流行っていたからだ。さらっと快適で、股間が蒸れないというには男にとっては革命的なことなのだ。車通勤の父親は、片道30分ほどの運転中尻に汗をかくのが大変だったらしく、ドライメッシュの下着をいたく気に入っていた。しかし、冬場は母が買ってきたヒートッテックのズボン下をすでに愛用していた。工場は底冷えするらしい。姉もSNSで話題の素足に見えるタイツなんてものを履いていて、それを母親にも渡していた。そう考えると、貴文だけ冬用の下着が用意されていない。


「今年29になったしな。なんか冬用でも探してみるか」


 貴文は一つ決意をして、姉のパンツを丁寧に四角くたたんだのだった。

 そうして次の日曜日、都内のデパートに下着を買いに行くと宣言すると、なぜか姉までついてきた。姉も父親と同じで車通勤である。電車なんて年に一回乗るか乗らないかだ。そんな姉が弟と下着を買うのに一緒に電車に乗るなんて。などと思っていたら、姉は貴文を助手席に押し込んで、慣れた感じで有料道路に乗り込んだ。そうして連れていかれた先は都内は都内だが、貴文のようなぼんやりとした男ベータが一人では近づかないベイエリアだった。


「いやぁ、駐車場あいててよかった」


 一日貸しの駐車場に停められて姉は満足そうだった。貴文が行きたかったのは、老舗でデパートの下着売り場だったのに、姉に連れてこられたのはベイエリアにある巨大ショッピングモールだった。


「ここさぁ、海外ブランドの直営店とかはいってて、品ぞろえいいのよねぇ」


 そんなことを言いながら、姉はどんどん中に入っていってしまった。もちろん、貴文が付いていけるわけなどない。姉の背中をみおくりつつ、スマホのメッセージで買い物が終わったら連絡する旨を送っておいた。


「うわああ、こんなに種類があるのか」


 ずらっと並んだ数々の下着を前に、貴文は天を仰いだ。ちょっと想像していたのとはるかに違いすぎたのだ。


「どのようなものをお探しですか?」


 貴文の斜め後ろから優しく声をかけられた。

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