第2話 梅は酸っぱいかしょっぱいか
貴文の注いだお茶を姉は一気に飲み干した。手巻き寿司はもう口に入ってはいないようだ。そうして一気に昨夜の合コンの顛末を貴文に語って聞かせた。つまるところ、昨夜の合コン相手が下着メーカーの社員だったらしい。ベータが持ち掛けた合コンだから、相手もベータの男だけが来るものだと思っていたのに、そこに一人オメガの男が紛れていた。キレイ系の見た目で、名前をきけば誰もが知っている五大名家の名前だった。自分がオメガだということを隠さず話し、そうしてズバズバと下着について語りだしたらしい。
つまり、下着メーカーの社員と合コンして、お持ち帰りされるつもりで来たのなら、我が社の下着を付けてきたんだろうな。ってことを言われたそうだ。その話の下りの中で、下着の寿命は三か月と言われたそうだ。
「しかもさぁ、ブラ紐がゆるゆるとかやる気失せるから。って言われたのよ。オメガにっ」
なかなかいい音がして、コップがテーブルに置かれた。すかさず貴文はお茶を注ぐ。姉は注いだお茶を一気に飲み干した。相当お冠のようだ。
「相手はオメガなんでしょ?男の人だったんだよね?」
何とか姉をなだめようと、貴文はチューブの梅と、野菜室から取り出したキュウリを巻いて姉に手渡した。姉はそれを手に取ると、豪快にかぶりついた。そして姉の口から「くぅ」と小さな声が漏れる。どうやらすっぱかったらしい。
「見せられたのよ」
姉の目が怒りに満ちていた。
「は?なにを?」
貴文はまったくわからなかった。
「決まってんでしょ、男オメガの下着よっ」
姉の手に残された手巻きずしが静かに握りつぶされた。
「これ、今夜の勝負下着でーす。ってねぇ」
なるほど。それは女ベータでは太刀打ちできなかったわけだ。下着メーカーの社員相手にその着こなしで勝つのは至難の業だろう。おそらく、その合コンに参加した男ベータたちは、下着なんか見慣れているし、着用した状態だって社内で日常的にみているのだろう。
「エリが勝負したけど負けたのよ」
個室だったから、姉の同僚のエリという人が服の前をはだけて本日の勝負下着を見せたけど、ブラに隙間がある。と笑われたらしい。
「なによっ、あんなまな板みたいな胸にブラ付けたって隙間なんかできるわけないじゃない」
姉は叫ぶようにそう言って、握りしめてつぶしてしまった手巻きずしを口に放り込んだ。「くっ」という声がもれたので、やはり梅の量が多かったようだ。
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