小さな成功は大きな失敗。

専業プウタ

第1話

「菜々子お嬢様は、本当に勇気がないね。ドラッグストアが1番万引きしやすいんだって」

 私は小学校5年生の時に、万引きをした。

 それは、みんなの仲間だということの証明だった。


 ポケットの中にそっと入れたリップスティックが仲間の証。

 それで私は仲間と認識された。


「私らって、ずっと将来的にもつるんでいるんだろうね」

「菜々子様って、金持ちだし将来大物になりそう!」

 小学生にして万引きを平気でする彼らは、将来は受け子とか特殊詐欺でもしてそうだ。

 だから、彼らと仲間になるのはこれきりだと思っていた。

 

 私は周りから一線引かれていた。

 生活保護や母子家庭が半数以上を占めるクラスで、私はいつもブランドの服に身を包んでいた。


 小学校受験に失敗した私が入った公立小学校は、いわゆる歓楽街が学区だった。

 夜職のシングルマザーの子が多いというその地区のタワーマンションに住んでいた我が家。


 タワーマンションの友達は校区の環境が悪いのでみな私立かインターナショナルスクールに通った。

 私は小学校受験に失敗し、インターナショナルスクールには母の意向で通えなかった。

 母が全く英語ができなかったからだ


 私の母はいわゆるルックスだけで会社経営の父に見初められたイベントコンパニオンだった。

 母は自分が勉強がからきしできないのに、私には幼少期から勉強を強いてきた。

(お前の遺伝子引いているから、馬鹿に決まってるだろうが⋯⋯)


 案の定私は小学校受験に落ちた。


「キャバ嬢の子なんかと仲良くして欲しくないわ」

 同族嫌悪とでも言うのだろうか。

 キャバ嬢と同じように女を武器にして成り上がった母は夜職を馬鹿にしていた。


 私も母の価値観を受け継ぎ、そんな子たちと自分は違うと思っていた。


 しかし、ポケットの中にリップスティックを入れた瞬間にぞくっとした感覚は忘れられなかった。


 

♢♢♢



「菜々子! 隆くんのことなんて何とも思ってないって言った癖に!」

 中学受験に成功した私は、人生を軌道修正した。


 高校の時、クラスの隆くんから告白されたが興味を持てなくて断った。

 しかし、菜々子が彼を好きだと言って告白し付き合い始めた途端、私の中で隆は陳列棚に並んだ。


「私はやっぱり気になり始めたって言っただけだよ⋯⋯」

 本当にそれだけのことだ。

 一度告白を断ったけれど、気になり始めたと言っただけで彼は私のモノになった。

 私はリップスティックをポケットに入れた時の感覚をまた取り戻した。


♢♢♢


「澤村菜々子、業務上横領の罪で逮捕する」

 私は都市銀行に就職し窓口業務をした。

 私はポケットの中に入れたリップスティックの感覚が忘れられなかった。


 お金を預けにくる人の金を自分の口座に入れていただけだ。

 別にお金に困っている訳でも、罪を犯した意識もない。

 ただ、価値がるものを自分のポケットに入れる感覚が堪らない。

(お金って価値が数値化してて最高じゃない!)


 

 気がつけば私は懲役を喰らって刑務所にいた。

 

「菜々子お嬢様じゃん! 何したの?」

「銀行で横領した」

「マジか⋯⋯大物だ⋯⋯ウチはオレオレ詐欺で捕まったよ」

 私は刑務所で小学校の同級生の何人かと再会した。

 どうやら本当に私は将来的に彼らとつるんでそうだ。


 ポケットの中に売り物のリップスティックを入れて店を出られたのは私の中で成功体験として根付いていた。

 それが人生最大の失敗体験だと私は気がつく事もなく一生を終えることになった。

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小さな成功は大きな失敗。 専業プウタ @RIHIRO2023

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