永久視点:めんどくさい女との付き合い方

「明乃が俺に家の場所を教えてくれない」

「え、何で」

「知らない。っつかそれだけじゃなくて、俺が明乃の教室に行くのも許してくれない」


ある日の3限目の授業中。

たまたま先生が緊急会議とかで抜けて自習となった時間に、俺は前の席にいた友達に相談してみた。

しかし俺の相談を聞くと、その友達、タクヤが言う。


「…お前なんか信用されてないんじゃね?」

「やっぱり?っつかそんなことは知ってんだよ言うなよ」

「だってさ、竹原(明乃)ってお前のストーカーじゃん」

「いやストーカーじゃなくて彼女だし」

「ストーカーは自分のこと教えねぇんだって」


タクヤはそう言うけど、俺はそういうことじゃない気がするんだよな。

っつかマジで、ストーカーじゃないし。

すると、その会話を聞いていた別の友達が、その話に割り込んできて言った。


「それって、多分アレが原因だろ!」

「?アレって何、」

「お前竹原の彼氏なのに知らないわけ?あいつクラスでいじめられてんだよ」

「!!は、」


俺はまさかの情報を耳にすると、それは初耳すぎて思わず身を乗り出す。

いじめって、何それ俺知らないんだけど!


「え、はぁ!?いつから!」

「お前知らないの?竹原って昔からよくいじめの標的になってるよ」

「!!」

「中学んとき俺同中だったけどマジ悲惨でさ、授業中でも嫌がらせされてんのに先生みんな見て見ぬフリしてんの」

「…」

「今は今で机に落書きされたり制服切られたり酷いらしいよ」


…明乃がいじめに遭っている。その事実を全く知らなかった俺。

何で俺は今までそれを知らなかったんだ。っつか、そうじゃなくて。

俺はその時ふと『重要な事実』に気が付いて言った。


「っ、ちょっと待て!今先生緊急会議中じゃん!」

「?そうだけど」

「俺抜けるわ!」

「は!?おいっ」


俺はそう言うと、すぐに教室を出て明乃の教室まで急いだ。

俺のクラスの授業が緊急会議により急遽自習になったということは、明乃のクラスも同じ自習中である確率が高い。

つまり今の時間はどのクラスも自習中なのだ。

ということは、先生がいない=明乃が嫌がらせに遭っている可能性が高い。

俺は走っちゃいけない廊下を猛ダッシュすると、やがてようやく明乃のクラスに到着した。


「…、」


まずは、教室の出入り口についている窓ガラスからそっと教室の中を覗く。

…やっぱり。俺の予想は的中した。

授業中にもかかわらずみんな友達同士で雑談したりして遊んでる。

えっと、明乃は…。

俺はなるべくみんなに築かれないように明乃を探すけれど…


「…あれ、いなくね?」


明乃はどこにも見当たらない。

そしたらそのうち見つかりそうになって、慌てて姿を隠した。

…やっべぇ。っつか、何でいないんだよ。

もしかして、緊急会議で自習になるのを知ってサボってる、とか?

…保健室に行ってみるか。

俺はそう思うと、今度は保健室に向かってみることにした。



…………



保健室に到着して、ガラ、とドアを開けるとそこに先生はおらず、だけどやっぱりそこには明乃がただ一人でいた。


「っ、明乃!」

「!…永久くん」


明乃は保健室の隅の机で、何かを書いている最中みたいだった。

俺がそんな明乃に「何してんの?]と聞きながら近づくと、明乃がそれを慌てて隠して言う。


「あ、やっ…!これはっ…!」

「…?」


だけど、もう秘密主義を許さない俺は、半ば強引にそれを覗き込んだ。


「…何、お前ここで自習してんの?」

「…」


俺がそう問いかけると、明乃が俺から気まずそうに視線を外す。

明乃は何故か教室ではなく保健室で自習をしていた。

その理由をなんとなく悟った俺は、黙り込んでしまった明乃にさっき友達から聞いたことを聞いてみた。


「…お前さ、俺に何か隠してることない?っつかいっぱいあるだろ」

「な、何のこと?いや、これは、今日ちょっと体調がすぐれなくて、今日だけ保健室を借りてるの」

「…」

「ほんとは、私も教室で雑談したりしたいんだよ。でもほら、突然倒れ、」

「そんなこと聞いてるんじゃなくて、」

「!」


俺はその明乃の言葉を遮ると、とりあえず明乃に座ってもらって、俺もその辺の椅子を引っ張ってきて明乃の近くに座る。

そして、うつ向く明乃に言った。


「…聞いたよ」

「…」

「クラスでいじめに遭ってるって」

「…」

「何で一言相談してくれないの」


そんなに俺、信用無いのかなって思うじゃん。

しかし俺がそう言うと、明乃が言う。


「…言えないよ」

「…?」

「言えると思う?あたし、こんななんだよ。でも永久くんは女子男子問わずみんなの人気者じゃん。

スマホだって学校生活だってそれなりに見張らないと離れていきそうなのに、

彼女のあたしはみんなの嫌われ者なんてさ、そんなの言えるわけないでしょ」

「…」


明乃はそう言うと、今にも泣きそうな顔で俺を見るから。

…もっと早く俺が気づくべきだったんだな。

そう思ってももう遅いけど、でも俺からしてみれば明乃は勘違いをしてると思う。


「…そんな簡単に明乃から離れないよ、俺」

「え、」

「っつかよく考えてほしい。今まで明乃に散々ストーカーまがいなことをされて、俺一度も離れていかなかったでしょ?」

「!」

「好きな人に離れていかれて一番困るのは俺の方なんだよ」


俺はそう言うと、「おいで」と、明乃に向かって両手を広げる。

すると明乃はもう両目に涙いっぱいで、俺の胸に飛び込んできた。


「ごめっ、永久くん…私、永久くんを信用できてなかった」

「…ん、」

「永久くんより永久くんの周りばかり見て、自分と比較してた。

自分に自信持てなかったの。だから永久くんに私のことを知られるのも怖かった」

「うん」

「永久くんの言う通り、私クラスでいじめられてる。クラスでいっつも独りぼっち。

永久くんが離れていくことが私の一番の、恐怖なの」


明乃がそう言いながら泣き出すから、俺はそんな明乃に再度はっきり言ってやった。


「だから、俺は明乃からそんな簡単に離れていかないって。

これでも俺ちゃんと明乃が好きなんだよ」

「!」

「クラスで独りぼっちなら、これからも休み時間になったら毎回俺んとこ来たらいいじゃん。

明乃が寂しいなら俺も嫌とは言わないし」


お前には俺がいるから、と。

普段ならこんな恥ずかしいセリフは絶対口にしないけれど、明乃があまりにも泣くから普段言わないセリフがぽろぽろ出てくる。

だけど俺のその言葉に明乃はやっと安心してくれたようで、その語可愛い笑顔を見せてくれた。


「…永久くん、今度の土曜日、私の家に遊びに来てよ」

「え、いいの!?」

「うん。お母さんが、永久くんに会いたがってるんだ」


そして、その後聞いた話によると、明乃が俺に家の場所を教えないのは、明乃のお父さんが恋愛に厳しい人だかららしい。

せめて高校生を卒業するまではお父さんに会わせられない、と明乃は教えてくれた。


俺たちは付き合いだしてまだまだ数か月だけど、これから少しずつお互いを知って行こう。








「あ、そうだ永久くん。永久くんのスマホそろそろ返して」

「え、もうそういうのしないんじゃないの!?」

「…そんなこと一言も言ってないけど?」









END

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めんどくさい女との付き合い方 みららぐ @misamisa21

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