明乃視点:私が永久くんの彼女です。

別に、永久くんの調査自体は好きでやっているわけじゃない。


「月岡ぁ?アイツ今日ずっと寝てたぞ、俺の授業中」

「そうですか。なら良かったです」

「いや良くねぇし!終始爆睡、彼女のお前からも何か言ってやれよっ」

「…了解ですー」


実はこの瞬間、毎回嫌な意味でドキドキしてる。

永久くんが、誰といつ何をしていたのかを知りたくないと思う私もいるから。

でもこうやって調べてしまうのは、永久くんと離れたくないと思う故のもの。

私が知らない間に誰かと何かあったら、ほんと、嫌すぎるから。

だから、こうやって調べることによって、そして彼に実際注意することによって、事前に塞げたらいいなぁなんて、思って。


自分に自信がなさすぎる。

ことは、自分でもわかってる。

だけど仕方ないじゃん。

だって永久くんと私、それぞれの人間関係は、まるで天と地の差なのだから。


職員室を出て永久くんの教室に行くと、まだ呼んでないのに永久くんの友達が永久くんを呼んでくれた。



「永久ー。また彼女来てんぞ」



永久くんって、ほんと友達が多い。

私が阻止してるから近づかないけど、周りの女子だって離れたところから永久くんを見てる。

永久くんは友達と何かを話してるけどこっちには聞こえなくて、

私はただ入り口で永久くんを待っていた。

…待っていたら、教室から出ていく女子数名がすれ違いざまに言った。



「永久くんに嫌われてるって、いい加減気づいたら?」

「やめなよ、かわいそ~」



そう言いながら、悪戯に笑いあって、教室を後にする。

…大丈夫。そういう風に言われるのは、もう慣れてる。

私はそう思うと、「あ、そういえば」とふいにあることを思い出して、カバンから永久くんの数学のノートを取り出した。

これ、永久くんに言っとかなきゃ。

そう思っていると、やっと永久くんが私のところにやってきた。



「おっそい永久くん」

「ごめん。あの、スマ」

「それより、さっき職員室行ったんだけど、これどういうことなの?」

「…?」



永久くんが何かを言いかけたけど、私はその言葉を遮って言う。

数学のノートの先生の一言メッセージ。

それくらいで?って思わないでよね。

先生と生徒の恋愛なんて普通にあるし、この数学の先生は男子に甘くて女子に厳しいって有名だし。

永久くんは自分が予想してる以上に女子たちにモテてること、ほんとに気づいたほうがいい。

だけど永久くんは気づかなくて、不思議そうな顔をするから私は教えてあげた。



「よく見て!この右下の赤ペン!」

「……え、なに。別に何もないじゃん」

「っ~、もう!赤ペンで“よくできました”って書いてあるじゃない!」

「いやそれは書いてあるけど、別に普通じゃ」

「普通じゃない!数学の担当の先生ってウチの学校女しかいないんだけど!」



私の気持ちをもっと知って言うこと聞いてほしいのに、永久くんは鈍感だ。

何でいつも同じ心配をしてる私に対して「気をつけなきゃ」って思ってくれないんだろう。

私が不機嫌な顔をしていると、そんな私に永久くんが言う。



「別に、宿題が全問正解してるから、“よくできました”って意味だろ。っつか職員室でそうやって俺の行動毎日調査するのやめてくんない?マジで」

「…」



そう言われて、ちょっとショックで私は黙り込む。

…永久くんって、ほんとに私のこと好きなのかな。

そう思っては、ついさっき女子たちに言われた言葉が頭をよぎった。



『永久くんに嫌われてるって、いい加減気づいたら?』



…もしかしてアレ、ほんとの話、なのかな。

私はそう不安になりながら、永久くんに言った。



「…だって永久くんのクラスの数学担当してる先生、美人だし」

「まぁね」

「私のクラスの男子だってみんな好きって言うし」



…だから、永久くんも好きなのかなって、思うじゃん。

だけどそんな私の不安をよそに、永久くんはやがて私に「スマホ出して」と言い出した。

それも私的にはすっごいヤダ。



「…ええ、何するの?」

「いや何でそんな嫌そうな顔するの?」

「…別にいいけど、変なことしないでね」



私はそう言うと、渋々カバンから永久くんのスマホを取り出して、永久くんに渡す。



「最近はなくなってきたけどさ、永久くんのスマホってしょっちゅうラインくるじゃん?あれも私的に嫌なんだよね」

「…、」

「ってか、担任の先生の連絡先?それも入ってるの気に食わないんだけど。永久くんの担任って女だし。すごい不快」



…でも、私がそう言っても、永久くんは返事をしない。

そんな彼に私がため息を吐くと、その直後に特に気にしていない様子の永久くんが言った。



「明乃、顔上げて」

「…うん?」



その声に、なに、と顔を上げると、いつのまにかスマホのカメラを向けられていて。

私が髪を整える間もあるはずもなく、永久くんはパシャリと写真を撮った。



「…いきなり何。ってかあたし目瞑ってなかった?」

「え、瞑ってないよ。…ハイ。用が終わったからスマホ返す」

「ん、」



永久くんはそう言うと、素直に私にスマホを渡す。

そう。永久くんはこれをもう自身の家に持ち込めないのだ。

だって、家に持ち帰ったりなんかしたら他の女と連絡をとっちゃうかもしれないでしょ?

私のこと、独りぼっちにしてほしくないから、浮気防止。

でも永久くんは私の前を先に歩き出して、言った。



「それ、今撮った画像、後で俺のスマホの壁紙にしといてー」

「!」



その言葉を聞いて、単純に嬉しくなって、またさっきの女子からの言葉を思い出す。



『永久くんに嫌われてるって、いい加減気づいたら?』



…そんなわけ、ないか。

何だか永久くんの気持ちが少し目に見えたようで、私は思わず顔が綻んだ。



「っ、もー永久くん好きぃー」



絶対絶対他の女に渡さない。

改めてそう心に誓った帰り道だった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る