めんどくさい女との付き合い方

みららぐ

永久視点:好きな人はストーカー

いったい、いつからだろうか。

俺の周りに、所謂「女子」が集まらなくなったのは。


「永久(とわ)ー。また彼女来てんぞ」

「…おー」

「お前の彼女相変わらずだよなー。まさに見た目だけで得してる感じ?」


ご愁傷様、と。

俺の肩にポン、と手をやって、やがて放課後の教室を後にしていくそいつ。

その見慣れた背中に目を向ければ、その時に自然と視界に入ってくるのは彼女の明乃(あきの)の姿。

明乃は今日も…いや、“今も”、教室の入り口に立って、そこから笑顔で俺を見つめている。


竹原明乃。

と、名前を聞けば、この学校に通っている誰もがみんな顔をしかめるだろう。

だけど、それもそのはず。

なぜなら彼女は、所謂「束縛」が酷い。

いや、酷いというより明らかに度が過ぎているのだ。

というか、「束縛」という言葉におさめていいのだろうか。


例えば、俺がいつも使っている…いや、使っていいはずのスマホ。

しかしそのスマホはいつも、何故か明乃がずっと管理していたりする。

あとは、普段なら自由にしていていいはずの休み時間。

明乃は必ずと言っていいほど毎回俺のクラスにやってくる。

クラスは離れていて、しかも教室もわりと遠くのほうに位置するのに、「永久くんに会いたいから」と。

…いや、彼女の理由はきっとそれだけじゃない。


明乃は…


「監視、ですね」

「!?」

「貴方の彼女です。付き合っているとはいえ、彼女の行為は明らかにストーカーですよ」

「…す、ストーカーて」

「厄介な女に惚れられましたね」


そして、俺が明乃の元に行こうとすると、それを遮るように他の友達からそう言われた。

“厄介な女”“ストーカー”。その言葉も、もう何度言われただろうか。

でも俺は、明乃に聞こえないような小さい声で言う。


「…まぁ、俺が良くて付き合ってるわけだから」

「…マジですか」

「ん、マジ。じゃあな」


そして俺は友達にそう言葉を返すと、やがてやっと明乃のそばに行く。


高校の入学式から、明乃と付き合い始めたほんの数か月前まで。

俺の高校生活は物凄く充実していた。

中学の時は真っ黒だった髪も少しだけ明るく染めて、身長もぐっと伸びたせいか、だんだんと女子生徒からモテるようになって、告白なんて毎日必ずされていて。

それに帰宅部だけど友達だって増えて、誰かと一緒にいない日なんてなかった。

女子生徒にもしょっちゅう囲まれてちやほやされていた。

それなのに今は…


「おっそい永久くん」

「ごめん。あの、スマ」

「それより、さっき職員室行ったんだけど、これどういうことなの?」

「…?」


スマホ一旦返してくんない?

そう言いかけたら、それを遮るように、明乃が目の前に一冊のノートを開いて俺に見せる。

そのノートは確か、午前中に先生に提出した俺の数学のノートだ。

このノートがどうかしたかと聞くと、明乃が不機嫌に言った。


「よく見て!この右下の赤ペン!」

「……え、なに。別に何もないじゃん」

「っ~、もう!赤ペンで“よくできました”って書いてあるじゃない!」

「いやそれは書いてあるけど、別に普通じゃ」


それは別に数学の授業を担当してる先生のほんの一言のメッセージなのに。

明乃はこれも気に入らないらしく、またしても俺の言葉を遮って言った。


「普通じゃない!数学の担当の先生ってウチの学校女しかいないんだけど!」

「別に、宿題が全問正解してるから、“よくできました”って意味だろ。っつか職員室でそうやって俺の行動毎日調査するのやめてくんない?マジで」


ついでに言ってしまえば、これもそうだ。

明乃は自分のクラスのSHRが終わると、こうやって職員室に行ってはその日の俺の授業態度、ちょっとでも雑談していた相手、提出したもの…等いろんな物事をチェックする。

そして、俺のクラスにやって来るのだ。

…ちなみに明乃は、俺が明乃のクラスに行くことは許さない。

だから俺は、明乃のクラスの様子をほとんど知らなかったりする。


「…だって永久くんのクラスの数学担当してる先生、美人だし」

「まぁね」

「私のクラスの男子だってみんな好きって言うし」

「いや他の男と一緒にすんなし」

「…あっ。あと、国語の授業中はずっと寝てたって先生怒ってたよ」

「…」


それすげぇ心当たりあるわ。いや寧ろ心当たりしかないわ。

俺は明乃の言葉に内心そう思うけど、その言葉をあえてスルーする。

そして代わりに、さっき言いかけた言葉を言った。


「ね、一旦スマホ出して。俺のスマホ」

「…ええ、何するの?」

「いや何でそんな嫌そうな顔するの?」

「…別にいいけど、変なことしないでね」


明乃はそう言うと、物凄く嫌そうに俺にスマホを差し出す。

もう本当に俺のスマホが明乃の物になってるな。

俺は久しぶりにスマホを開くと、とりあえず先に来ている通知を確認した。


「最近はなくなってきたけどさ、永久くんのスマホってしょっちゅうラインくるじゃん?あれも私的に嫌なんだよね」

「…、」

「ってか、担任の先生の連絡先?それも入ってるの気に食わないんだけど。永久くんの担任って女だし。すごい不快」


明乃は俺の隣でそう言うと、「はぁ…」と深いため息を吐く。

…そんなに俺のこと信用できないのな。

俺はそんな明乃を横目にカメラを起動すると、それを自分たちに向けて明乃に言った。


「明乃、顔上げて」

「…うん?」


そう言って、明乃が顔を上げたタイミングを見計らって、パシャリ、と。

突然、ツーショットを撮る俺。

さっきからずっと不機嫌だから、ちょっとでも笑ってほしくて。

だけど明乃はそんな俺の行動にちょっと不満そうに言った。


「…いきなり何。ってかあたし目瞑ってなかった?」

「え、瞑ってないよ。…ハイ。用が終わったからスマホ返す」

「ん、」

「それ、今撮った画像、後で俺のスマホの壁紙にしといてー」

「!」


…っつか、普通に言ってしまったけど。

「スマホ返す」って、元は俺のスマホだったな。

しかし俺が何気なくまた明乃に目をやると、一方の明乃はさっき撮った画像を見ながら嬉しそうに頬を赤らめていて…。

…ほら、な。

こういうところが、俺の、明乃の好きなところなんだよ。


そんな明乃の顔を見ながら、俺も思わず顔が綻んだ…。






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