第31話
剛はアリスの手に鯛焼きを握らせる。
「食え食え」
「フフ」
笑って、一口食べるアリス。
「幸せになっとってほしかった。あたしを捨てたからこそ、幸せになっとってほしかったんよ。じゃないとあたしの捨てられた意味は?」
「男を恨んでいるか?」
「……」
ツィーっと視線を逸らすアリスに、気づいてしまう剛。
「……殺ったのか」
「なんでやねんっ!!」
「え?」
「何が、え?や。アホ!!殺ってへんわ」
「お……おお、そうか。てっきりお前のことだから殺ったのかと」
「あたしをなんだと思ってんねん」
「……」
今度は剛が目を逸らす番だった。
ソレにヤレヤレって顔をするアリス。
「よーわかった。……まっ、“殺って”はおらんってだけやしな」
「それは……」
「死んだ方がマシやって思いはさせ“とる”」
現在進行系ーー。
それはそれは満足そうに嗤うアリスに、やはりアリスはアリスだと思う剛だった。
「虹の家を出された後、あたしは引き取り先の親の元へ連れて行かれたけど、そこの養父が性的虐待しようとしてきたから」
「あ”!?」
剛の表情が凶悪に歪む。
「フフ、大丈夫や。二度とそんなこと出来んように金○潰したったから」
「……」
綺麗な笑顔で言うアリスに、通りすがりの男達がキュッと大事な所を隠すように内股歩きになっていた。
「まっ、んなことするガキを育てようなんて思わんわな。すぐに家から追い出されたわ」
ケロッと言ってのけたアリスは残っていた鯛焼きを一口で食べた。
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