第30話

「ご歓談中失礼します。お茶をどうぞ」




と店員がお茶を二人に持ってきてくれた。



二人はありがたくそれを受け取り、もう2つ鯛焼きを頼む。




「母を……捜した」




そう言って、アリスはゆっくりとお茶を飲んだ。




「そうか」




剛もお茶を飲みながら頷く。



鯛焼きにとても良く合うお茶だった。





見つけたか?とは聞かない。



弟達をこの短時間で見つけてくれたアリスだ。



見つけられないはすがない。



話してくれるのを待つ。




「野垂れ死んどったわ」



「……」



「もう、10年も前に」



「10年……」




淡々と話すアリス。


しかしその切れ長の青い瞳にあるのは深い悲しみ。



赤ちゃんの頃、捨てられた剛にはわからない。



けれどアリスがツラいと剛もツラい。



アリスの頭を自分の肩に乗せ、その頭を撫でる。




「なんやなんや、優しいなぁ?剛」



「俺はいつも優しいだろうが」



「……そうやな。優しいな」




剛の肩に体重を預けたアリスは目を閉じる。




「……あの」




店員が鯛焼きを2つ持ってきた。



受け取って金を払う間、アリスはピクリとも動かない。



そうしているとお人形のようだ。



美しいビスクドール。



女の店員もしばし見惚れていた。




「ちょーっとぉー!!」



「はーい!!今戻ります!!」




声を掛けられ、正気に戻った店員は二人に頭を下げると戻っていく。




「再婚相手にボロ雑巾のようになるまで働かされ、最後は捨てられて……心筋梗塞の孤独死やったそうや」



「……そうか」




それしか言えない剛は、静かに涙を流すアリスの頬を袖で拭く。




「あたしを捨ててまで、選んだ男やのにな。見る目がなかったんやなぁ……母さん」

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