第26話

「アリス、好物件ってのは……」




歩いて数分。



ブラブラして目的地がないように見えるアリスに、剛が口を開く……が。




「剛」



「うん?」



「何を悩んどんねん」



「っっ!?」



「え?なにそのビックリ顔。殴ったろか」




ググッと拳を握るアリス。




「すんません。勘弁してください」




アリスの本気を感じ取った剛はすぐに謝る。




「わかるか?」



「何年、アンタのお姉ちゃんをやっとると思っとんねん」




姉兄弟の中で、一番長く共に過ごしてきた二人。


そして剛大好きのアリスである。



長い間、離れ離れだったけれど、わからない訳がないのだ。




「好物件は?」



「嘘や。探してくれてるのは本当やけど」




8人が住めて店も開く、ともなるとなかなか難しい。




「色々考えてくれとる」



「そうか」




少しの沈黙……のち。




「俺は……なんもねぇな、と思って」



「は?」



「四季は料理人、凪沙は美容師、世那はカメラマン。皆しっかりとやりたいこと、なりたいものになってる」




後、二人のことはまだわからないけれど。




「正義は?」



「「………」」




アリスの問いに沈黙する二人。




「……正義はこれからだろ。若いし」



「いや、アンタも十分若いがな」




呆れ顔で言うアリス。


しかし剛は首を振る。




「夢見て、叶えるには遅い。それに……」



「それに??」




苦笑する剛。




「やりたいことがねぇ」




ずっと姉弟達と暮らすことだけを思って働いてきた剛は今更ながらに気付いた。



しっかり前を見て生きてきた弟達に気付かされた。



自分がやりたいこともない、つまらない人間だと。

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