第14話

「僕は"こんな"だからね。一人でも生きていけるように、手に職をつけたかったんだ。その中で一番良いなぁって思ったのが美容師で」




準備が出来て、"じゃあ切るねー"なんて軽い口調のまま凪沙が語ったことは中々に重いものだった。



"こんな"とは性癖のこと。



男の自分が男しか愛せないこと。



それに気付いたときの凪沙の衝撃は、どれ程のものだったか……。



剛には想像もつかなかった。



だから聞く。




「辛かったか?」




と。




「そりゃあ……ね。何度も死にたいって思ったよ」



「っっ」




あっけらかんと言われた言葉に、剛は息を飲んだ。



「見つかるパートナーも何故かいつもダメンズでさ」



「……」





さっきアリスと剛で気絶させた男は、凪沙の現パートナーだったと知った剛。



正義を殴ろうとしたことで、ほとほと愛想が尽きて別れることにしたのだという。


それをアリスが伝えたところ、逆上してまたしても正義を殴ろうとしたのをアリスが止め、男を放り投げたとのことだった。



……。



事情を知らなかったとはいえ、頭ごなしにアリスと正義を怒ってしまったことを剛は後悔する。




「束縛が強かったり、暴力をふるう奴もいた。将来、自分のお店を持ちたくて貯めたお金を勝手に持っていく奴も……」





本当に聞けば聞くほど、ダメンズばかりだった。



凪沙が優しいから、寄ってくるのか……。



凪沙の瞳から光が消えていく。



剛が凪沙の過去の男達全て殴り倒してやろうかと本気で考えていると





「でもね」



「ん?」



「約束を忘れたことはなかったよ」



「凪沙……」



「約束があったから生きてこれたんだよ」




光を取り戻した瞳を柔らかく細め、穏やかに凪沙が笑う。




約束。




"いつかまた姉弟で仲良く暮らすんだー"

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る