第13話【お邪魔しま~す ー後編ー 】

「わし、UMO好きや」


「よかった~」


「小学校の修学旅行ぶりにやったけど、やっぱ楽しいね」


「ね~。でもまさか銀ちゃんにも負けるとは……無念」


 玲は、頭を抱え悔しがる麻美の背中を優しく撫で、「よしよし、次は頑張ろうねー」と言って慰めた。その時、不意に麻美の背後に置いてあった荷物に足が当たってしまった。


「あ、ごめん蹴っちゃった」


「全然大丈夫だよ~」


「てか、この大きな荷物は何なの? 来た時から気になってたんだけど」


「ふっふっふ、気になっちゃいましたか~。では諸君、今日のメーンイベントと行こうじゃないか!」


「お、なんや。UMOよりオモロいもんがまだあんのかいな」


「銀ちゃんに楽しんで貰えそうな玩具を探してたら、兄ちゃんが昔遊んでたコレを見つけたんだ~」


「まさか、勝手に持って来たの?」


「ちゃんと許可は得てるよ~。もうやらないから、気に入ったのならあげてもいいって言ってたし」


「なんやなんや。勿体ぶらずに早よ開けぇな」


「はいは~い。では……ご開帳〜」


 大きな袋から出てきたのは、玲にも見覚えのあるパッケージの玩具であった。


「あー『野球ボード』だね! おもちゃ屋さんで見たことある」


「そそ。これなら銀ちゃんも遊べそうでしょ!」


「確かにいいかも」


「野球ボード、言うたか? 野球なら大川のおっちゃんとやったことあるけど、野球ボード言うのは初めてやな」


「玲、大川のおっちゃんって誰?」


「銀ちゃんの飼育員してた人だよ。銀ちゃんに言葉教えた人でもあるんだ」


「おぉ……大川のおっちゃんさんのお陰で、今この尊き時間を過ごせているという訳ですな。大川のおっちゃんさん、感謝永遠に」


「なんか往生したみたいな言い方やけど、まだご健在やで。今は淡路島にあるウェールズの丘いう所でコアラの飼育員やっとるはずや」


「そこで、銀ちゃん第二号を養成してるかもだね~」


「どやろな」


「雑談はこのくらいにして、野球ボードやっていきましょうかね~」


「私もやったことないので、麻美先生ご教示お願い致します」


「ふむ、よかろう。ではまずお手本として、うちと玲でやってみるから、銀ちゃんはちょっと見ててね~」


「はいよ」


「始めに、じゃんけんして勝った人が、先に打つ人やるか、投げる人やるか決めます」


 二人は、「じゃんけんポン」という掛け声と共に、玲はグーを、麻美はパーを出した。


「あ、うちの勝ちだから、先に打つ方やろうかな~」


「おっけー」


「では、投げる人……のこと何て言ったっけ?」


「ピッチャーじゃない?」


「そう、それ。玲がピッチャーね。ここの溝にボールをセットして、ここのレバーを引いて離すと、ほらこの通りボールが投げられま~す」


「なるほど。レバーの引く力を調整したら早いボールと遅いボールが投げ分けられるって書いてある」


「撃たれないようにするには、駆け引きが重要だからね~」


「投げ方はよう分かったから、次は打つ方の説明よろしゅう」


「りょ。……で、打つ人は何て言うんだっけ」


「……バットマン?」


「それ、黒いスーパーマンみたいな奴じゃね?」


「ちょっとお調べ致しますね。少々お待ち下さいませ……あ、惜しい。バッターだった」


「聞いたことある!」


「なんや二人とも全然野球の知識ないやないか」


「実は野球したこと一度もないんだよね~。兄ちゃんが小学生の頃にやってたのを少し見てたくらいで、そんなに興味無かったし」


「うちのお父さんは、休みの日はいつもテレビで野球観てるけど、私もあまり興味持って見た事ない」


「大川のおっちゃんも、野球は女子より男子に人気なスポーツやとは言うてたな」


「そそ、だからルールとか聞かれても分からんのですよ~。あはは~」


「なんとなく楽しく遊べたらいいんじゃないかな」


「玲の言う通り! で、何だったっけ? あぁ、打ち方の説明の続きだね。打つ方は、こっちのレバーを引いて放すとバットが振れま~す。投げたボールにタイミング良く当てられたらオッケーです」


「単純だけど、意外と難しそうだね」


「じゃあ玲とうちで、デモンストレーションがてら、第一回戦やってみようか」


「そうだね、やるからには負けないよ」


「臨む所だ!」




「へっへーん。楽勝だったな~」


 そう言う麻美だったが、内心はUMOの面目躍如めんもくやくじょができてよかったと安堵していた。


「全然当たらなかったよぉ。そしてめっちゃ打たれたよぉ。銀ちゃん! 私のかたきってきて」


「りょーかいや。頭の中での練習はバッチシ出来てあんで」


「初心者とはいえ、手加減はしまへんで~。いざ尋常に勝負だ!」


「わし、先打たせてもろてえぇか?」


「もちろん。じゃあ、うちがピッチャーで始めるよ~」


「よっしゃ、こーい!」


「ピッチャー、第一球……投げた!」


「おりゃぁぁぁぁ」


 銀仁朗の気合とは裏腹に、バットは見事に空を切った。


「空振りで1ストラーイク」


「よ、よし。次は当てたんで」


「第二球、投げまーす」


「おりゃ! お、当たった」


「でもファールだから2ストライクだね。これで追い込んだよ〜」


「大丈夫や、今のでコツ掴んだわ」


「ふっふっふ。絶対抑えてやんよ……」


「その自信、わしのバットでへし折ったる!」


「第三球……投げました!」


「うぉりゃ! って、はぁ⁈」


 麻美が投じた三球目は、突然どこかに消え、銀仁朗のバットは再び空を切った。


「よっしゃー! 空振り三振‼」


「ちょちょちょ、ちょ待てよ! おかしいやん、玉消えてもたやん」


「そだね~、消えたね~」


「なんでやねん!」


「必殺の……だよ!」


 麻美はドヤ顔を決めながらそう言い放った。


「いや、玉消えるとか聞いてへんがな」


「うん、言ってないもん」


「卑怯や……この娘、むっちゃ卑怯や!」


「勝つ為には何でもやるぜ、うちは。これが本当のじゃい!」


 玲は、慈悲深い仏の様な顔をしながら麻美を見て言う。


「麻美さん、素人相手に大人気無いですわよ」


「ゔっ、玲様……。そんな顔で私を見ないでぇ~」


「とりあえず、さっきのやり方をきちんと我々にも教えて下さいますか?」


「はっ、はい喜んでぇ~」


「ゲームはフェアでなくっちゃね」




 銀仁朗の第一打席は、麻美の隠し玉作戦による波乱の幕切れとなったが、その後は思いの外白熱した戦いとなった。


「銀ちゃんやるねぇ~。初めてなのにホームランまで打っちゃうし!」


「でも、結果はわしの負けや。悔しいのぉ」


「その気持ち、よ~く分かるよ。うちも、兄ちゃんにずっとコテンパンにされてきたからね~」


「もっかいやろ。今度は玲とわしでやろか」


「最下位決定戦だね~」


「麻美、うちら初心者なんだから、そんな言い方しないでよ」


「ごめんごめん。でも気に入ってくれたみたいで嬉しいなぁ」


「わし、野球ボード好っきゃ」


「ならあげるよ。兄ちゃんからは許可貰ってるし!」


「ホンマか! 嬉しいなぁ。ありがとう麻美。お礼に、ユーカリたんまり分けたるな」


「だからいらねーって」


 麻美がそう言うと、部屋の中は笑い声に包まれた。




「お邪魔しました~」


「あら、麻美ちゃん。もう帰るの?」


「銀ちゃん、遊び疲れたみたいで寝ちゃいましたし」


「そう。相手してくれてありがとうね。またいつでもいらしてね」


「ありがとうございます。あ、桜ちゃん! 大きくなったね~。玲に少し似てきたね~」


「麻美ちゃん……うちも一緒に遊びたかったなぁ。今度来たときは、うちも一緒に遊んで良い?」


 まだ、あどけなさが残る少女からの可愛い懇願こんがんに、麻美の変なスイッチが入った。


「大原家……何て尊いの! 銀ちゃんも、桜ちゃんも可愛いが過ぎるんすけどぉ~‼」


「麻美、落ち着いて。鼻息が荒くなってる。今日は本当に来てくれてありがとね。銀ちゃんもすっごく喜んでた。野球ボードのお礼、お兄さんに言っておいてね」


「わかった。伝えとく」


「そだ! 持って帰る?」


「何を?」


「ユーカリ」


「いらんわ」


「だよねー」


 再び二人は仲良く笑い合うと、麻美は玲の家を後にした。

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