第9話【カミングアウト】
玲と麻美は、昼休みに教室でお弁当を広げていた。
「さてさてー、本日も待ち
「麻美、なんで侍口調なん。やめて」
「何故で御座るか。いつものことで御座ろう」
「昨日何のアニメ観たの?」
「刀剣シリーズに決まっておろう。
「だと思った。麻美本当好きだよね、あれ」
「玲殿も、秋に新シリーズが始まるが故、それまでに過去作を
「来週から期末でしょ。そんな余裕無いよ」
「
「冗談言ってないで、ちゃんと勉強しときなよ」
「ほーい。あ、そう言えば話変わるけど、前に話してたコアラのマッチョの懸賞って応募したんだよね? やっぱ当たらなかった?」
玲はその質問を聞くや、無意識に視線を外し、左手で首の後ろを触りながら口ごもった。
「……あ、あ、うん。そだねー。当たる訳ないよねー」
「えっ、えっ、待って待って。今、目逸らしながら
「あー、またやっちゃってた……」
「あぁぁぁ、あんたまさか……コア、ングァ」
玲は、禁句とも言えるその言葉を発しようとした麻美の口を、
「イ……イギガ……デギ……」
「あっ、ごめん!」
麻美は白目を剥き、意識を失い倒れ……はしなかったが、本当に息苦しかった様で、玲の手が離れた瞬間、ハァハァと大きく肩を動かしながら呼吸をし、寸刻ぶりの空気を肺一杯に取り込んだ。
「なっ、何すんのさ! マジで死ぬかと思ったじゃん‼」
「ご、ごめん。つい……」
「つい……の強さじゃなかったよ! 何か私悪い事した⁉」
「本当に、ごめんなさい」
「……玲がこんな事するなんて、何か訳があるんでしょ。理由教えてくれたら許してあげるから、ちゃんと話して」
玲は、頭の中で阿保先生の言葉を
『
だが、不用意とはいえ、親友に暴力を振るった形になってしまったことに対し、とても申し訳無いという気持ちが
「本当にごめんなさい……」
「うん。いいから、ワケを話して」
玲は心を落ち着かそうと、目を
「今から言う事は、絶対に誰にも話さないって約束できる?」
「出来る。約束する」
「大きい声も出さない?」
「わかった。小さい声出す」
「冗談言わないで、真面目に応えて」
「す、すんませんっ」
麻美は、襟を正し、再び玲に真っ直ぐな目を向けた。
「玲の言う事なら絶対守る。誰にも言わないって約束します」
「……ありがとう。じゃあ正直に言うよ」
麻美は、固唾を飲み、玲の言葉を待つ。
「実は……当たったんだ」
麻美はその言葉を聞くや、元々大きい目をさらに見開いた。まさかのカミングアウトに仰天の声を上げたい気持ちが芽生えたが、約束通りそれを自重し、小声で質問をした。
「じゃ、じゃあ……今居るの? 玲の家に」
その問いに、玲は小さく首を縦に振った。
「まっ……」
麻美は、再び大きな声を出しそうになったが、今度は自らの手で口を押さえ、驚嘆の言葉を遮り、何とか平生を保たせた。
「え、えらいことになりましたなぁ~」
「そうなんだよ。急だったし、分からないことだらけだし。こないだ近所の動物病院行って、先生からお話聞いてきたんだけどね」
「え? 何か具合でも悪かったの?」
「そういうのじゃなくて、飼育方法とかのアドバイスを先生に聞きに行っただけ。でも、先生もアレをペットで飼う人なんていないからなぁ、って困ってた」
「で、でしょうねぇ~。でも何とかなりそうなの?」
「今のところは。名前、銀ちゃんって言うんだけど、銀ちゃんとても賢くて……いや、賢過ぎるかな。とにかく、手はあまり掛からないから、何とかなりそうかな」
「銀ちゃんかぁ。うちも見てみたいなぁ~」
「その内に……ね。とにかく、私たちは目先のテストを頑張らなくっちゃだよ」
「じゃあ、テスト頑張ったら、久々に玲の家に招待してよ!」
「頑張ったらねー」
「うっしゃ~!
「もー、調子良いんだから麻美は」
「へへっ。……ありがとね。ちゃんと話してくれて」
「先生から、この件はあまり口外しないようにって言われてるんだけど、麻美なら大丈夫かなって思えたから」
「うん。その気持ちに応えられるように、絶対に誰にも話さないでおくよ」
「ありがと」
「もし約束を
「その時は、
「え怖っ。そこは止とめる方向でツッコんできてよ」
「あははは」
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