第46話 白髪の美少女と魔族自衛官

(ホント失礼な奴だな。美亜が悲しむとか、弁護士をつけるとか、それにこの子を人質にしたとか……って、この子もこの子で俺たちに構わずなんかしてるし)


 後ろに視線を向けると、白髪の少女はカプセルのコントロールパネルらしきものを弄っていた。


「では説明してください。事と次第によっては日向さんを拘束します」

「くそっ、凪のヤツ。幼馴染のくせに信用ゼロかよ」


 俺は一つため息をついてから凪に向き直る。


「えっと、市役所に行ったら怪異連合のテロに巻き込まれて、それで逃げたんだけど、逃げ場所がもうトラックのコンテナしかなくて隠れてたらここまで運ばれたんだよ」

「そうですか……わざわざこのコンテナを選ぶなんて運がありませんね」


 哀れむように言うと、凪がようやく銃口を下ろしてくれた。


(凪の口ぶりからするとやっぱり、奴らの狙いはこのコンテナか)


 凪が俺から視線をそらした。その視線を追ってみると、白髪の少女がカプセルのコントロールパネルを弄り続けている。


「ところで、そっちの少女も巻き込まれただけですか?」

「いやこの子は最初から乗ってた」

「最初から?」

「どういうわけか、このカプセルの中に入ってたんだよ。トラックはこの子を運んでたみたいだし、一体どういうことなんだ……?」

「え? その子を運んでたって……私が聞いた話では……」


 二人して沈黙する俺と凪をよそに、白髪の少女はカプセルの台座のロックを外し、金属パネルをスライドさせると、そこからスマホを取り出し、パーカーのポケットに入れた。

 白髪の少女が俺の横に立ってくる。


「そろそろここに応援が来ます。日向さん、CRATに気をつけてください」

「なんでわかるだ……?」


 来るってCRATのことだろうけど、通信機を持ってないのになんでこの少女はわかるんだ?

 俺がそう思ったところで、凪がCRATに報告をする。


「民間人を二名保護しました。運転手のテロリストを射殺し、倉庫内はクリア…………そうですか、応援が……わかりました。この場で待機しています」


 なんていうか、ちょっとだけぞっとした。


(この少女、ここに応援が来るって言い当てたし、それにCRATに気をつけろって……おかしいだろ。俺は巻き込まれただけだぞ? まだCRATを警戒しなくてもいいだろ)


 作り物のように整った白髪の少女の顔を俺は見つめた。

 無表情だから何を考えてるかわからない。でも心なしかさっきよりも目つきが鋭く感じる。なにかの決意か、それとも覚悟か……とにかく良いことじゃなさそうだ。


「二人ともついて来てください。あなたたちを保護しますから」

「ああわかった。これで一安心だな……」

「……」


 トラックのコンテナから降り、俺と白髪の少女は凪についていく。

 入り口のシャッターの方から差し込む陽光は、だいぶ傾いているのか茜色あかねいろだ。

 倉庫内は酷い有様だ。トラックに突っ込まれたからそこらへんに段ボールが散らばり、段ボールを積んだ棚は吹っ飛んでいる。だが、入り口の方はそれほど散らかっていなかった。

 シャッターの方に十人ほどの人影が見えてくる。ごつい装甲服を着たCRAT隊員たちだ。


「応援が来ました。もう大丈夫ですよ」

「そうだな――」

「お待ちを」


 凪の言葉に頷いたところで、俺は白髪の少女に手を引っ張られ、思わず立ち止まる。


「なんだよ、急に」

「この距離を保ってください」


 少女は小声でそう言うと、パーカーのポケットに手を入れて指をモゾモゾと動かした。


(スマホを弄ってるのか? CRATに見えないように……)


 不審に思った俺は眉をひそめる。


「なぜだ?」

「このままでは、私たちは彼らに拘束されてしまいます。そうならないためにある程度距離をとる必要があります」

「いや、なんで拘束されるんだよ。さっきも言ったけど、テロリストじゃないんだから――」


 白髪の少女の手から震えが伝わったところで、俺は言葉を切った。


(怯えてる? CRATに? なんで……? この子は怪異連合に狙われてたんだからCRATにとって護るべき対象なはずだろ。なんで怯える必要があるんだ?)


 気になることはあるが、とりあえずここは彼女に従っておいた方がよさそうだ。


(次回に続く)



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