第45話 秘密のコンテナ

 銃声が響くと、トラックが蛇行し、急ブレーキをかけながらどこかへ突っ込んだ。

 カゴゴッと視界が激しく揺れ、内俺――日向は大きく跳ねた。


「――ぐ……っ!」


 コンテナの天井に身体を打ちつけ、内側のコンテナの屋根から転がり落ちる。


「痛ぇ……」


 どこかにぶつかったのか、トラックが止まると俺はよろよろと起き上がった。

 鬼の身体でよかった。身体中を打ちつけた痛みはあるが、大した怪我はない。

 ピピーッ。

 起き上がるときに内側に設置されたコンテナに触れたからか、電子音が響いた。コンテナが開き、中から明かりがこぼれてくる。


「人……?」


 内側のコンテナに入っていたのは、小柄な少女だった。透明なカプセルの中に、棺のように安置されている。

 綺麗な子だ。髪は白髪でサラサラとしたミディアムヘア。アホ毛がぴんっと跳ねていて可愛い。


「なんでこんなカプセルで運ばれてるんだ?」


 ぷしゅー……。


「んぅ~……ふぅ……」


 カプセルが開き、少女が上半身を起こし、気持ちよさそうに伸びをする。それから透き通るような青い瞳を俺に向けてくる。


「な、なんなんだ……お前は……?」


 困惑する俺から目をそらし、少女はカプセルの台座から下りると、綺麗にお辞儀をした。


「お初にお目にかかります、日向さん」


 服装は赤黒のラインが入った白いパーカーに、黒いミニスカートで全体的にカジュアルな印象なのに、やけに礼儀正しい。育ちの良いお嬢さんという感じだ。


「え……なんで、俺の名前を知ってるんだ……? それに、なんでコンテナで運ばれてたんだ?」

「状況は把握しております。怪異連合の強襲を受けて私たちは拉致されました」


 少女は顔を上げ、報告を続ける。


中央塔セントラルタワーから大通りを避けて海沿いの物流センターに向かっていたようです。おそらくステルス性が高い潜水艦を用意しているのでしょう。潜水艦で運べばCRATの追跡から逃れられますので」


「ずっとカプセルの中だったのに、なんでそこまで知ってるんだ……?」

「その作戦もCRAT隊員に阻まれました。銃弾が運転手に命中し、倉庫にトラックが突っ込んで停車したのです」


 この少女はなんだか不気味だ。寝ていたはずなのに俺より今の状況がわかっているし、怪異連合の奴らが狙っていたのもこの子ってことだろう。

 じっと少女の瞳を見つめ続ける。


(すべてを見透かされそうな目だな……心まで読まれそうな眼差しだ)


 俺がそう思った瞬間、背後のコンテナドアがかん高い悲鳴を上げた。思わず振り向くと、分厚い金属ドアが切り落とされるようにして割れ、ガシャガシャと落ちていく。

 切り落とされた後部ドアの前に女が立っていた。その女は銃口を俺に向けると、鋭い声で命じる。


「動くな! 武装を解除し、投降せよ!」

「っ……!?」


 女と目が合った瞬間、俺は思わず息を飲んだ。


(マジか……)


 ちょっと驚いた。身体のラインに沿った装甲服姿で、高周波ブレードと先進的なライフルを構えている彼女を俺は知っていた。

 凪だ。鼻から下を覆う多機能ハーフガスマスクで表情はわかりにくいが、チョコレート色の三つ編みとイタチ耳を見間違えるはずがない。


(凪も出動してたのか。でもなんで学生でもある凪まで……そんなに大事件になってるとか?)


 そう思う俺をよそに、凪は銃口を向けたまま口を開く。


「美亜さんが悲しみますよ、日向さん。こんなことはやめてください」

「おい、ちょっと待てよ。お前なにか勘違いしてないか?」

「いたいけな少女を人質にしてテロを起こすなんて、馬鹿げたことはやめてください」

「ちょっとまずは俺の話を聞いてくれないか?」

「今なら弁護士をつけることができます。これ以上罪を重ねる前に投降してください」

「いやちょっと! 俺がテロリストってことで話を進めるなよ!」


 完全に犯罪者を見る目になっていた凪に、俺は抗議の声を上げた。


(次回に続く)



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