第47話 魔族の因縁

 このまま何も起きずに保護されるならそれでいい。だがもし、少女の言った通りになったら俺の秘密が彼らに露見するかもしれない。そうなれば、間違いなく始末される。

 凪がCRATのチームに合流するのを見ながら、俺は少女に頷く。


「わかった。とりあえず様子を見よう」

「信じてくれるのですか……?」

「もしものときに備えるだけだ。まだ半信半疑だよ」

「では、それを確信に変えましょう。凪さんはこのあと拘束され、Cクラス記憶処理をされます」

「は? おい待て、凪はCRAT隊員だぞ。おかしいだろ、拘束されるなんて……それに記憶処理だと……?」

「見ていればわかります」


 少女の言う通り凪たちを見ていると、ひとりの隊員が遅れてやってきた。

 他の隊員はフルフェイスヘルメットなのにそいつだけは、鼻から上の素顔を出している。凪と同じタイプの装甲服だ。グレーのミディアムショートヘアで目つきの鋭い男……見覚えがある。

 忘れるわけがない。ショッピングモールで美夜子と戦っていたCRAT隊員のひとりだ。


(あいつが、美夜子を……!)


 ギリィと歯噛みする。頭に血が昇ってくる。だが、すぅーふーっと深呼吸して怒りを抑える。


(今じゃない。ここで敵対するのはあまりに愚かだ)


 そう思う俺をよそに、グレーヘアの男に凪が食ってかかっていた。


「隊長、どういうことですか? あのコンテナには民間人が乗っていました。情報では、汎用人工知能シロネが奪取されたと聞いていたのに……」

「そのようだな……バカな奴だ。あれを開けるなんて」

「いえ、私は何も。すでに彼が開けていましたから」

「あの青年か……面倒なことをしてくれる」


 グレーヘアの男が俺に鋭い視線を向けた。


(シロネが奪取された? どういうことだ? 中身は少女だったぞ……)


 そう思いながら俺はCRATの出方を窺う。


「隊長、あのコンテナにはシロネではなく少女がいただけです。こちらはダミーでした、早くシロネを確保しなければ!」

「その必要はない、倉持三曹」


 雲行きが怪しくなった。

 凪が進言した瞬間、グレーヘアの男の声が低くなった。

 ふたりの隊員が凪の両脇に立ち、その腕をつかんだ。


「放してください! 隊長、どういうことですか……!?」

「お前は知ってしまったんだ、あのコンテナの中身を。あれはCRATでも一部の隊員しか知らないというのに……」

「あの少女が、そんな重要機密なんですか?」

「そういうことだ」


 グレーヘアの男が凪に頷くと、隊員のひとりが装甲服のポーチから注射器のようなシリンジを取り出した。


「部下を口封じに始末するほどに、重要なんですか……?」


 声を震わせる凪だが、そんな緊迫した空気を和らげるようにグレーヘアの男が落ち着いた調子で口を開く。


「勘違いしているようだな。殺しはしないさ。優秀な隊員を浪費するのは愚かだからな」

「ではなにをするんですか……?」

「Cクラス記憶処理をする。まぁ心配するな、一日分の記憶がなくなるだけだ」


 グレーヘアの男がそう言った直後、隊員のひとりが凪の首筋にシリンジを刺した。


「う……っ」


 凪の身体が弛緩し、二人の隊員に支えられる。何らかの薬品を投与されたようだ。


(この少女の言った通りだ……記憶処理って、じゃあこのあとは……俺の番か?)


 仲間にすらあんなことをした連中だ。部外者の俺じゃ何をされるかわかったもんじゃない。

 俺は思わず後ずさった。

 すると、銃口が一斉に向く。


「動くな!」


 隊員の鋭い声が響いた。

 無理だ。逃げられない。

 俺は反射的に動きを止め、彼らに従った。

 奴らには複合センサーと先進的な火器がある。それにあのグレーヘアの男は隊長クラスだ。おそらくAランク以上の魔族だろう。これじゃあ普通に逃げてもすぐに殺される。


(異空間から餓鬼変異兵グレイマンを出せば今だけは逃げ切れるかもしれないが、そんなことをすれば俺はCRATの粛清リストに載っていつか殺される……いや考えろ、生き残れる策を)


 俺がCRATの出方を窺っていると、グレーヘアの男が一歩前へ出てライフルを構えた。


「その制服、霊妙館学園の生徒か?」

「そうだが……」


 この黒いブレザーは防弾性能があるが、あの銃口から放たれる高速徹甲弾は防げない。

 俺が冷や汗をかきながら彼らを見ていると、グレーヘアの男が首を横に小さく振った。


「それは残念だ。霊妙館学園といえば九鬼グループへの人材育成の側面もある学園だからな。お前もいずれ九鬼家か、優秀な魔族ならCRATの役に立っただろうに……」

「その口ぶりじゃ俺は始末されるんだろ?」

「生かしていても面倒だからな。記憶処理も万能ではないから、ふとしたきっかけで思い出すかもしれないだろ?」


 グレーヘアの男の言葉があまりにも冷たかったからか、その冷たさが逆に俺の頭を熱くさせた。


「部下なら管理できるが、そうじゃない俺は始末した方が早いってわけか! くそっ、俺はただ市役所に行ってただけなのに何でこんなことになるんだよ……っ!」

「それは災難だったな」


 短くそう答えると、グレーヘアの男が俺の頭に狙いを定めた。

 その瞬間だった。


 ブルゥウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウ!


 突然トラックが唸りあげ、CRAT隊員に突っ込んでいく。


「おい運転手は射殺したんじゃないのか!?」

「撃て撃て! トラックを止めろ!」

「避けろ! 轢かれるぞ!」


 隊員たちがトラックに向かって発砲し、凪を抱えた隊員がその場から飛び退く。

 そんな中、俺は白髪の少女に手を引かれていた。


「今のうちです! 早く逃げましょう!」

「あ、ああ!」


 少女と一緒に走る。だがこんなスピードじゃ背中を撃たれて終わりだ。


「失礼するぞ!」

「わっ、この方が早いですね……」


 角を生やして鬼の力を解放し、俺は少女を抱えて矢の如く走った。

 そして裏口のドアを蹴り壊し、倉庫を後にしたのだった。


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