第39話 魔族の侵攻

 轟音が聞こえてきた方から男たちの張り詰めた声が聞こえてくる。


「トラックが突っ込んできたぞ!」

「下がって! 危ないですから!」

「キャアアアアアアアアア!」


 悲鳴が上がると、ダンッと銃声が響いた。


「な、なんだ……?」


 角から一瞬だけ顔を覗かせると、正面玄関を突っ切ってトラックがロビーに侵入していた。トラックのコンテナから覆面をつけた武装集団が飛び降り、その場にいた市民を銃で脅している。


「動くな! お前らには人質になってもらう!」

「わ、わかった! 言うとおりにするから殺さないでくれ……!」

「一カ所に集まれ!」


 どうやら人質を取って市役所を占拠する気らしい。

 今の俺ならライフルで武装した集団くらいだったら倒せるが、戦うのは最後の手段だ。

 奴らがどんな集団かわからない今は、敵対して狙われるリスクは冒せない。


(素直に従っても助かる保証もないし、まだ見つかってないから逃げた方がいいだろうな)


 そう思いながら俺は走り出す。

 ロビー奥にいた職員たちは俺と一緒に逃げていく。彼らは非常口に飛び込んだ。


「こっちです! 早く避難を!」

「なんなんだよ、なんで襲われなくちゃならないんだ……!」

「動くな! この建物は我々怪異連合かいいれんごうが占拠した!」


 非常口が開いた瞬間、武装集団が人々を捕らえていく。


「嫌ァァァァァァァァァァ!」


 俺の前にいた女性が叫び、腰を抜かした。


(非常口をおさえられた……!? だったらこっちだ!)


 俺は通路を引き返し、狭い通路に入った。


(階段だ! もう階段しかない!)


 上階に行くか迷ったが、総合案内板のマップに上階の構造は表示されてなかった。

 だったらまだ構造がわかる地下の方がいいはずだ。

 非常階段に着くと、俺は地下駐車場を目指した。

 大丈夫だ。地下から逃げればいい。連中が中央塔を襲撃する目的がなんにせよ、さすがに地下まで攻める必要はないはずだ。あそこはただの駐車場だ。襲うメリットがない。

 そこでふと思う。


(自分でもびっくりするほど冷静だな。あのデートで、美夜子と一緒にいたときに襲撃を経験したからか? あのときはCRAT隊員との戦いに巻き込まれたが、アレに比べたら、今はまだ大丈夫だ)


 だがそこで駐車場から銃声が響き、安心していられなくなった。

 非常階段のドアを少し開けて確認すると、硝煙の臭いが漂ってきた。

 銃声が近くと少し離れたところから聞こえる。


(応戦してるのか? 怪異連合とCRATが戦ってるってことか?)


 ドアを閉じ、俺は階段を見上げた。


(引き返すか? こんな駐車場を狙うなんて何かあるはずだし、今のうちに屋上に向かえば……)


 そう思うが今度は上階から足音が聞こえ始める。


(不味い、このままじゃ上の連中に見つかる……!)


 俺がドアを開くと、銃声に身をすくめながら壁沿いに進み、車の影に潜んだ。



(次回に続く)




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