第36話 俺には心に決めた人が……
なんで俺がこの女のカロリー管理なんて……面倒臭いな。
そう思いながら俺は真綸の対面に座った。
「でもじゃあ何で毎日購買に行ってるの? 朝にあたしの買うついでに自分のも買えばいいじゃない」
「それじゃあ昼ごはんを交換したって言い訳できなくなるだろ」
「え? 交換?」
「ああ悪い。言葉が足りなかったな……まぁあれだ。全部コンビニで用意したら俺がパシられてるのがみんなに伝わらないだろ?」
「え? それって伝わらなきゃダメなの?」
「ダメだろ。だからパシられて購買に行ってからお前のところにわざわざ戻ってるんだ。それで毎回強引にコンビニで買った物と購買パンを交換されるんだ」
さっきまで感動した瞳はどこへやら、真綸が呆れた表情を向けてくる。
「ちょっと、なんでそんな面倒臭いことしてんのよ?」
「全部この場でお昼用したら付き合ってるみたいだろ。俺がお弁当を作ってきたヒロインみたいじゃないか……そんなの耐えられない」
たとえ事実じゃないとしても美夜子以外の女とそういう関係に見られるなんて無理だ。
ぐっとこらえるように眉間に皺を溜め、俺は真綸に向かって小さくため息をついた。
こいつは見た目だけならいい。背中までのびた空色の髪は綺麗だし、とにかく顔もいい。モデルだから赤いブレザーに黒いスカートの霊妙館学園の制服を誰よりも着こなしている。
そんな女でも中身はわがままで自己中でおまけに俺の弱みを握って脅してきているんだ。こんな女と付き合ってると思われるだけでも嫌気がさす。
「あーそれ、もう遅いわよ」
「遅い?」
「周りを見なさい」
教室をざっと見回してみる。
お弁当を食べているクラスメイトたちが俺たちに注目していた。だがすぐにばっと視線をそらし、何事もなかったかのように駄弁り始める。
「遅いって……やっぱり皆俺を避けてるな。きっとイジメの標的が自分たちにならないようにしてるんだろうな……」
「なんでそうなるのよ」
「くそっ、弱みを握られたばかりにこんな……」
「自業自得でしょ。だいたいなんであんなことしてたのよ」
「鳴宮先生に興味があるんだ」
「え……いやダメでしょ、相手は教師よ……?」
何か勘違いしているようだ。真綸が怪訝な表情で小さく首を振ってきた。
あれはCRATの情報が欲しいからやったことで、もちろん鳴宮を警戒して調べた事情もあるが、そんなことは真綸に説明できない。
(くそ……興味があるって言ったのが不味かったか。いや、でも正直に言えないしな……)
俺がもどかしく唸っていると、真綸がきりっと睨んでくる。
「なによ、黙っちゃって。アンタのことかっこいいって思ってたのに、やっぱりやましいことしてた変態だったのね。このっ」
「いてっ」
こいつ、机の下でみんなから見えにくいから普通に蹴ってきたぞ。
「始まったよ、パシリの次は暴力が」
「なに
「春休みまでは平和だったのに、やっぱりこうなるのか……」
「あたしだって残念でならないわ。春休みが忙しくなかったら、付き人のイロハを教えられたのに。そしたら皆に勘違いされなくて済んだわ」
「何の話だ?」
「アンタとあたしが付き合ってると思われてることよ」
「は?」
この女、何を言っているんだ? 俺が美夜子以外の女と付き合うわけないだろ。
「アンタって中身が更衣室の件があってアレだけど、見た目はクールなイケメンだからパシリをさせても荷物持ちさせても完璧にエスコートしてるようにしか見えないのよねぇ」
イケメン補正が働いたってことか……盲点だった。
「今だってパンとサラダを用意してくるし、放課後はさりげなくあたしの荷物を持って家の近くまで送ってくれるし、ここ数日で紳士な彼氏って印象が根付いちゃったのよ」
「なんてことだ……」
言われてみれば、クラスメイトたちの視線が同情というより好奇なモノに見えなくもない。
(次回に続く)
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