第35話 人気モデルに誘われたんだが……

 昼休み。俺はいつものようにパンを購買で買ってから教室に向かう。

 廊下を歩いていると、女子生徒たちが俺を見ながらこそこそと話している。


「日向くんだ……やっぱりかっこいいね」

「入試をトップの成績で合格したらしいよ」

「すごいよね。実技試験なんて一秒かかってないって話だし」

「顔も頭もよくて、しかも強いなんて完璧じゃん」


 女子からはうっとしりしたような視線を向けられ、男子からは諦めにも似た「あいつは俺たちとは違う次元の男なんだ……」という感じの声を聞く。

 こんな感じで俺は男女問わず一目を置かれている。やはり入試トップという肩書がいい印象を与えているんだろう。


「まいったな……美亜が広めたのかな? 俺の成績……」


 大方、私のお兄ちゃん入試トップなんだよね~すごいでしょうーって感じで言ったのだろう。

 美亜とは兄妹だからか、クラスは別々なってしまったが、入試トップでイケメンと話題になっている俺の妹で美亜自身も可愛いから、今じゃ美亜もクラスの人気者らしい。

 隣のクラスをちらりと覗くと、美亜を中心に女子グループがお弁当を食べていた。みんなわいわい駄弁っている。なんだか楽しそうだ。


(この分だと美亜の方は大丈夫そうだな……)


 そう思いながら俺は教室に入った。


「日向くん。こっちへどうぞ」


 真綸が微笑むと、俺の席から持ってきた椅子を自分の机の前に置いた。現役モデルだから容姿は当然のように完璧に整っているし、実際普段から女子たちの憧れの的だ。こんな可愛い子に昼食に誘われたら普通の男子なら舞い上がっているところだろう。


(まぁ俺、パシられてるだけだけどな。お昼ご飯買ってきてって……)


 入学してからずっとこの調子だからクラスの連中も察しているんだろう。皆俺と真綸を遠巻きに見てひそひそ話している。小声だから何を言っているかわからないけど、どうせろくでもないことだ。


「ほら買ってきたぞ。甘いのでよかったんだよな?」

「ええ、糖質カットのチョコロールならなんでもいいわ」

「えらく限定的ななんでもいいだな。というか、そんなもん購買にないよ」

「ええー、あたし今日チョコの気分なのに」

「わがまま言うな。チョコ味のベストブレッドと、シーチキン卵サラダなら糖質低いから、これでも食べてろ」


 俺は自分の机に掛けた鞄から小さな保冷バッグを取り出し、その中からコンビニで買ったパンとサラダを取り出し、真綸にさしだした。


「低糖質のパンとサラダまで……アンタ毎回ないない言いながら用意してくれるわよねー」

「今朝コンビニで買っておいたからな」

「うわぁ何この男、気が利くようになったわね……」


 真綸が瞳を輝かせて感動してるが、最初の頃は酷かった。


『ちょっと何このパン』

『購買のパンだが?』 

『カツサンドとアップルパイって、こんな高カロリーなパンあたし食べられないから。違うの買ってきて』 

『あ?』

『こんなの食べてあたしの体型が崩れたらどうしてくれるの? そうなったら魔族の損失よ? あたしがモデルとして魔族の印象を良くしての。この美しい姿で人間たちを魅了してるんだからね』

『ごちゃごちゃうるさいな。気に入らないなら自分で買ってこいよ……』

『更衣室』

『うっ……わかった。でも今日は学食にしような。その方がメニューの選択肢も多いし』

『そうね。じゃあ行きましょうか』


 初日はこんな感じだった。

 こういうこともあって慣れてきたから今となっては事前にコンビニで用意できるけど、というか毎日あれこれ言われたら誰だってこうなるだろ。気が利くんじゃなくて、学習しただけだ。


(次回に続く)


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る