第32話 職員用の更衣室を漁ったら……
俺は職員室を出ると、隣にある更衣室のドアに手をかけた。
閉まっていた。やはり電子錠でロックされている。
(やっぱり開かないか……よかった。こいつを持っていて)
キーカード型のハッキングツールをポケットから取り出し、俺はドアのロックパネルにハッキングツールを押し当てた。
すると数秒後、カチャッという音がしてロックが外れた。
(このくらいのセキュリティなら問題ないな。これを用意してくれた恵さんには頭が上がらないな)
このハッキングツールは恵さんが凪を美夜子の件に巻き込まないことを条件に用意してくれた物の一つだった。
俺は更衣室に入ると、ロッカーのネームプレートを順繰りに見ていく。
「……あった」
鳴宮和奏の名前が目に入った。
ロッカーのロックパネルにハッキングツールを押し当てる。今度はドアより早くロックが外れた。
ロッカーを開けると、フックにかけられたジャージの下に、黒い手提げバッグがあった。
(この中なら
俺は膝をつき、バッグを開いてみる。けっこうごちゃごちゃしていた。財布に手帳、化粧ポーチもあるし、サングラスと折り畳み傘や他にも細々した物が入っていた。
(あいつ、雰囲気不気味で近寄りがたいくせにバッグの中身は片付けられないOLみたいだな。もっと整理しろよ。見にくいな……ん?)
カードケースが出てきた。開いてみると、電子カードが入っていた。
(魔族登録カードだ。そう言えばあいつの種族知らないな……)
種族名・
(影の鰐か……確か船乗りの影を飲み込む鰐の妖怪だったか?)
影を飲み込まれた者は死ぬらしいが、CRAT対策で色んな妖怪や魔族を調べておいてよかった。おかげで鳴宮の正体がわかった。
「ん? これは……元未登録魔族ものじゃないか」
CRAT隊員を示す金色の鼠マークの下に、赤い悪魔のマークがカードの端にあった。
(赤い悪魔のマークって元未登録って意味だったよな……じゃああいつは違法魔族だったのか)
魔族は今じゃ国に登録する義務がある。未登録で人間に紛れて暮らす者もいるが、そういう奴らは危険分子として粛清対象だ。銃器より恐ろしい能力を持つ者が野放しじゃ社会秩序は維持できないから、魔族を管理する法律だってある。
(俺の前世のときは人間の生徒だったけど、あの頃から……)
そういえば、鳴宮は美夜子の正体が魔族だって知っているような口ぶりだった。
(美夜子も人間だと偽って暮らしてたけど、鳴宮もなぜ人間だと偽って……二人は友達だったし、これは何かあるな)
そう思う一方で、俺は違和感を覚えていく。
未登録魔族は粛清されるか、CRATに入隊するか選択しなければならない。そして鳴宮は十年ほどで上級士官になっていた。
三佐だなんておかしい。元犯罪者がつける階級なんてもっと低いはずだ。
(こいつまさか、美夜子の情報を売って出世したんじゃないか?)
やはり信用ならない。美夜子の友達だったとしても鳴宮は敵と考えていいだろう。
「他には何かないか……? ん? 手帳か……アナログだな」
そう呟くと、俺は小さく首を横に振った。
(いや、CRAT隊員なら手帳に書くこともあるか)
前にミリタリー系の本を読んだことがあるが、そこには『電子機器は戦場で必ず動作するとは限らない』と書いてあった。だからデジタルな手段とは別に紙に書くとったアナログな手段をとるらしい。
「カレンダーに市役所に招集って書いてあるな……わざわざ書いてるってことはCRATの招集か?」
おかしい。これは何かあるはずだ。
鳴宮は霊妙館学園専属の士官でもある。だというのに、CRATに招集されるって……きな臭い話だ。
「詳しいことは書いてないけど、俺も行って――」
カシャ。
「はい、そこまで」
「ん……!?」
反射的にドアの方へ振り向くと、息を飲むほど美しい少女がスマホを構えていた。九曜さんだ。驚く俺を見ていやらしく笑っている。
「日向くん? こんなところで何してんのかな?」
ヤバい。スマホのカメラで撮られた。
ここで通報されれば俺の計画は終わりだ。問題を起こしたら進学に影響が出るだろうし、CRATの幹部になるのには時間がかかるだろう。そうなったら美亜の覚醒前にCRATを内側から壊せなくなる……あのスマホを奪って叩き壊すか?
勝負は一瞬で決まる。俺は膝をついたまま身構えた。
「妙な真似はしない方がいいわよ。この写真、あたしのマネージャーに送ったから、スマホを壊しても無駄よ」
「ちっ」
俺は構えを解いて立ち上がる。
こいつはモデルもやってるし、そのマネージャーに今の写真を送ったなら手が出せないか……でも騒がないでニヤニヤしてるってことは何か狙いがあるはずだ。
「何が目的だ?」
「あたし、ちょうどイケメンの奴隷が欲しかったのよねぇ」
「俺を脅すつもりか?」
「嫌ならいいのよ? 先生のロッカーを漁った泥棒さん? これがバレたらどうなるのかしらねぇ。妹さんも悲しむだろうし、経歴にも傷がつくわねぇ」
こ、このゲスが! 顔がいいだけのゲス女が!
「黙っててください、お願いします九曜さん……!」
深々と頭を下げた。
「いいわ。黙っといてあげる。ああそれと真綸って呼んでいいから、もう秘密を共有する仲なんだしね♪」
秘密を共有って、俺の秘密だけ一方的に知られている関係なんて怖いだけなんだが……。
俺は頭を抱えながら真綸と一緒に職員用の更衣室を後にした。
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