第25話 鬼の戦い
相手はどこまでも追ってくる。偵察衛星と防犯カメラを使っているから。
地下は人ごみに捕まるから論外。大通りもあの密度じゃ逃げきれない。だったら小道を使って進むしかない。
私――
小道を駆け抜けて再び大通りに出ると、そこは無人だった。
「不味い。避難が始まっている……戦いは避けられないね。はやく建物の中に入らなくちゃ」
「おい、美夜子! なんでだよ!」
「だったら……あそこ! ショッピングモールしかない!」
大通りを進んだところにある大きな建物に向かって私は走り出す。
「聞けって!」
「日向は黙ってて、いつ攻撃されるかわからないから」
「攻撃されるって……変身の妙薬があるんじゃないのか? 使うなら今だろ」
「それはそうだけど……」
言い
もう言うしかないよね……ホントのこと。
日向を肩から下ろすと、意を決して口を開く。
「ごめん。あれ、嘘なの。そんな都合のいい妙薬なんて作れないから」
「え……?」
絶句し、唇を震わせる日向に私は優しい声音で告げる。
「でも同じような効果がある妙薬を持ってるから、大丈夫だよ」
「なんだよ、最初からそう言えよな……じゃあさっさと使ったらどうだ?」
「うん……でもこの妙薬には副作用があって……」
説明しようと思ったけど、途中で言葉が出なくなった。
だって、これを使ってしまったら戻れなくなるから。今の日常が消えてしまうから。
(使えない。この妙薬だけは使いたくない。でも、このまま戦ったらセンセのときみたいに、今度は日向を巻き込むんじゃ……?)
私の脳裏に嫌な予感がよぎったときだった。
天井のガラスパネルが割れ、吹き抜けのショッピングモールにガラス片が降り注ぐ。
「隠れて!」
「んっ!?」
手近な店舗に日向を押し込め、私は通路に飛び出すと天井に向けて手をかざした。
「
手の前に異空間が開き、その黒い穴から変異魔族が姿を現す。
赤い肉の塊。再生の妙薬や筋力増強剤を動物の死骸に混ぜて作りだした変異魔族だ。そいつがドーム状に広がった瞬間、ジュュュュュュュと肉が焦げ始めた。
「プラズマ攻撃ね」
肉塊の表面が溶かされていく。これじゃ長く持たないけど、数秒の時間は稼げた。
私は異空間から試験管を両手に三本ずつ取り出し、
「ふっ」
プラズマ弾に試験管がかすめると、中に入っていた
吹き抜けの通路に浮かぶ
いた。CRATめ、また私から奪いに来て……今度はそうはいかないよ。
「来い。
自分の影に手をかざすと、そこから刀が姿を現した。刀の柄を握ると、黒い刃が怪しく光る。
妖刀・鬼切景光。強大な鬼たちを斬り捨て、その血をすすった刀だ。
鬼を斬る妖刀を私が持っているのは皮肉っぽいけど、ちゃんと実用的な部分もあった。
私の血液が入った試験管を異空間から取り出し、中身を刃に垂らすと怪しい光がさらに強くなった。これがこの刀の性質。鬼の血を吸って切れ味が増幅する妖刀だ。
「まずはCRATの即応部隊を退けないと――」
カラン、カラン!
金属の球体が上から降ってきた。
「手榴弾……!?」
そう言った瞬間、私はこめかみの上から二本の白い角を生やして鬼の力を解放し、飛び上がって空気を蹴って、
その瞬間、一階通路で手榴弾が爆発する。さっきまで私がいた場所に金属片が散らばった。
「ちょっと厄介だね……」
(やっぱり私の戦術は研究されてるね。だったら向こうはこのまま距離をとって戦いたいはずだね)
私がそう思ったところで「バンッ!」という音が響いた。
反射的に見上げると、上階の方で何かが弾けたようだ。白い霧のような物が電吸虫を覆っている。風に乗ってひんやりとした空気が漂ってくると、私は息を飲んだ。
「凍結弾頭……ッ! 不味い、
萎んでいく。溜めこんだエネルギーが流出して灰色の球体が縮み、穴が開いた気球みたいに落ちていく。
(このままじゃ射線が通る! なんとか接近しなくちゃ……!)
私は吹き抜けの天井に向かって飛び上がり、
ガンッと上階の天井に突っ込むと球体を解除し、異空間から取り出した試験管をその場にいたCRAT隊員に向かって投げた。吹き抜けの通路と店先の通路の間に電吸虫が膨れ上がる。そうやって対面の通路からの射撃を防ぎつつ、私は鬼切で近くにいた隊員を斬りつけた。
「この……!」
「ぐッ!」
「こいつ、冷気を突っ切って――ぐあッ!」
「これで二人……ッ!」
装甲服のアーマーを切り裂くと、私は奥の通路を見た。二十メートルほど離れた通路でプラズマライフルを構えた三人の隊員がいる。身体を捻ってプラズマ弾をかわし、一息で距離を詰めた瞬間、さっきの二人と同じように斬り捨てた。
だがそこで頭上から鋭い声が響く。
「目標を確認! モールごと固めてやれ!」
「な……!?」
見上げると、隊長と思われるグレーヘアの男の指示で、天井の割れたガラスパネルから無数のミサイルが飛んできた。
(凍結弾頭……! あの数を撃たれたら日向もあぶない!)
私はそう思いながら吹き抜けに向かって飛び降り、空中で身体をくるりと反転させて空気を蹴った。そうやって
「美夜子!」
「早くこっちへ!」
日向に駆け寄りながら
だけどその刹那、日向がいる店先に数発の凍結弾頭が落ちた。
弾ける。極寒の霧が吹き出す。
「あ――ッ」
まただ。また、センセのときみたいに日向を巻き込んで死なせてしまう。またCRATが私から大切なものを奪ってくる。
そんなことさせない!
私は魔力を一気に放出し、あるイメージを膨らませた。
「
その瞬間、世界が一変した。
ショッピングモールの通路も店舗も消え去り、無機質な空間へと姿を変えていた。
青白い照明が辺りを照らす窓のない地下室のような場所だ。薄暗いけど、天井も高くて観測ステーションの大窓が上の方に見える。
ここは存在しないはずの研究所。私の能力で造り出し、現世を魔境に塗り替えた特殊空間だ。
「ごほっごほっ……!」
日向が倒れていた。場所が変化したことで極寒の霧は消えたけど、冷気をちょっと吸ったようだ。私はすぐに駆け寄り、
その液体を飲み干すと、日向の呼吸が穏やかになり、自力で立ち上がれるまで回復した。
「み、美夜子……あいつらがいる」
「大丈夫だよ。私が護るから」
私たちの正面には二十人ほどのCRAT隊員の姿があった。装甲服の小型ジェットを噴かせながら研究所の天井付近からおりてきたようだ。
「虚構魔境だと……!? なんて切り札をもってやがんだよ!」
「特殊な空間にとじ込まれました! どうする、バイパー1!」
「落ち着け、この空間は
動揺する部下にそう言うと、隊長の男が私たちにプラズマライフルを向けてきた。
このまま戦ったらきっと日向を巻き込む。
そうならないために現無学所に指示を飛ばす。
「
私の声に反応し、床がせり上がると、青白い液体が入った円柱形の培養ポッドが出てきた。それが至る所から現れたからか、隊員たちは警戒して大まかな円陣を組んだ。
「なにか入ってる……!? なんだ!?」
「鬼? いや……おかしいぞ、異様に手足が長い」
隊員たちが息を飲む。
その視線の先には培養ポッドに入った変異種がいた。体長は三メートル弱。骨ばった身体は灰色で、手足は長く鋭い爪を備えている。その上、ぎらつく赤い瞳と頭に生えた二本の角と合わさっておぞましい容姿だ。
「あいつらを倒して、
私が命じると、そこかしこから培養ポッドのガラスが割れ、灰色の細長い身体が出て来る。
「くそっ! 囲まれるぞ!」
「撃て撃て!」
「ガァアアアアアアアアア!」
「バイパーチーム! 飛べ! 組みつかれたら厄介だ!」
隊長の指示を聞くと、隊員たちが背面の小型ジェットを噴かせ飛び上がった。
「これならしばらく任せて大丈夫そうだね」
私は彼らから視線をそらすと、日向を抱えた。
「ここは危険だから向こうに行こうね」
「あ、ああ……」
呆気にとられている日向を抱き抱えると、私は培養室から出て、通路を駆け出した。
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