第24話 魔族自衛官たち

 降下艇ドロップシップが風を切る音が響いていた。

 CRAT隊員たちが武器の最終チェックをする中、わたし――本郷明人ほんごうあきひとはキャビンのコックピット側に立って部下たちを見渡した。


「いいかお前たち。汎用人工知能シロネの監視網に引っかかった目標は未亡の花嫁ウィドウブライドだ」


 ナノマシーンを介して網膜自体をディスプレイにして情報ウィンドウを視界内に開く。


「こいつは八年ほど前に確認されたSSSランクの化け物だ。種族は鬼で本来はAランクの魔族だが、奴の能力が危険度を引き上げた。その能力は、妙薬研究所ミョウヤクラボラトリー。あらゆる薬を生成する能力だ」


 わたしはそう告げると、情報ウィンドウの戦術分析に軽く目を通す。


「奴はこの薬を使用して変異魔族を作り出し、使役して戦う戦闘スタイルだ。肉塊泥漿(ブロブ)系の魔族で防御し、本人は刀で武装している。あとは、わたし……蛟竜ミズチの水を操る能力を相殺する妙薬も使う」


 前に奴と戦ったときは水の中に閉じ込めて拘束したが、何らかの薬を使われてわたしの能力が解除された。とはいえそれは、わたしの能力が封じられたわけじゃない。そのときに使われたのは水の結合を解く薬だった。

 だがそれでも驚異的なことに変わりはない。わたしは眉間に皺を寄せた。


「おそらく時間があれば奴はわたしたちを解析し、こちらが不利になる薬を作るだろう。それが自己を強化するモノにしろ、新たな変異魔族を作り出すにしろ、非常に厄介だ」


 自分で言って恐ろしい能力だと思う。汎用性と対応力が尋常じゃないからだ。

 部下もそう感じたのか、暗い声が聞こえてくる。


「変異魔族か……きっと恐ろしい化け物がいるんだろうな」

「しかも妙な薬も使うとか。クソッ、こんなのいくら命があってもたりねぇぞ」

「さすがSSSランク……俺、CRATに入って五年くらいになるけど、ここまで危険な相手は初めてだ……本当に倒せるのか? この戦力で……」

「本来なら無理だ。SSSランクを討伐するには、十二鬼将じゅうにきしょうクラスの隊員が必要だからな。ほとんど神話の世界の話だ」


 わたしの言葉に部下たちは身を強張らせ、緊張を高めていく。

 だがそれも仕方ないことだ。十二鬼将といえば、CRATの将官を任されている魔族たちだ。たったひとりで装甲服を着た隊員たち千人分の戦力だと噂されている。


「この任務は本来なら十二鬼将が引き受ける任務だが、彼らは九鬼家の脅威になる勢力と戦うために世界各地へ飛んでいて、あいにく今は日本にいない」


 そこまで言うと、わたしは穏やかな声を作る。


「だが安心しろ。SSSランクといってもこの危険度は、奴の能力が希少だということも加味している。薬を作るなんて、戦闘タイプの能力じゃないだろ?」

「はは、確かにトリッキーな能力だしな。戦闘向きじゃねぇ」

「装甲服のアーマーとエネルギーシールドもあるし、薬を飲ませられる心配もないしな。怯えすぎだったな」

「ああ、そうだ。わたしの見立てだと、戦闘能力はSSランク以下だろう。その上、こちらは奴に有効な戦術も用意しているからな。勝率はかなり高いはずだ」


 部下たちの声音が柔らかくなっていくと、わたしが力強く断言した。


 ――ピピッ。


 汎用人工知能シロネからデータが転送されて情報ウインドウが開くと、赤いメッシュが入った黒髪の女が子供を抱えて走っている画像が見てとれた。


『バイパー1、こちらシロネです。未亡の花嫁ウィドウブライドは子供を人質に取って逃走中。このまま行くと、バイパーチームとの接敵はショッピングモールになります』


 儚げな少女の声が通信機に聞こえた。

 人質か……意味のないことをするな。交渉する余裕があるわけないだろ。

 わたしはそう思いながら返答する。


「バイパー1、了解。民間人の避難は完了しているか?」

『すでに完了しております。ですがこの短時間で誘導していますので避難区画はショッピングモールに限定しております。ですから戦域が広がれば民間人を巻き込むことになります。注意してください』

「さすが高性能なAI様だな、仕事が早い」

『当然です。これが私の存在意義ですので。ですが今度はちゃんと倒してくださいよ?』

「了解した。ショッピングモール内で決着をつける」


 シロネとの通信を切り、わたしは後部ハッチが開くのを眺めた。


「いくぞ、お前ら」

「バイパー1、人質を取られているという話ですが、どうしますか?」

未亡の花嫁ウィドウブライドの殲滅が最優先だ。奴を倒すことこそ被害を最小限に抑えられるからな」


 交戦規定に従って部下にそう言うと、わたしはショッピングモールの上空を飛ぶ降下艇から飛び降りた。


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