第20話 世界一難しい作文
夏休みに入って一週間、五教科のドリルを終わらせ、夏の友も現状で書き込めるところはすべてやった。だが、座卓に広げた原稿用紙を見ていると、思わずため息が出る。
「はぁー……」
作文に関しては終わりが見えない。
別に本当のことを書かなければいいって思うけど、嘘ばかり書いても家庭訪問のときにバレそうで怖い。だったら、こっちに都合の悪いところだけいい感じにぼかして書いて……いや、そもそも小学二年生らしい文体で書かないと親が書いたんじゃないかと先生に怪しまれるし……。
「あれ? 作文ってこんなに難しかったか? うぅん……」
唸りながら頬杖をつくと、俺は鉛筆を持って原稿用紙に書き始める。
「えーと……僕のお母さんは家から一歩も出ません……いえ正しくは出れません。なんでも昔から身体が弱く……ああ、これじゃあ病弱設定になるな……ダメだ。美夜子って病弱どころか風邪すらひかない健康体だし……じゃあいっそのこと引きこもりって設定に……でも母親が引きこもりじゃ先生に何を言われるか……」
どうすんだこれ。家から一歩も出られないのを説明するだけでも難しいぞ。
「何してるの?」
俺が首をひねっていると、美夜子が廊下から和室に入ってきた。座卓の前で膝をつき、原稿用紙を覗き込んでくる。
「もしかして、作文でも書いてるのかな?」
「ああ、家族について書いてこいって宿題が出てるんだけど……」
「そっか……ごめんね。書けることないよね。私、ほとんど家から出ないし、出られても旅館の敷地までで凪ちゃんの稽古ばっかりだし」
「仕方ないよ。美夜子はCRATに狙われてるから……あ」
美夜子の手が俺の頭を優しく撫でた。
「よしよーし、えらいね、日向は。聞き分けが良くてえらいえらい」
やっぱ好きだわ、これ。美夜子のよしよしは心にしみる。
「でもごめんね……どこにも連れて行ってあげられなくて。母親なのに、日向に何も思い出を作ってあげられなくて……ごめんね」
「うん……」
ごめんなんて言わないでほしい。どこにも連れていってくれなくてもいい。母親らしくなくてもいい。だから、そんな辛そうな顔しないでほしかった。
「いいんだ。美夜子は、俺のそばにいてくれるだけでいいから、生きてくれているだけで俺の救いであり、希望なんだ」
「日向……」
赤い瞳が潤んでいた。美夜子は今にも泣きそうになりながら、くわっと立ち上がった。
「わかった! 私、絶対にいなくならないから! でも日向との思い出作りも諦めない!」
「おいおい……何する気だ?」
「三日後の金曜日、一緒にお出掛けしようね♪」
困惑する俺をよそに、美夜子は微笑んで「どこに行こうかなー」と言ってズボンのポケットからスマホを取り出してお出かけスポットを検索し始めた。
「いや、無理だろ。CRATに狙われてるんだから……」
「私がこの七年間、何もしないでここに引きこもっていたとでも思ってるのかな?」
「何か秘策でもあるのか?」
「そろそろ完成しそうなんだよね、変身の妙薬が」
「その妙薬を使うと、どうなるんだ?」
「飲むと、整形したみたいに顔が変わるの。そしたら私を別人だとシロネは認識するし、監視からも逃れられるよ」
「マジか。そんな薬を作れるって美夜子ってすごいんだな」
「ふふっ、そうだよ。私はすごいの」
得意げに笑うと、美夜子はくるり踵を返し「じゃあ最後の仕上げをしてくるね」と言って和室から出ていった。
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