第19話 二度目の小学生はイージーモードのはずだったのに……
前世の記憶を思い出して七年が過ぎた。
俺は小学二年生になっていた。
教室では配られた夏休みの宿題に、クラスメイトたちが苦い表情を向けていた。
「うわぁー、やっぱり多いな……」
「宿題やりたくねぇー」
クラスメイトたちの不満をを聞き流しつつ、俺は悩んでいた。
美夜子はまだCRATに追われる身だ。俺も正体がバレないようにしなくちゃいけないな。
でもなんで人間と交わったくらいで美夜子が殺されなくちゃならないんだ? 人間の繁殖力を受けついだハーフ魔族が増えすぎるリスクはあるが、なにも殺さなくてもいいだろ。
考えれば考えるほど眉間に皺が寄ってくる。俺は教室の一番後ろの席に座ったまま机に置かれた夏休みの宿題を眺めた。
「基本的には夏の友と、五教科のドリルだからな。みんなしっかりやってくるんだぞ」
彼は茶色い短髪に明るい笑顔が印象的な若い男性教師だ。
はーい、というクラスメイトたちの返事を聞きつつ、俺は夏休みのドリルをぱらぱらとめくっていた。
簡単だし量も少ない。これなら一日で終わりそうだな。
宿題を教卓に置き、島崎先生は夏休みに浮かれるクラスメイトたちを見渡した。
「あとは自由研究と、日記だな。ちゃんと目を通すから、ふざけたこと書くなよ」
日記はその日あったとこと適当に書くとして、自由研究は天体観測でもするか。旅館があるところは田舎だから夜空が綺麗だし。
俺がそう考えていると、周りのクラスメイトたちが話し始める。
「自由研究かぁー何にしようかな」
「俺、蟻を育てる観察キット買ってもらったんだ」
「じゃあそれを自由研究にするの?」
「おう、観察日記を書けば。自由研究と日記が書けて一石二鳥だし」
「お前頭良いなー」
みんな楽しそうだ。小学生にとって夏休みって夢のような時間だしな……この感覚忘れてたな、俺、前世じゃ高校教師だったから夏休みなんてほぼなかったから。
騒ぎ出したクラスメイトたちに「静かにしろよーまだ話は終わってないからなー」と言ってから島崎先生は話を続けた。
「最後に、作文を書いてもらう。テーマは家族についてだ」
無理だろ……俺の家庭事情じゃ……。
「深く考えなくていいから、お家の人との出来事や、両親の仕事についてとか、そういうありのままを書いた感想文って考えていいからな」
島崎先生はそう言うが、ありのままなんて書けない。俺にとっては難関大学の入試問題より難しい宿題だぞ、これ。
突如芽吹いた悩みの種に頭を抱え、俺は俯いたまま固まったのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます