第18話 魔族の稽古
旅館を出て十数分ほど経った頃、俺はレジャーシートの上で目を丸くしていた。
木刀と木刀がぶつかり合う音が響き、赤メッシュが入った黒髪とチョコレート色の三つ編みが激しく揺れている。
草を踏む音がざっと聞こえたかと思うと美夜子が踏み込み、鋭い一太刀を凪に浴びせる。それを何とか木刀で受け流し、凪がその場から飛び退いた。
「二人とも凄い動きだな」
木刀を振るう速度も足さばきも常人を超えているし、カンッと鳴り響いているのになんで折れないのか不思議なくらいぶつかり合ってる。
凪が上段に木刀を構え、勢いよく踏み込んだ。
「はっ!」
「良い踏み込みだね。その調子その調子♪」
木刀を素早く振るった凪だったが、美夜子の木刀に易々と弾かれた。ぶんっと反撃の一太刀を浴び、凪は木刀でそれを受けながら堪らず距離をとった。
「すぅー……ふぅ……」
呼吸を整え、凪は目つきを鋭くした。
場所は旅館の敷地内の森。周囲を木々に囲まれたひっそりとした空間で、定期的に手入れがされているのか雑草はそれほど伸びていない広場だ。その隅でレジャーシートを広げ、稽古を観戦していた俺はぽかんと口を開けていた。
それにしても凪ってすごいな……速いのに重い剣さばきだし、人間なんて比べ物にならない動きだ。さすが魔族だな。
「これじゃあ普通の稽古だよ。ちゃんと能力も使いなさい。せっかく鎌鼬なんだから」
「……わかりました。では、行きます……!」
凪が腰を落とし、地面を蹴った。その刹那、凪の姿が消え、ぶわっと風が巻き起こった。
カンッ!
木刀がぶつかり合う音が響くと、美夜子の真横に凪がいた。
いつの間にあそこに……速くて全然見えなかったぞ。
俺が瞠目する間も、凪が目にもとまらぬ速さで美夜子から距離をとり、木刀を振りかぶった。
「これならどうですか!」
「詰めが甘いよ」
凪が木刀を振り下ろした瞬間、美夜子は身をそらした。その直後、美夜子の背後の草花が切れ、破片となって散っていく。
(
凪はさらに木刀を振って風の刃を飛ばす。だが美夜子は最小限の動きでそれを避けると、素早く距離を詰める。
「ダメだよ。そんな大ぶりな攻撃じゃ、私には当たらないよ」
美夜子が木刀を振るって下段から凪の木刀を弾いた。
「ぐっ……!」
木刀に身体が持っていかれるように万歳の体勢になった凪の胴体を腕で包み込み、そのまま地面にたたきつけた。草の中に沈んだ凪の首に、美夜子は木刀を滑り込ませた。
「はい残念♪」
「参りました……」
凪が木刀を捨てると、美夜子は立ち上がり、ジーンズについた土を払った。
風を操るスーパー幼児と比べると一見地味に見えたが、美夜子の方が遥かに強かった。見た目こそ白のオフショルダーパーカーにジーンズというラフな女子大生みたいなファッションなのに、やはり鬼。剣術といい素早く距離を詰めた踏み込みといい、どれを見ても上位の魔族だ。
「ほら立って、反省会するよ」
「はい……でも私は能力を使ったのに美夜子さんは角すら生やさないんですね」
凪の手を引いて立たせると、美夜はこめかみの上あたりを手で押さえ、可愛い弟子を愛でるように微笑んだ。
「鬼の力は凪ちゃんがもう少し強くなったら使ってあげるね」
あそこから角が出るのか……きっと可愛いだろうな。位置的に角は二本あるだろうし、強くて可愛い鬼娘で子持ちシングルマザーで未亡人か、なんだこの欲張り属性は……。
俺がそう思っている間、美夜子は指を一つ立てて凪にレクチャーしていた。
「いい? 弱くてもいいから予備動作なしで能力を使えるようにすること。今のままじゃ凪ちゃんの攻撃は絶対に私に当たらないから」
「その条件だと、視界内の風を操れば、薄皮一枚を切れる程度の攻撃ならできそうですが……」
「十分有効な攻撃だよ? 薄皮一枚でも目を狙えば相手の視界を奪えるし」
「いえ私はそんなこと……目を狙うなんて稽古でそこまで……」
「実戦じゃあそんなこと言っていられないよ? やれることはなんでもしなくちゃ」
「……そうですね。わかりました」
不敵に微笑む美夜子に向かって凪は頷いた。
ふたりとも凄いな、あんなに戦えて……俺も将来は戦えるようになって、今度は殺されないようにしなくちゃな。もう美夜子を残して先に死ぬなんてことがないように……。
俺はそう誓いながらふたりの師弟を眺めたのだった。
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