第17話 母の弟子(女児)

「ふふん、いいでしょう。私、先日美夜子さんの弟子になりました」


 いつものように俺が縁側に座って日本庭園を眺めていると、凪が自慢げに話してきた。

 珍しく機嫌がいいな。普段、俺に話しかけてくるときは仏頂面で辛辣なのに……。


「美夜子の弟子ってやつはそんなに凄いことなのか?」

「凄い決まってます」


 記憶の中にある美夜子は、仕事で疲れた俺を労わる優しさと真面目に勉強する優等生って感じの印象ばかりだ。武術的なものとは無縁だろう。だったら料理の師匠か? あいつ、料理部にいたときから美味しいものを作ってたもんな。

 納得がいって俺が頷いている間、凪が心酔するように語り出す。


「美夜子さんは魔族の宝です。顔もスタイルもいいですし、ただ話しているだけで心が安らぎます。まさに聖女様のようなお方ですね。その上、武術にも秀でていて鬼の力と剣術を合わせた戦闘スタイルはCRATの一個中隊を壊滅させるほど」


 てっきり料理の師匠だと思っていたが、CRATを壊滅ってヤバい師匠だ。CRATは通常の軍隊と違って、魔族で構成されていて、さらに特殊な武装を使う部隊だ。その戦闘力はどんな魔族でも討伐できるほどとテレビで見たことがある。


「そして能力はあらゆる薬を生成する妙薬研究所ミョウヤクラボラトリー。薬の調合に薬品や材料を必要とせず無から生み出し、万病を癒す様は奇跡としか言いようがありません」


 確かに奇跡だろう。あらゆる薬を作れるなんて夢のような能力だ。美夜子がいれば、どんな病気も怪我も治るってことだろうから……だがそれでも俺は助からなかった。たぶん死者を生き返らせる薬はないってことだろう。


「ここまで私が美夜子さんに聞いたときは『戦闘面で使えないのでは?』と思いましたが、薬の解釈を広げればもっと色々できるらしいです。色んな薬を過剰に投与し、変異させた特殊な魔族を生みだし、その変異魔族を使役して戦わせるんです」


「めちゃくちゃ説明してくるな……」


 なんだか歩くモンスター製造機みたいな話になってるし、それを凪が自慢げに話してる姿は無邪気なのに内容が物騒なだけに全然微笑ましくなかった。

 そうこうしていると、美夜子が来て「じゃあ稽古つけてあげるからついておいで」と凪を連れていく。

 このまま縁側でぼーっと過ごすのは暇だ。そこで俺も連れていってほしいとお願いすると、美夜子は快く頷いてくれた。


「うん、じゃあ日向も一緒に行こうね。お散歩ついでにみんなで旅館裏を散策しようか」


(次回に続く)

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