第11話 違法魔族とCRAT

 避難警報が鳴り響いていた。

 すでに鳴り始めてから数分たっているから避難する住民の声はほとんど聞こえないけれど、そんなことはもうどうでもいい。

 月明かりの下、打ちっぱなしのコンクリート床の上。そのマンションの屋上で、私――辻中美夜子つじなかみやこは怒りと悲しみに瞳を揺らしていた。


「こいつらの……こいつらのせいで先生センセは……」


 屋上の縁の前に人が倒れている。胸から流れ出た血が、血だまりを作っていた。

 彼は、危機偵察および強襲部隊CRAT隊員。フルフェイスヘルメットをかぶっていて、頑丈なパワードスーツを着ていた。

 その黒い装甲服アーマードナノスーツの傍らに狙撃銃が転がっている。


「この銃でセンセを……」


 私を狙っていた銃だ。魔族の私が、センセと結ばれたからそれを阻止するために特殊な銃弾が放たれた。

 けれど不幸が重なったから、私じゃなくてセンセが撃たれた。

 こめかみの上にある二本の白い角に触れる。


「私が、鬼だからいけないの? 愛し合うだけで、人の生命力を吸う化け物だから、こんなことになったの?」


 人間とそれ以外の種族が交わるとこの世のバランスが狂い、災いが起きるとデータが出ている。その原因として考えられることは、人間の繁殖能力の高さと魔族の能力が合わさることで起こる不測の事態だ。人間が魔族の子を作り、その子は人間の特性をもっているからどんな魔族とも交わることができる。


(人間は大抵の魔族と子供を作れるからね……それが人間の特性だから。だから私もセンセとの間に子供ができるのに……家族になれたのに……)


 人間の特性をもった魔族がさらに別の魔族と交わって、より強い魔族を作り出す。その魔族を制御できなくなったとき、災いが起きると言われていた。

 それによりこの国には、人を守るために異種族間性交禁止法や魔族管理法がある。これに違反した魔族は問答無用でCRATに粛清され、Aランク魔族の鬼はその危険性からその場で射殺されることも珍しくなかった。


「こんなの……あんまりだよ。私の能力でも、どうすることもできないなんて……」


 私の能力――妙薬研究所ミョウヤクラボラトリー。これは、あらゆる薬を無から生成できるもので、魔族ランクでいえばSSSランク相当の力で、使い方によっては国を揺るがすものだ。だからこの力を狙う者たちから隠れて人間の女子高生でとして暮らしていた。


(こんな能力があっても、センセ一人救えないなんて……)


 私は狙撃直後を思い出す。

 センセを引きずって窓から離れ、魔術で作った異空間から治療薬が入った試験管を取り出して中身を飲ませた。

 けれど、傷は治っても心臓も呼吸も止まったままで、センセは目を覚ますことはなかった。

 どんな薬でも死者を生き返らすことはできない。身体は元に戻せても魂はまでは戻せない。

 その事実に私は激怒した。


(なにがあらゆる薬を作り出す能力よ! こんな能力じゃ、センセは……!)


 そこでセンセの部屋に装甲服を着たCRAT隊員が押し入ってきた。彼らを返り討ちし、センセとの営みで脱いでいたスカートをはいてからマンションの屋上まで来た。

 そして今に至る。


「ん……?」


 シェルターへの避難が完了したのか、ウーウーと鳴っていた警報が止まった。

 それはもうすぐここが戦場になることを意味していた。

 私は気を引き締めながら片手に持った妖刀――鬼切景光おにきりかげみつの柄を強く握る。

 狙撃手をこれで倒したけれど、私の怒りも悲しみも消えることはなかった。


「CRATめ。私からセンセを奪って……許さない――」


 その瞬間、ジェット音が響いた。

 私を狩るためにCRATの増援が来たようだ。

 夜空を見上げると、住宅街の上空で無数の赤い点が光っていた。

 マイクロミサイルの噴射炎だ。

 そう理解すると私は手をかざし、異空間から赤い肉塊を召喚する。


変異泥漿オニブロブ


 マンションの屋上に佇む私を護るように赤い肉塊が展開された。その瞬間、肉塊がミサイルを飲み込んだ。ミサイルが爆発すると赤い肉塊が膨れ上がり、衝撃を吸収すると白いガスを噴きながら萎んでいく。

 私の能力で作り出したこの変異魔族は高い物理耐性がある。マイクロミサイルの爆発程度くらいじゃ死なない。


「裂け、変異泥漿オニブロブ


 そう言った瞬間、肉塊が小さく裂け、その隙間から私は正面を見た。


「見つけた……センセの次は私ってわけね」


 月明かりに照らされた人影が、民家の屋根やマンションの屋上に続々と飛び降りてくる。


「さっきまでいなかったし、ここまで聞こえたジェット音から考えると、おそらくレイヴン級降下艇から飛び降りてきたんだろうね」


 前にテレビで見たことがある。あの降下艇はずんぐりしたボディで主翼も短いけど、一隻で十人の隊員を輸送できる小型宇宙船だ。けれど私を倒しに来たのは一隻じゃないらしい。正面に展開された隊員は十人以上いた。


「正面と同じくらい左右にも部隊を展開してるだろうね……」


 面倒な相手だ。降下艇も装甲服も鬼の一族である九鬼家が作り、CRAT隊員に与えている。そんな彼らを何人も相手にしなければならないなんて、普通の鬼なら余裕で討伐される。

 けれど私は普通の鬼じゃなかった。


「人間と交わった魔族を排除する? それがこの世の秩序を守るなら、私が壊してあげるよ」


 高台から発射炎が瞬くと、変異泥漿オニブロブの肉壁にプスプスと高速徹甲弾がめり込む。


(実弾は怖くない。でも――)


 ジュュュュュュュュュプシュゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥ!

 実弾に混じって撃たれたプラズマ弾で肉塊が蒸発した。

 CRAT隊員たちはプラズマ弾が有効だとわかると、プラズマライフルを持った隊員に援護させながら端に展開したチームを側面から回り込ませてくる。


(もう持たない……! 早くここから離れないと!)


 変異泥漿オニブロブが倒される前に私はマンションから飛び降り、路地を弾丸のごとく駆けた。


「っ!? バイパー1、目標をロスト! 繰り返す、目標をロスト……!」


 隊員の声が聞こえる距離まで接近すると、私は鬼の脚力で飛び上がり、近くにいた隊員を斬りつける。鬼切の黒い刀身が装甲服を切り裂き、ひとりの隊員を屋根に沈めた。


「こっちにいるぞ!」

「側面に回り込まれた!? くそっ、このォォォォォォォ!」


 二軒挟んだ民家の屋根からアサルトライフルの銃口が私に向いた。銃弾が放たれるその瞬間、屋根から飛び上がって避け、さらに縦横無尽に空中を蹴って移動し、隊員に急接近する。まるで壁や天井を高速で跳ね返るスーパーボールのような私の動きに、隊員たちは圧倒された。


「なんだ!? この動きは……!?」


 困惑の叫びを上げた瞬間、彼の喉を鬼切で切り裂く。


「撃て! 撃て!」


 民家の屋根から隊員が銃口を向けてきた。鬼の脚力で素早く動き、さらに空中を蹴って避ける。

 これが私のもう一つの能力、空中移動スカイムーブ。飛行したり、空中を蹴って瞬間的に動けるもので、さすがのCRATでもこの動きについてこれる者はそうそういない。


「お前らが! お前らCRATがいるから! あの人を、よくも私から奪ったな……!」


 銃弾の発射炎が瞬く中、私は憎悪を込めて鬼切を振るった。一人を斬り捨て、次の獲物に肉薄する。そうやって側面に展開しているチームを次々と切り裂いていった。

 普通のCRAT隊員では、私の相手にはならない。だがそれは彼らが弱いわけじゃない。CRATは魔族ばかりで構成されていて、彼らのほとんどは人造人間ホムンクルス。前にテレビで魔力を持つ特殊な種族と紹介されていた精鋭だ。


「わたしが相手をする。お前たちは援護しろ」


 隊員を下がらせ、壮年の男が私から一軒離れた民家の屋根から前に出てくる。

 月明かりの下で、彼のグレーヘアが風に揺れていた。

 他の隊員はフルフェイスヘルメットだったけど、彼はミディアムショートの頭を出していた。ヘルメットの代わりに多機能ハーフガスマスクをつけている。特殊な装甲服だ。このタイプの装甲服を着ているのなら、彼は一般の隊員じゃない。隊長かそれとも特殊な能力を持つ隊員だ。


(見た目だけじゃなんの魔族かわからないけど、こいつが指揮官だね)


 私がそう思う間、グレーヘアの男は高周波ブレードを中段に構えた。

 すると、住宅街の一角から水柱がほとばしる。水が凝縮し、爬虫類を思わせるゴツゴツした頭を作り、その頭から長い胴体が空中に流れる。水で作られた龍だ。しかも一匹じゃない。六匹もいる。


「水を操る魔族!? しかもこの数の水龍を出すなんて……!」


 私は息を飲んだ。

 グレーヘアの男が片腕を動かすと、水の龍が次々と巨大な口を開けてこっちに迫ってくる。

 鬼切を振るって水の龍の頭を切り裂き、人間離れした動きで避ける。だが隊員たちの援護射撃と六匹の水の龍に追い詰められ、間もなく巨大な口に飲み込まれた。


「――ぐっ」


 息ができない。身動きもできない。


(これは水を結合させて操る能力よ……! その結合を一時的に無効にする薬剤を作らなきゃ!)


 私を飲み込むほど巨大な水龍の腹の中で冷静に考えると、魔力を手に集中させた。

(妙薬研究所ミョウヤクラボラトリー! 生成、水結合阻害薬みずけつごうそがいやく!)

 私が手元に試験管を作り出すと、


「今だ、撃て!」


 グレーヘアの男が指示を出し、隊員たちが一斉に銃弾を放ってくる。

 だが、その直前に流水阻害薬をばら撒いて水の龍を四散させた。私は反射的に弾幕をかいくぐり、異空間から三本の試験管を取り出すと、隊員たちの足元に素早く投げる。そのうち一本の試験管がパリンッと割れた瞬間、グレーヘアの男の脚にポリマーのような塊が膨れ上がった。


「なんだこれは……ッ!?」


 エネルギーを吸収して成長する変異魔族、電吸虫ポリマースワームだ。この変異魔族に装甲服のエネルギーシールドを食わせ、そのエネルギーを利用して急成長すると同時に相手を拘束した。


「お前が指揮官か!」

「ぐ……ッ」


 私が振り下ろした鬼切をグレーヘアの男がメタリックな刀身で受けた。その一瞬の隙をついてがら空きになった彼の腹を蹴った。足蹴りの衝撃で足元のポリマーが砕けると、装甲服が吹き飛んだ。そのまま屋根から落ち、民家のブロック塀を突き破ったのか、石の破片が舞い上がる。


「隊長! この化け物めッ!」

「距離をとれ! 接近戦はこちらが不利だ!」


 民家を数軒挟んだ先にいた隊員たちが離れていく。その後退を左側に展開した隊員たちが射撃で援護すると、私は左手を掲げた。異空間から変異泥漿オニブロブを召喚し、銃弾を防ぐ。


「あ……」


 銃弾がプスプスと肉塊に食い込む音を聞きながら私は目に涙を溜めていく。

 左手に指輪がはまっているのが見えたから。これが、私とセンセの幸せの証になるはずの物だったから。

 今は善戦してるけれど、このまま戦い続けたらきっと私は殺される。


「もう無理かな……CRATには汎用人工知能シロネがいるから……」


 あのAIに私は解析され、効率的な討伐プランを用意されたら私に勝ち目はない。


(私も死んじゃったらセンセ、きっと天国で悲しむだろうなぁ。それに、センセとの赤ちゃんもできてるかもしれないし、やっぱりこのまま戦い続けるなんて私にはできないよ……)


 私はそう思うと、二階建ての民家の屋根から飛び降りた。

 生き残るんだ。私が死んだらセンセとの思い出すらなくなっちゃう。そんなのは絶対に嫌だから。

 鬼の脚力で地面を蹴り、車よりも早く走る。そうやって私は県境の山に向かった。


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