第10話 運命の相手

「ご、ごめん! 俺、大人なのに、失敗するなんて……」


 午前〇時前の深夜、俺は自室で土下座をしていた。

 フローリングの床には美夜子の白い足が見えている。


「センセ、大丈夫だって。ほら、顔を上げて」


 言われた通り視線を上げると、ベッドに座ったまま美夜子が微笑んでいた。

 胸元がはだけ、巨乳の谷間が露になっている。スカートも脱いでいるから、足首から足の付け根まで魅惑のライン流れていた。白いブラウス一枚の美夜子は扇情的で、濡れ場直後の甘い雰囲気をかもし出している。

 そんな彼女が俺のベッドに座っているんだ。興奮しないわけがない。

 だがこの状況が逆に申し訳なくなって、俺は責任の重みに引っ張られるようにうつむいた。


「まさかゴムが破れていたなんて……」


 気づかなかった。

 行為中にゴムが破れてそのまま中に出してしまった。美夜子と付き合ったその日に中に出すなんて……最低だ、俺って最低だ……ゴムも満足に使えないなんて。


「そんなに落ち込まなくてもいいのに……私だって使う前にチェックしたんだし、それで破れたなら二人の責任だよ」

「美夜子……」


 なんていい子なんだ。パニックになったりも怒ったりもしないで俺を気遣って二人の責任だなんて……本当にこの前まで女子高生だったのか疑わしくなる包容力だな。

 俺がそう思っていると、美夜子はお腹をさすりながら微笑んでくる。


「それに、もしこれで赤ちゃんができても責任取って、私と結婚してくれるよね?」

「ああもちろん! 任せてくれ!」


 俺だって半端な気持ちで美夜子を抱いたんじゃないんだ。

 本気で愛してるから、結婚してパパになる覚悟くらいできてるさ!

 そう思うと、俺はしんみりした調子で口を開く。


「赤ちゃんかぁ……一回でできるものなのか?」

「何言ってるの? センセのことが大好きでたまらない私だよ? 一発で孕むに決まってるよ」

「まぁ赤ちゃんは愛の結晶って言うし、俺のラブパワーなら確実にできるか……」

「ふふっ、ラブパワーって自分で言って恥ずかしくならないの?」

「馬鹿にするなよ――」


 立ち上がった瞬間、俺は膝からがくっと崩れ落ちた。


「――あっ」

「おとと……!」


 美夜子が支えてくれた。はらりと赤いメッシュが入った長い黒髪が俺の肩口をくすぐる。

 なんだこれ? 身体がおかしいぞ……。

 手にも足にも力が入りづらい。まるで生気が吸われたように身体の力が抜けている。


(そんな激しくしたかな? いやでも、普通にしただけだぞ……なのに、ここまで疲れるっておかしくないか?)


 俺は眉をひそめ、美夜子に助けられながらベッドに座った。


「なんか俺、すごく疲れてるみたいだ。悪いけどそろそろ眠るから――」

「センセ」

「ん? なんだ?」

「さっき言ってくれた責任の話なんだけど、形に残るものにしたいの……」

「形に残るものか……何か欲しい物でもあるのか?」

「結婚するんだから一つしかないでしょ」

「もしかして、指輪とか?」

「正解です」

「いや、さすがに今は無理だぞ。また今度二人で買いに行こうな」

「今がいいの……今じゃないとダメなの……」


 美夜子の顔がどんどん不安に曇っていく。

 楽しみで待ちきれないって感じじゃないな……何か事情でもあるのか?

 そう思いながら部屋を見渡す。ベッドの横にはソファー。その前にはテレビがあるだけだから収納場所はといえば、クローゼット横にあるタンスだ。


「アクセサリーはタンスの引き出しに仕舞ってるから見てみてくれ」

「うん……」


 俺が指差すと、美夜子がタンスに向かった。一番上の引き出しをガサガサし、そこから手のひらサイズの小箱を取り出した。


「センセ、これって……あ、指輪だ。太陽と月の模様が入ってる……!」

「……ああ、それか」


 美夜子が持ってきたのは俺が大学時代に買ったファッションリングだった。

 シルバー系の指輪で、太陽の模様が彫られた物と三日月が彫られた物のセット品だ。


「これ可愛い……太陽って真昼センセにぴったりだね」

「まぁそう思ったから買ったんだけどな……でも買ったあと知ったんだけど、これ、ペアリングだったみたいで月の指輪の方は女性サイズだったんだよな……」


 あの時は地味に凹んだ。

 大学時代の友達に『彼女もいないのにペアリング買うとか可哀想な男だな』って言われたし、サイズが小さいから小指に指輪をはめてたら『右手にカップルリングか……右手だけリア充だな、このセルフリア充』なんてことも言われた。

 なんて不名誉な称号なんだ。


「あ、ぴったり。見てセンセ」


 だが今は違う。指輪をはめた美夜子が左手を突き出している。


「マジか……ぴったりって。こんな偶然ってあるんだな」

「偶然じゃないよ。私はセンセの運命の人だからぴったりで当然」


 茫然と眺める俺に向かって、美夜子は自慢げに胸を張ると左手の薬指にはまった指輪を大事そうに撫でた。


「ねぇねぇ、これ婚約指輪にしようよ」

「そんなのでいいのか? それ安物だぞ。ただのファッションリングだし」

「いいんです」


 美夜子はそう言うと、ベッドに座って俺の手を握り、太陽の模様が彫られた指輪をつけてくれる。


「あれ? 俺もつけるの?」

「ペアリングだからね」

「でも婚約指輪は女性だけがつけるものだと思うけど」

「じゃあ、結婚指輪になっても私はいいよ?」

「いや、そこはさすがにちゃんとしたものを用意するよ……ふふっ」


 胸の奥が温かかった。美夜子を見ていると、愛おしい気持ちがどんどん膨れ上がってくる。

 付き合い始めて敬語が少なくなって言葉的に距離感が近づいたし、俺を見る目が恋人を見る目になっている。

 あぁ……なんて幸せなんだ。前よりずっと近くに美夜子を感じる。

 俺が頬を緩ませていると、美夜子は俺の手を握ったまま口を開いた。


「ねぇ、センセ」

「なんだ?」

「約束して……私に何があってもずっと一緒にいるって」


 困り眉を作り、美夜子が不安そうに赤い瞳を揺らす。

 こんなのを見せられたら俺が言うことなんて一つしかなかった。

 美夜子の肩に手を置き、そっと身を寄せる。


「当たり前だろ。ずっと一緒に――」


 その瞬間、俺の声は窓ガラスが割れる音に遮られた。


 ビシュ!


 背中に衝撃走り、息ができなくなる。


「うっ……!」

「センセ……!」


 熱い。背中と胸が焼けるように熱くなって、俺は思わずベッドに倒れた。


「ウソ……なんでこんなに早く来るの……」

「ぐっ、うぐっ……!」

「センセじっとして、狙撃されたから……!」


 美夜子が片手で俺の背中を押さえ、傷口を圧迫してくれる。

 狙撃? なんでそんなこと――いやそれより何が来たんだ……?

 そう言いたかった。

 だが俺の喉からでる声は息を詰まらせたようなかすれた声だけだった。


「まだ大丈夫、まだ間に合う……」


 美夜子がぶつぶつそう言う中、


『――美夜子ちゃんとこれ以上親密になったら、先生には必ず不幸が訪れますよ』


 ふと鳴宮の言葉が脳裏によぎった。

 これが不幸っていうのか……。

 俺は眠るように瞼を閉じた。


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