第12話 CRAT指揮官

 あの鬼の少女にまんまと逃げられた。これは大きな失態だ。

 わたし――本郷明人ほんごうあきひとはグレーヘアの頭を押さえ、深いため息をついた。

 わたしはSランク魔族の蛟竜ミズチでその上、新型の装甲服で魔力を増幅していたのにあっさり負けた。


「なんなんだあの鬼は……わたしが負けるなんて……」


 蹴り飛ばされて、ブロック塀を突き破って転がって、それから復帰して戻ってみると、鬼の少女は姿をくらましていた。


(こうなったら追跡は汎用人工知能シロネの出番だ)


 あの人工知能AIは世界初の汎用人工知能AGIで、様々な問題を柔軟に対処することができる。CRATでは戦略や戦術のサポートをさせており、具体的には日本中の防犯カメラの映像を解析させ、違法魔族を検知し、わたしたちに報告させていた。

 追跡はAIに任せ、わたしは最初に鬼の少女の魔力を探知した部屋に行ってみる。そこには、若い男性の遺体があった。男を調べてみると、左手の薬指に指輪をしていた。


「あの鬼の男か……ということはあの鬼の識別コードは決まったな」


 わたしは遺体を回収しながら言葉を続ける。


未亡の花嫁ウィドウブライド……配偶者を殺された者は強いぞ。怨嗟の念にとらわれた怪物になるからな」


 また奴と戦うときは必ずくる。それまでに、今度は確実に勝てるように備える必要があった。

 今回は四十名も死傷者が出てしまったが……次こそは必ず仕留めるぞ。あの鬼を……。

 わたしは車両に遺体を乗せると、そう決心したのだった。


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