第4話 女子生徒に相談を受け、動揺する教師の俺

 いつものように職員室で私物をまとめると、俺は理科準備室に向かった。

 準備室の前に辻中が待っていた。


「センセ、相談があるんですけど」

「ん? なんだ?」

「ここじゃなんだし、中に入りましょう」

「ああ」


 俺が先に中に入ると、辻中は後ろ手にドアをそっと閉めた。


「さっきね。木村くんにこくられちゃった」


 やっぱり……こ、告白されたのか――って何動揺してるんだ、俺。学生同士なら健全だろう。いいじゃないか……いい、じゃないか。

 教師としては学業に支障がなければ応援してやるのが正解だろう。だが俺はそんなできた教師じゃなくて「へー、そうか……」と聞き流すように答えた。

 辻中のことが好きだから、応援なんてできるわけないだろ……。

 だから俺は「何か飲むかー」と言って電気ケトルを置いてあるテーブルのところへ逃げるように歩んだ。


「ねぇ、センセはどうしてほしい?」

「どうって、いや、俺が決めることじゃないし……」

「ちゃんとこっち見て」

「ん……」


 振り向くと、赤い瞳と目が合った。失望したようなちょっとだけ冷たい目だ。


「センセが素直にならないから私ずっとフリーだし、高一のときから待ってるのに全然相手してくれないし」

「それは……」

「今年受験だからちゃんとした恋愛ができるのも夏休みまでだから、センセが素直にならないならこのまま木村くんと付き合っちゃおうかなー」

「そうか……」


 言ってやりたい。

 そんなこと言うなよって。俺の方が木村よりずっとお前のことが好きだって。

 でも言えない。俺たちは教師と生徒だから、モラル的に付き合っちゃいけないから。

 俺はぐっと歯を食いしばって耐えることしかできない。


「木村くんって、顔もいいし、成績だって悪くないし、女子人気高いんですよねー。しかもイケメンでモテるのに、それを鼻にかけなくて謙虚だし」


 聞きたくない。


「優しいし、私のことちゃんと見ようとしてくれるんだよねー」


 聞きたくない。


「それに、センセと違ってあっちの方でも積極的かもだから、求められたらどうなるかわからないかなー」


 辻中の口からこんな話なんて聞きたくない。


「知ってます? 女の子は、一〇代のうちに三割くらいが初体験を済ませるらしいですよ。夏休みも近いし、休み明けには私も済ませちゃうかもしれませんね」

「あ、ああ……」


 その瞬間、脳内に映像が流れた。

 デートの帰り。木村から『今日、親いないんだ……よかったら俺の家、来ない?』と誘われた辻中が恥ずかしながら頷く。その後、あれよあれよという間に木村の部屋へ連れ込まれ、辻中はベッドに押し倒され、ブラウスのボタンを外される。そして豊満な胸が露になり――


「ぐ……っ」


 無理だ。これ以上は脳が破壊される。

 まだ辻中は俺のモノじゃないが、俺が素直になれば付き合うって雰囲気出してたんだぞ。これじゃ寝取られNTRモノみたいじゃないか。そんなの耐えられない。


「なんだか気持ち悪くなってきた……」


 コーヒーを飲む気分にもなれなくて、俺はどさっと席に着く。そのままデスクにつっぷして俺は、うう……、と呻いた。


「センセ、二日酔いみたいですね。背中擦ってあげますよ」


 酔っ払いの面倒を見るように辻中が俺の背中を手のひらで優しくスリスリしてくる。


「それ、吐かせるヤツだから、気持ち悪いって言っても俺の場合は脳へのダメージで……というか誰のせいで気持ち悪くなったかわかってるのか?」

「私うまいんですよー、おじ様で慣れてますから。いっぱい出させるの」

「おじ様だと……!?」


 俺は勢いよく立ち上がった。わっと辻中がビックリして手を引っ込める。

 まさかイケナイバイトか!? おじ様からお小遣いをもらってサービスする的な……!

 辻中が非行に走っているかもしれないんだ。俺の全身全霊を持って指導してやらないと。


「ダメだ、辻中」

「もしかして、怒ってます?」

「言わないとわからないのか?」


 俺がじっと見つめると、辻中は黙ったまま目をそらした。いつもなら見つめ返してくるのに不自然だ。これは後ろめたいことがある証拠だろう。


「辻中、ダメだろう。まだ学生なのに――いや、学生じゃなくてもダメか。俺は絶対に許さないからな」

「それってつまり……」

「何かあるならいつでも俺が相談に乗るから……それとも、俺じゃ頼りないか?」


 俺がそう言うと、辻中はうつむいた。


「……ってきます」

「え?」


 よく聞き取れなくて顔を近づける。すると辻中は、


「うぅ……断ってきます、木村くんの告白……!」


 頬をうっすらと赤く染め、的外れなことを口走った。

 え? なんでそこで木村が出てくるんだ? いや、そんなことより。

 俺は辻中の肩に手を置いた。


「とにかく心配だから、今度辻中の家に行くから。いいな?」

「そんな急に、お母さんに挨拶するだなんて……」

「いいな?」

「は、はい……伝えておきます」


 なんだか辻中がよそよそしくなったが、俺は気にせず家庭訪問の日程を確認したのだった。


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