第13話 螺旋



 黒いSUV車の後部座席に乗っているみなみ・・・・。






 街中を走行中でした。




 みなみは、きたのの部下と同行していました。




みなみ「しかし、初めて見る顔だな。きたののとこに入って何年だ?」




ツモリ「今年でもう・・・10年・・・、11年目ですねぇ。」




 このきたのがよこしてきたツモリという男、先程出会ってから異様な雰囲気を放っていました。ヤバい奴だということだけは分かります。



 髭を生やし、中折れハットにサングラスをしており、はっきりと素顔が分かりません。




みなみ「11年目?・・・・。今までどこに居たんだ。きたののとこの人間ならほぼ会った事あると思ってたんだが・・・・。」




 車は少しオフィス街から離れた路地に停まりました。



ツモリ「・・・みなみさん、マンダが居る場所ってのはそこの事務所ですか?」



 マンダは本社事務所の他に、出先機関として様々な場所に事務所を構えていました。一時期オーラスとも取引があった為、マンダが一番居る可能性が高い場所を知っていました。




みなみ「だな。ほら・・・・あれ・・・丁度出て来たな・・・。いつみても嫌な顔だ・・・・。また変な色のスーツ着てやがる・・・。」




 車を停めて間もなく、丁度マンダが事務所から出てきました。




ツモリ「・・・・・おいオカ、あいつの写真撮っとけ。」



オカ「はい。」




 助手席に乗るオカが携帯電話で写真を撮り始めました。




 カシャ・・・・





 ・・・・・・・




みなみ「・・・ツモリ、じゃあ後つけてみるか?この後はどこに行くのか予想はつかない」




 ツモリはゆっくりと被っていたハットを取りました・・・・。




ツモリ「みなみさん、ここから先は俺達の仕事ですんで。・・・今日はありがとうございました。」




みなみ「えっ・・・は?・・・もぉ終わり?・・なんかえらい淡白だな。」




ツモリ「目途がついたら、直ぐにみなみさんから離れるように社長から言われています。・・・もう暫く会う事は無いと思いますが、またお会いした日には宜しくお願いします。是非私の事、覚えといてやって下さい。困ったら社長かこのオカを通して連絡下さい」




オカ「兄貴、写真撮れました。取り巻き、一緒に居た秘書もばっちりです。」



 その頃・・・・。



 バキョウの監視を振り切ったにしまとポンは港に居ました。




ポン「直ぐに撒けましたね!」




 ポンの運転テクが光り、尾行していた連中から逃げることが出来ました。



にしま「なんなんだろうな・・・・。みなみに何かあったんだろうか・・・。」




ポン「え?!・・・・戻りますか?!」




 ここでみなみからメールが入ってきました。





【連絡場所から離れて、にしまはこの前一緒に行ったアリスの店へ行ってくれないか。そこで待ち合わそう。ポンは事務所に帰らしていい。もうきたのが動き出したら止まらないけど、せめてアリスから事前情報を貰わないと。】





にしま「良かった、無事だ。今みなみから連絡来た」




ポン「良かったぁ!!」




にしま(事前情報????・・・・それより、なんなんださっきの連中は・・・・きたのが向かわせたのか?・・・・・。・・・あいつが俺達に危害を加えようとしているんだろうか・・・。もし・・・きたのの意思じゃないとすると・・・・内部分裂が起きてるんじゃないか?・・・そうとしか考えられない・・・。・・・こっちも腹括ってやるしかない・・・。)



 バキョウの監視がついてることに気付き直ぐにコインパーキングを出ました。一体今何が起きているのでしょうか。



にしま「ポン、このメールの通りだ。俺達は一旦ここから離れよう!少し遠回りして帰ろう、まだ近くに居るかもしれない。」




ポン「・・・・はぁーい!!一旦戻りましょう!!」





 ・・・・・・・・・・・・・・・




 ・・・・・・・・・・・・・・・




 ・・・・・・・・・・・・・・・





 その頃、アリスの店「fan」では・・・・・




 そこには出勤前の白い私服姿のハクが居ました。




 アリスと従業員である銀髪に赤のメッシュが入ったチーという女性と話していました。



 チーも元オーラス興業の社員でしたが、アリスが退社した際に一緒にオーラス興業を抜けてこちらで勤めていました。



ハク「チーさん、おかわりー。」




チー「同じのでいいでしょ?」




ハク「うん、お願い!本当は・・・お酒飲みたいんだけどね!!(笑)」




チー「ははは。そんな事したらまた、みなみくんに怒られるよ(笑)」




アリス「言わせとけばいいのよ。逃げる時にしか来ないような奴なんだから(笑)」




 夜の仕事の前にアリスの店に寄るのが日課になっていました。



 なんだったら夜のこれからの仕事が終わってからも来るようになっていました。



 要するにこれはハクが編み出した「アリスサンドイッチ」です。




 オーラス興業は男性が多い職場なので、女性同士で話す機会をこの「fan」で作っていました。




アリス「なんか、オーラスも忙しくなってきたのはいいけど、それに伴って・・・きたののとこも最近慌ただしくなってるわね。あまり見かけない王牌わんぱい幹部達が表に出て来てるけど・・・・。この前、ハツモトくんが来た時に、きたのの店と取引をやめようかどうするか迷ってたわ。最近のオーラスは大丈夫なの??」




 アリスの言葉にハクとチーは驚きます。




チー「ホントですか?・・・オーラス興業はきたののとこと離れようとしてるんですね。」




 チーが勤めていた頃からずっときたのの会社とは付き合いがありました。それをここで切ろうとしているのです。ハツモトは何かに気付いたのでしょうか・・・。




ハク「アリスさん、あの・・・前から聞きたかったんだけど・・・きたのって一体何者なんだろうね。私から見て顔は凄いカッコいいし、会うと凄く私に対しては良い人に見えるんだけど、最近仕事で私達が動く先に必ずと言っていいほど居るのよ!ホントに!・・・ビックリするくらい居るのよ!あっ、きたの本人が居なくてもその部下みたいなのが出て来る事があるし!・・・みなみもにしまもそれに対しては分かっていて、心では嫌だと思っていても、あんまり言わないしさぁ・・・。友人なら正直に言えばいいとか思わない?しかも子どもの頃からの友達だよ?」



 出されたソーダ水をグイっと飲み干すハク。



アリス「きたのはね・・・もうかなーり昔の話だけど、バーでボーイをしてたのを知っているわ。私も昔その店に行ったことがあるんだけど、その頃からもぉホント・・・とにかくいい男でね。話も上手いし、凄く人気で評判がよかったのよ。あれは女性であれば一発で心も体も持っていかれるわ。でも・・・・いつからだったかな・・・・あんな風になったのは・・・・・。気づけば周りに仲間が大勢居てね。まぁ、私が思うにだよ?・・・・あの男には色々な面があると思うんだけど、単純に一言で言うと、金の嗅覚がズバ抜けてる男と言った感じかなぁ。」



ハク「・・・・それで言ったら、みなみも変わらないよ。私の派遣先にお金を貸す代わりに私や他の女の子を入れて売上が上がれば時給ではなく、成功報酬としてその分のアガリを抜くのよ。最終的に払えなくなったら店を買収するか土地と建物を取り上げるんだろうなぁ。・・・そこがうまくいかなければ、きたのとかに売ったりしちゃうんだろうね!どうして男の人はお金お金なんだろう!」




 ハクは首を傾げます。



アリス「そうかもねぇ・・・・。ハクちゃんはどうなの?そういうの見るのつらい方?」




ハク「うん!人が堕ちていくのはつらいし、あんまいい気はしないかな!・・・でもね、そういうとこで働いているとさ、借金してる側の自業自得な部分が見えてしまって、仕方ないのかなぁ・・・って思っちゃうことがある・・・・。・・・男の人にあんまりガミガミ言わないようにって、子どもの頃から父親に言われててね(笑)もしも私がガツンと言えばこの人助かったんじゃないかなって思う事が何回も今までにあったんだけどね!・・・父親が言ってる事はホントに正しかったのかな!?」



 ハクは片親でした。物心ついた時には父親と2人暮らしが始まっており、幼き頃の面倒を見てくれたのも、遊び仲間も、悪い仲間も、全て父親の経営する土建屋の従業員達でした。



チー「言おうとは思ったんだね。」




アリス「それならまだ安心だわ・・・。こんな事ばっかりやってるとそういう感覚がマヒしてくるからね、気を付けてね。度々自分と向き合う事を忘れないでね。」




 少し時間が空き、ハクが考えながら口を開きました。



ハク「お店は盛り上がってるように見えて、みなみやハツモトさんもお金を落としているように見えて、・・・オーラスにアガリを抜かれるから結局お店は赤字!オーラス興業のグループ会社のみなみが元々居たオーラス金融から借りてたお金も全然返せなくて首がまわらなくて、またお金を借りる。この・・・なんだろうな・・・表現が難しいんだけど・・・・普通にしていれば幸せなのに、反発する変なサイクルのような物・・・が私達の周りをグルグルグルグル回っているようなそんな感じ?一度関わっちゃったら、足を踏み入れちゃったら、それに依存して生きていくっていうね。みなみなんかからお金を借りたら、最終的には全てを取られるのが分かっているのにね・・・・。・・・みなみは外面はいいけど、本当の内面は人を許さないタイプだから。・・・・破産に向かって行くっていうのが本人達が分かった頃には、もぉうちの会社が手のひら返しで牙をむいてる頃。」



アリス「またいつもと変わらない日が続いていると、そう見えてるのは周りの他人だけだからね。」



チー「言えてます。」



ハク「そうなのよ!!外面良くても内面はズタズタ!!見栄っ張り!!みんな、・・・もぉ全員見栄っ張り!!(笑)笑っちゃうよね、どうしてそんな見栄を張るのかなぁ!どう考えても役に立たない、絵に描いた餅を溺愛する人間が多すぎる!もっともっと、目の前の事に集中すれば幸せなはずなのに・・・。」




 ・・・・・・



 そんな場面をこれまでいくつも見てきました。金を返せない大人の悪いクセも、堕ちていく人間達も、その子ども達も・・・。みなみの良い所は大好きでしたが、この仕事をすればするほど、みなみから言われた仕事を請け負えば請け負うほど、派遣先で恐ろしい場面に遭遇する事がありました。・・・・女性にしては度胸があると周りに言われて育ってきましたが、所詮田舎育ちの私にとってそれは全て、凄まじい恐怖でしかありません。



 ほぼ同期のにしまやポンが拠り所であり、みなみはどんどんどんどん離れていくような気がしてなりませんでした。




アリス「ハクちゃん、早くうちの店に来なさい。そういうのを見なくてよくなるから。」



ハク「いや・・・先ずはアリスさんみたいに、オーラスで役職者になるよ私は!みなみやにしまやポンちゃんに負けてられない!(笑)そしてアリスさんのとこでも頑張る!・・・やることが沢山ある!!(笑)・・・あー・・・もぉ仕事の時間だよ・・・。」




アリス「行ってらっしゃい。」




ハク「・・・・・・アリスさん、なんでみんなして勝手に悪い方向に向かって行くのかな?今日はそれが知りたい!今日それを聞いてから仕事に行きたい!」




 アリスはその言葉を聞いた時に優しく笑みを浮かべました。



 入社してすぐにここまでハクは辿り着いている、嬉しくもあり、悲しくもありました。







 それはね、ハクちゃんがいうその発生している妙な螺旋のようなもの?




 あらゆるものにそれが存在していて、それがある事を全員が受け入れてる。




 仮にね、仮にだよ?これをすれば幸せになる事が出来るセオリーがあるとするじゃん?




 でもね、そうだとしても所詮醜い人間。新しい流れを作って、自分が更にもっと有利になるように軌道を変えてセオリーを思い切り曲げようとするのよ。




 それがいつしか主流になって、全員がなんとなくでも乗っかってしまえばあとは簡単、一人勝ち。その他の大多数は負け組。そうなるとハクちゃん、どう?・・・・周りから見てどう映る?・・・あまりいい顔しない人達が大勢・・・出て来るんじゃないかな?




 きたのの手中にはもぉ、長年連れ添った幹部達の他に、血を分けた兄弟のようなみなみとにしまが居るわ。・・・これまでと同様、目に見えるものは勿論。・・・これからは水面下でひっそりと働いている不平分子全てを、切り裂きにいくはず。もぉそれは分かってる。何年も前からこうなる事が分かってるのよ。

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