第12話 南と北野
マンダに絡まれ、アリスさんと出会ってから、何日か経ちました。
何事も無かったかのように俺達は普段の仕事を続けていました。相変わらず駅での求人募集については上手く行っておらず、テコ入れが必要のようです。
休憩時間になり、一度事務所に戻る事になりました。直接ハツモトさんに成果を報告します。
ハツモト「おおそういえば、この前の飲み会後にアリスさんのお店に行ったの?」
にしま「はい、行きましたよ。ハクが何故か凄いアリスさんに気に入られちゃって、お店に行くからにしまも来てって昨日誘われました。俺は仕事で行かれませんでしたが、どうやらもうハクは入り浸ってるようです。俺もポンも凄くアリスさんに対して好感持てまして、また休みの日にでも顔出してみようと思います。」
ハツモト「おお、よかったな。それはきっと喜ばれるわ。後輩が来てくれるのは嬉しいはずだ。・・・というか・・・みなみがあそこの店に行ったってことは、誰かに追いかけられてたんじゃないか?・・・」
ギクッ・・・
ハツモトさんにはもぉお見通しでした。
ハツモト「まぁ・・・こちらからみなみの事は深く詮索はしないけど、あんま厄介ごとにならないようにしてくれよ。もしもの時はこちらも対応するし、会社の不利益になる可能性もあるなら判断早めに俺に連絡をくれ。・・・・とは言え、それはうちの会社らしくないか(笑)アリスさんが昔よく言ってたけど、何事も深く追及してこそオーラス興業っていう考え方がある。実際それでドンドンデカくなった会社だからな。何か少しでも旨味が見えるまでは決して諦めないスタイルなんだ。」
にしま「それはそうですね。せっかくOGの店に行くなら何かを学んで、自分にとってプラスになれば良いとは思ってます。・・・・みなみの件は了解致しました。」
ハツモト「これからは間違いなくにしま達の時代だ。しっかり追及すると、相手はどこかでボロを出す。まずは自分が納得いくまでやってくれな。・・・それじゃあ・・・この前の工場の補充案について話を詰めていこうか。」
・・・・・・
・・・・・・
・・・・・・
トゥルルルル・・・・・・
基本的にはマナーモードのみなみの携帯電話が今日は鳴りました。
みなみ「おう。」
「・・・今から時間あるか?」
20分後・・・・・・。
ポンの運転で、市内のとある場所へ向かっていました。
にしま「はぁ?・・・・きたのが?」
みなみ「あぁ、先日揉めたマンダの件だろうな。恐らくどっかから少しずつ話が漏れてる。一瞬揉めただけで直ぐにきたのの耳に入る。恐ろしい世の中だよまったく・・・・。これでこちらも動かざるおえなくなった・・・。」
にしま「仮にきたのの話が先日のレートの話だとすると、どうやって切り返す気だ?どうにもならねぇだろ。あいつに正論で言ったって、多分通用しないぞ。それ以外のカードは持ってるか?・・・・」
にしまは確認の為に言いました。普通では成り立たないのです。一般社会のルールや建て前はきたのの前では通用しません。
みなみ「勿論それはわかってる。実は俺なりに・・・あれから色々と調べてきたんだ。それを話すしかないだろうな。実際、きたのもマズいんだ。最悪俺ときたので共倒れで終わり・・・・っていう流れは向こうは面白くないわなぁ・・。」
みなみは腕を組んでずっと考えていましたが、車中では答えは出なかった様子でした。
ポン「みなみさん、着きましたよ!」
みなみ「着いたか・・・。」
『紅孔雀』(べにくじゃく)と看板に書かれた中華飯店でした。
にしま「飯屋?・・・あいつと飯食うのか?・・・こんな中途半端な時間に?」
みなみ「食わん。・・・ここはな、きたのが連絡場所に使ってる拠点の一つだ。昼間は大体ここにきたのは居る。覚えといてくれ。・・・じゃあ少し離れた所で待ってくれ。」
にしま「よしわかった、なんかあったら連絡くれ。」
先読みしなければなりません。これからどういう事になるのか・・・・。俺はそれをみなみから託されました・・・・。
紅孔雀の扉を開けると、先日お邪魔したきたのの店「DORA」の責任者であるバキョウを含む4人のスーツの男達が入り口側の席に座って居ました。パーマが特徴的な男でした。
バキョウがこちらに向かって歩いてきます。
みなみ「なんだよ、厳重だな、なんも持ってねぇよ。」
バキョウ「社長が奥の席でお待ちです。」
身体検査を受けるみなみ・・・・・。
みなみ「・・・・・・・・・・・」
奥の個室の席に案内されました。引き戸を開けると、きたのがジッポライターをいじっていました。
カチャ・・・・
カチャ・・・・
みなみ「なんだよ、こっちは忙しいのにお前はカチャカチャカチャカチャやって暇そうだな。どうかしたのかよ?」
目も見ずにきたのは答えます。
きたの「よぉみなみ、・・・・あの件バレてないだろうな?・・・・俺達の・・・・」
開口一番、直球ストレートで来ました・・・・。何か手を打っているのか、ズバリこちらに聞いてきているのです。
みなみ「・・・バレてるわけがないだろう・・・」
きたの「・・・それはホントか?・・・」
みなみ「ああ、多分な・・・。」
きたの「マンダがうちの店に来た時に、お前が店に入れてる女と話していたらしい。バキョウがそれを聞いてたようだが・・・・。」
ちらっと入り口側に目をやる・・・・。
みなみ「・・・そんな近くまでいってんのか、それは俺に案があるんだよ。なんとかするさ、じゃあまた電話するよ。すまないがこれから大事な用がある。」
きたの「・・・・・・」
立ち上がり、出口に向かうみなみ・・・・。
無表情のバキョウが通せんぼしてきました。
みなみ「あ?・・・なんだよ?・・・」
バキョウ「・・・・まだ社長の話が終わってません。席に戻ってください。」
みなみ「戻らなかったらなんかあんのかよ、こっちも用事があると言ってるだろ。」
バキョウ「みなみさん、穏やかじゃないですね。つつがなく・・・ここから帰れると思ってますか?私を殴り倒しても外にうちの者が山程居ますが・・・・。さっき2ブロック先のコインパーキングに車停めてましたよね?・・・・にしまさんが何かに気づいて動かしたようですが。もう一人、この前居なかった若いのが運転してますよね?」
店の外にはスーツ姿のバキョウの手下達が立っていました。
既にみなみの車はバキョウの監視下に入っているようです。
みなみ「ほぉ・・・・。・・・そうだ、丁度お前に聞きたい事がある。その店で聞いた話というのは本当の事だろうな?」
バキョウ「確実ですよ。私はこう見えて視力と聴力には自信がありますから。そういう仕事を何年もやってます。」
みなみ「フカしてたら承知しねぇからな。」
バキョウ「・・・・社長がまだ話があると言ってます、みなみさんには悪い話はしないと思いますので、席に戻ってください。」
みなみは店舗の天井を見上げます。オールバックの髪を整えます。
みなみ「・・・カンから聞いたわ・・・お前幹部になったらしいじゃねぇか。・・・そんな事言ってるけど・・・・結局はきたのの影に隠れてやってるだけだからな。それを忘れんじゃねぇぞ。穏健派のフリをしてるのはわかってんだ、偉そうにしてんじゃねえぞコラ。」
みなみは穏やかではありません。このバキョウという男の本質を知っているのです。
バキョウ「・・・別に、あなたに何を言われてもいいです・・・所詮噂話でしょう?・・・とにかく席に戻って下さい、それが今日の私の仕事ですから。」
みなみ「仕事?・・・お前の汚いやり口は昔から知ってる。多少信頼された家族は騙せても、他人の俺達は騙せないからな。」
バキョウ「社長を騙してるつもりはない、ただ真実を言ってるだけですから。」
みなみ「おう、そうか・・・じゃあ、それなら、きたのと2人にしてくれよ。」
バキョウ「それで席へ戻って頂けるんですね?」
みなみ「戻るさ。そもそも社長が友人の俺と話してるだけなのに、ボディーガードは必要ねえだろ。この前みたいに気を遣ってどっか行ってくれ。」
バキョウ「わかりました。それでは・・・・おい、行くぞ。」
バキョウは直ぐに入り口付近に居る連中を連れて店から出ていきました。
みなみ「あのクソ野郎・・・・」
・・・・・・
・・・・・・
みなみは席に戻りました。
みなみ「・・・予定通りバキョウをどかしてきた。・・・俺もこの前マンダに会った・・・。」
きたの「そうか。そうだったか。」
みなみ「なんとかするから少しだけ俺に時間をくれないか。」
煙草に火をつけるきたの・・・。
きたの「・・・みなみと2人で共倒れならそれでいいんだが・・・・。・・・・これは俺の、いや俺達の会社が仕事がかかってる。お前は最悪1人・・・しかしこっちには何人も・・・何人も何人も・・・従業員を抱えてる。・・・・お前その事わかってんだろうな?・・・」
きたのの表情が変わりました。本気です。
みなみ「わかってるよ。どうにかするから。・・・そもそもこれは2人で始めた事だが、これをお前とたった2人でどうにかできる事でもないかもしれないぞ。先日からお前と俺は何者かにマークされてる。」
きたの「そこまで言うならやるか・・・・・・お前が中心となってカタつけろよ。勝算あるんだろうな?絶対に火種みたいなもん残すんじゃねーぞ。」
みなみ「当然、俺の会社のアガリにも響いてくる案件だ。・・・でもそれだとどうするんだよ。きたののやり方を教えてくれ。・・・どうせお前は動かねぇだろ。」
きたの「俺が動くと、お前が動くよりも目立つからな、ちょっと待ってろ・・・・。」
電話するきたの・・・・・
きたの「・・・ツモリとあと2人回せ・・・・みなみを乗せて・・・・おう、そうだ情報を持ってる。出番だと伝えてくれ。」
みなみ「おいおい・・・何する気なんだよ(笑)まさか友人の俺をヤる気じゃねぇだろうな?」
みなみは笑いながら煙草に火を付けました。
ピッ!・・・・
きたの「当然こちらも動く。みなみも知らない、あまり顔が割れていない幹部含め3人ほど貸してやる。助け舟になるか知らんが俺の意見を聞いたってことはしっかりと乗ってもらうぞ。・・・・お前にもやり方があるならその話をこの場で聞こうじゃねぇか。昔みたいなその場凌ぎのやり方じゃあ・・・・世間は許しても、俺は納得しねぇぞ・・・。」
2人は煙草を吹かします。
・・・・・・・・
・・・・・・・・
暫くしてみなみが口を開きました・・・・・。
みなみ「・・・・きたのが納得するも何もまず、お前んとこの幹部のバキョウとマンズ企画のマンダが繋がってる。携帯でも取り上げてバキョウの人間関係を調べてくれ。」
きたの「俺に言いたい事はたったそれだけか?・・・・あいつらに対してなら出来ないことは何一つ無いぞ・・・。」
みなみが急にきたのに顔を寄せます。
合わせてきたのも耳をかします。
きたの「・・・・・」
みなみ「んなわけない、・・・少し前から気になって調べていた事がある。それを・・・・要はな・・・・だから・・・・・。」
きたの「それで行くと・・・・じゃねぇか、どうすんだ?」
みなみ「・・・・手荒な真似をすると・・・・また・・・・」
きたの「みなみ、その心配は無い・・・・あんなもん徹底的にやればいいんだ弱み握ってんだから」
みなみ「・・・なるほどな。まぁ別にお前が出す舟は・・・泥舟だとは思ってねぇよ。ナマクラじゃなく、しっかりと教育が行き届いた奴をよこしてくれ。それだけは頼むぞ。」
きたの「決まりだな。」
みなみは席から立ちあがりました。迷いの無い顔がそこにはありました。
電話をかけるきたの・・・・・。
きたの「おう、カン。・・・・バキョウを見張っとけ。あいつから目を離すな。」
持ちつ持たれつ。このみなみときたのの2人は大人になった今も、そして昔も変わらずそんな関係でした。昔は意見の違いで対立する事が多々ありましたが、結局はお互いを認め合っている部分がありました。友人の俺をこの厄介な案件に関わらせないようにしている2人に感謝していいものか分かりませんが、もしもの時は自分も行くつもりです。
このままこの業界にドップリ浸かっていればいずれ直面する事になるだろう。他人事で知らないふりが出来るのはこのあくまでお客様期間である新人の頃だけなんだろうと、そう言い聞かせながらポンと共に少し離れたみなみとの連絡場所へ向かいました。
気持ちはいつでも行けるスタンスで、今の俺は何をやっても勉強になるのだから、何に対しても前向きでした。
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