第2話 白色ガール


 町を越え、山を越え、町を越え・・・・。






 車に乗れば乗るほど、景色は移り変わっていきました・・・。








 みなみの運転する車で、市内の町はずれにある雑居ビル街に到着しました。








 市内には何度か遊びに来たことがありますが、ここはあまり自分には馴染みのない場所でした。








 目標のビルの前を通りすぎて、少し離れた屋根付き駐車場に車を停めました。








みなみ「にしまそういえばさ、この辺は駐車場代が高いぞぉ、町はずれでこんな誰が管理してるのか分からない、掃除も点検もいつしたかどうか分からないような場所で月20000円も取りやがるんだぜ。一応調べたらこの俺の車が入る駐車場がここしかないらしい。足元を見られたわ。・・・もし次人間に生まれ変われるとしたら、地主になりたいね俺は。」








にしま「車を変えろ。」








 車を停めて2人は歩き出します。








 その目標のビルの周りでは工事が行われており、都市開発中でした。








 もう何年も前から工事をやっているとみなみは言っていました。ここには一体何が建設されるのでしょうか。








 駐車場から歩いてビルに向かいましたが、そこら中にごみをあさる野良猫やカラス達が居ました。








 この動物達も毎日自分の飯にありつくのに必死なのです。








 お世辞にも綺麗とは呼べない町の中に、私達の会社の事務所がありました。












にしま「ここか・・・。ここで働いているのか。」








 先程は車で前を通っただけでしたのでよく分かりませんでしたが、近くで見ると、みなみの会社があるビルはなんだか薄暗く、とても近寄りがたい建物でした。








みなみ「・・・まぁ・・・慣れたらわりと過ごしやすいぞ。町中と違ってかなり静かだしな。・・・でもなんか最近、エレベーター調子悪いけど(笑)因みにうちの事務所は6F。」








にしま「え?・・・・・6Fでエレベーターが壊れるって(笑)・・・壊れたらこの横にある今にも壊れそうな、後付けしたような螺旋階段を登らないといけねぇのか(笑)」








 見上げると銀色の蜷局を巻いたような螺旋階段がそびえ立っていました。








みなみ「慣れだよ、慣れが全てを越えていくんだから。」












 ビルのサイドにボロボロの案内看板を確認しました。








 1Fに白黒看板の喫茶店「オセロー」、2Fには昔ながらの理髪店「バーバー都」、3Fにマッサージ店「龍王マッサージ」、4Fと5Fには何をしているのかよく分からない個人名の会社、そして6Fにみなみの会社の事務所が有りました。


 7F~10Fは空きテナントでした。












 ・・・何とも言えないこの感覚・・・。これも慣れか・・・・いつかここが自分の家だと言って胸を張ることが出来るだろうか・・・・。








 カランカラン!!・・・・








 1Fの喫茶店から1人の女性が掃除用具を持って出てきました。








女性「・・・・・あら?・・みなみじゃん!お帰り!」








 爬虫類系の顔でモノトーンの服を着こなし、痩せ型色白黒髪ロングの女性は、みなみの顔を見るなり声をかけてきました。








みなみ「おっハク、今日はここ??」








ハク「そうだよ!あと1時間だけ!・・・ん?・・・横の彼はお友達??」








 その女性はみなみから「ハク」と呼ばれていました。ハクは持っていたほうきで店先を掃除し始めました。








 腕時計を見る・・・。








みなみ「予定の時間まで少し時間があるな・・・よし、コーヒー飲んでいこうぜ、にしま・・・。」








にしま「良いのか?みなみの上司を待たせてないだろうな。」








みなみ「誰も待ってねぇよ。いいから行こうぜ。いいだろコーヒーくらい。上司と会う前に酒を飲むわけじゃねぇんだから。」








 カランカラン!!・・・・懐かしく古めかしい音が鳴り響く店内・・・・








ハク「マスター、お客さん来た。」








マスター「・・・・・なんだみなみか・・・。いらっしゃい。」








みなみ「なんだじゃねえだろ。」








 ハクに連れられて、裸電球の薄暗い喫茶店の中に入っていきました。いつもみなみが座っていると思われる、奥の席を案内されました。








 カウンター奥に髭が似合う寡黙なマスターが食器を拭いているのがみえました。








みなみ「にしま、ここはたまに打ち合わせで使うんだ。事務所に近いし、客が来ないし丁度良いんだよ。お前も使ったらええよ。人少ないから内緒話も出来る(笑)コーヒーの味は中の下なのに値段はいっちょ前。」








にしま「滅茶苦茶失礼だろ(笑)マスターやさっきの女の子に聞こえたらどうすんだよ(笑)・・・・でもここだと暗くて書類とか見えにくくないか?」












 生まれて始めて入る喫茶店にキョロキョロするにしま・・・・。今まで定食屋や居酒屋には入ったことがありましたが、このようなタイプの店に入るのは初めてでした。








にしま「てかあの子、暗闇でも分かる位に真っ白だわ。言い過ぎではなく光を放ってる・・・。」








みなみ「そうそう、あまりにも色白なもんだからハクって俺が名づけたんだ。それがいつしか周りに定着したんだよ。」








にしま「それ、お前んちの猫の名づけ方だろ(笑)」








みなみ「はっはっはっはっは(笑)煙草吸うかぁ。誰かさんが運転してくれねぇから、疲れたわ。休憩や。」








にしま「アホか。あの車を壊しても弁償できる位になったらいくらでも運転してやる。お前は先輩だからな。後輩の俺が運転しないといけないらしいから。」








みなみ「先輩にお前って言うな(笑)どっちがアホなんだよ。どっちでもいいわっ。」








 煙草を吸い、上司と会うまでにしっかりリラックスして小休憩することにしました。








 暫くしてそのハクという女性がコーヒーを運んできてくれました。この「喫茶オセロー」は店員の服装も食器も壁の色も白色と黒色で統一されているモノトーン調のお店でした。












ハク「ねぇみなみ、お友達紹介してよ。」








みなみ「こちらは、・・・にしま君。」








 ビックリ半分、喜び半分の表情で口を両手で抑える。








ハク「あ!!あんたが良く話してるお友達のにしま?!」








みなみ「そうそう、この度うちの事務所で働くことになったんだよ。」








ハク「へぇー!凄いね!よかったじゃん、仲間が増えて!ちなみに『どっち側』なの?」








にしま「・・・ん??」








 ここでみなみの携帯電話が鳴り始め、席を立ちます。








みなみ「にしまごめん、仕事の電話だわ。ちょっとトイレで話してくる。」








 みなみがトイレに立った為、ハクと二人きりで話す事になりました。








にしま「あいつ、そんなに俺の話をしてるの?」








ハク「うん、よくしてるよ。最近地元ににしまが帰って来たって聞いた時、みなみったらね、その日の予定してた仕事全部投げて、猛然と地元に帰って行ったよ。凄い仲良しだったんだってね。」








 猛然と?・・・・。












 仲良しか・・・・。






 そんなあいつとはこれからビジネスパートナーということになりそうです。












にしま「ハク、みなみとはどこで初めて会ったの?」








ハク「駅だよ。私が駅の掲示板で仕事探してたら、みなみがいきなり声かけてきた。」








 ・・・あいつ・・・ナンパしてんのか・・・・。








 仕事がクソ忙しいとか言ってるわりには、そんな事を陰でやってるのか・・・。金もあるだろうし、心に余裕あるなぁあいつは・・・。








 煙草を吹かす・・・・・・








 ・・・・・・








 ・・・・・・








 いや・・・・・・ちょっと待て・・・・。・・・あいつがそんな馬鹿みたいな事するか?・・・そんな無駄な事・・・・。するわけがねぇ・・・・。








 ハクを一目見た時に一撃で好きになったんであれば、そしてここで声をかけないとこの娘と二度と会う事が無いと思えば声をかける可能性があるのかもしれないのですが、みなみがそんな一瞬の感情で動く人間ではない事を私は知っていました。昔から大胆不敵で用意周到な男であることはわかっていました。








 何が目的だったんだろう・・・・。












ハク「・・・そういえば!8か月くらい前だったかな?・・みなみがここにお友達連れてきたんだよ。初めて。」








 コーヒーを飲んだタイミングでハクの口から思わぬ一言が飛び出しました。








にしま「あちっ!!・・・・・・友達?・・・誰を連れてきた?・・・」








ハク「あっ待ってて、にしま。」








 おしぼりを取りに席を立つハク。








 考え始める・・・・・。








 あいつの友達ってことは俺の友達でもある可能性が非常に高い・・・・。








 おしぼりが到着・・・・。












ハク「名前なんだったかな・・・。ちょっと前の事だし、私も一緒にお話ししようと思ったんだけどみなみに大事な話するからどっか行けって言われて、正直あんまその人とちゃんと話してないの。でも、すっごいカッコよかったよ。飲み屋始めるって言ってたよ。」








 ・・・・・!!!・・・・・








 その言葉を聞いたにしまの瞳孔が開きます。同時にドクンドクンと鼓動が・・・・








 そのままゆっくりと下を向く・・・・・。












 「きたの」か・・・・。・・・あいつまでみなみの仕事に絡んでるのか・・・。








 この店は打ち合わせに使っているとさっき言っていた・・・・。




 という事は・・・裏を返せば・・・プライベートではこの店に来ないっていう考え方ができる。








 たまたまその辺であいつ(きたの)とその時会ったんじゃない、仕事をする為に待ち合わせてる。








 ハクの一言で、みなみを取り巻く環境が、人となりが少しずつ見えてきたような気がしました。みなみにとって、社会に出てから出会う人間は全て利害関係が絡んでいるような気がするのです。この歯に衣着せぬ女性のハクに於いても、俺達の悪ガキグループのリーダーだったきたのも、何か重要な用事が有り、みなみと会っているのです。








 お互いに持ちつ持たれつ、離れても離さない固結びのような関係を、ここ何年もかけて、コツコツと積み上げているような気がしてなりませんでした。
















 「喫茶オセロー」・・・俺もこれからきっと、嫌というほどここに訪れるんだろう。












 たとえ、コーヒーを飲みたくなくても、コーヒーが嫌いでも、きっとここには訪れるんだろう・・・。


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