第49話 「戦乱の国に吹く新たな風となる」
何はともあれ、シューシュカのおかげで当面の目的であるブラーとレモネットの状況はそれなりには知られた。
悪党の下にいるらしいレモネットの方は心配だが、こんな物騒な国で死んでいなかっただけでも朗報だ。
そろそろこれからどう行動するかを相談したいところだが、まだ情報が少ないな。
「──ティワカンヤ王と国王軍、それに魔女、ナヨカトルと反乱軍について教えてくれ」
さりげなく魔女を混ぜてやった。
これなら気付かれまい。
「はいはい、いいですよ。まあ詳しく話せるほど私も知らないですが──」
そうしてシューシュカが教えてくれた中には、新しい情報も多くあった。
整理するとこうだ。元々知っていた情報と合わせてみる。
まず過去の話について、まとめ。
機王大戦があり、ピケトレヤ将軍が機王に敗れる。
ティワカンヤ王が駆けつけ、ピケトレヤ将軍の死に怒り、ボドたち他の「英雄」と共に機王軍を討つ。
ティワカンヤ王は凱旋するも、弟の死もあり疲弊している。
ひと月後、王が妻のポポリカを手にかけ、宰相でもあった末弟のナヨカトルを追放する。
王は国民に「
──とまあ、レキネンの話とおおむね同じだ。
過去の話の裏付けが取れたという意味で、貴重な情報には変わりないだろう。
続いて現在の話。
ティワカンヤ王について。
ジャルバダール最強の男であり、徒手格闘から剣術、槍術となんでもこなす。
体は大きく、肌は褐色。髪は黒色である。
王は自分に挑戦する者を、二通りの方法で対処する。
一つは暗殺しようとする者がいたとき。
王は大変勘が良く、すぐこれに気づき逆に殺す。
もう一つは真っ向から勝負を挑む者がいたとき。
王は挑戦者を「
このときは相手を殺さない。
「
ただし誰でも彼でも勝負を受けるわけではなく、よほど名のある戦士や地位の高い者、武名も地位も持たない者なら大勢の手下を従える実力者――つまり、戦い甲斐のある相手としかやり合わない。
五千人という、間違いなくジャルバダール最大規模の軍──「国王軍」を従え、常に強者を求めている。
国王軍の仕事は国の運営のほか、各組織の仲介、緩衝など。
実力者ならば好きにやめて、好きに入れるが、層は厚く幹部を目指すのは難しい。
続いて魔女。
魔女は「
この情報は大きな収穫だ。まあシューシュカいわく、国王軍なら誰でも知ってることらしいけど。
空中庭園へ入るのが許されているのは王のみ。
どんな容姿か、性格か、本当にいるのか──何ひとつ明らかにされていない。
ただし王以外にも魔女を知る者がいる。
王の側近であり、ランゴの「3」と「4」を持つ戦士たちだ。
「
「
なんかゲームにでも出てきそうな仰々しい二つ名だが、ロストグラフにも二つ名の文化はあったのでそこはスルーしよう。
どちらもジャルバダール出身ではなく、他国から王に挑みに来た戦士たちだそうだ。
強さこそ正義。二人は王に負けこそしたが、それぞれ左大臣、右大臣の席を手にしたという。
元武人に国の運営なんて出来るのかという話だが、そもそも国が混沌とした状態なので問題ないのだとか。
問題ないことが問題だと思うが。
そして魔女は、「
しかし王しか魔女の正体を知らない以上、それが本当に魔女のしわざかは怪しいものだ。
処刑は国王軍が管理する処刑場で行われるらしいが、ここへ入れるのはランゴ千番台以上のみ。
最後にナヨカトル。
正義感が強く、情に厚く、見た目もかっこいいジャルバダール屈指の戦士。
まあ反乱軍なんてものをまとめるくらいだから、実力だけじゃなくカリスマもある人物だろうとは思っていたが。
しかし一見完璧超人でもアレクトロみたいな例もあったし、実際は会ってみなければ分からない。
反乱軍に入るのは、国王軍よりも難しいという。
まず戦士として入隊するなら、ランゴは二千番台以上でなければ認められない。
あくまで実力者だけを揃えるやり方なんだろう。
数は、戦士以外の雑務をこなす要員などを含めて二千人ほどと、国王軍の半分にも満たないが質は高いそうだ。
彼らの最終的な目的はナヨカトルを王に据えること。
それならさっさと兄弟で決闘すればいいのでは? と思わないでもないが、ナヨカトルがティワカンヤ王に負けてしまえば、当然、反乱軍は空中分解し、ジャルバダールは絶対順位令が公布されたときの混迷に逆戻りしてしまう。
それゆえに今は、組織をより強靭にするための
以上がシューシュカより手に入れた、国の中核に関する情報だった。
「道のりは長そうだな」
「ご主人様が弱気では困ります! 私を養ってもらうためにも頑張っていただかなくては!」
「やる気出ねぇ」
「がんばってちゅきとー!」
「やる気まんまん!」
「うわぁ……」
我ながら現金な態度にシューシュカも引いていた。
オマケとして、その他の組織についても教えてくれるという。
覚えることたくさんありそうだぞ。
まずはザッと聞くだけ聞いて、追々詳しく説明してもらおう。
ジャルバダールはさすが戦士の国というべきか、王都に残った血気盛んな連中は、俺の予想のさらに倍にもなる、二万人ということだった。
全国民が二十万人だから、戦える年齢の男は二人に一人くらいは王都に残ったんじゃないか?
すごい。俺だったらとっくに国外に逃げてる。
「注目したいのは三つの組織ですね」
シューシュカが指を三本立てた。
「まずは反乱軍を上回り、国王軍に次ぐ二番目の人員、三千人ほどを抱える巨大組織、『
これは役職を追われた大臣たちが黒幕の組織です。彼らが王の座を奪ったあと、組織の構成員に良い待遇を約束することでまとまっていますね。反乱軍を除けば対国王軍の最大勢力でしょう」
当然かつての幹部たちは絶対順位令なんて納得していないだろうからな。
こういう組織が出てくるのは必然だろう。
「彼らがトップに据えるのはランゴ『5』の『ユキセツ』。ジャルバダールとアンプルシアのちょうど間にある小国出身の戦士です。ナヨカトルを抜けば実質ティワカンヤ王の対抗馬といったところですね」
なんか、自分より強いヤツを求めて他国からじゃんじゃんヤバそうなのが入ってきてるなぁ。
王の側近の……えーと、「絶炎のバルゲア」と「雹魔のイルシーク」。
あのへんとかも、国が正常になったらどうするんだろうか。
また新天地へ旅立つのか、それともジャルバダールに残るのか……いずれにしろ生き方が刹那的な気がするな。
まあ俺の知ったこっちゃないが。
「そして二つ目、『ブトランテラ』。ここはイチバン危ない組織ですねぇ。人数は千人くらい。中心となるのは元々富豪だった連中──商人たちです。
ようするに他国から来た戦士を金で雇ってるんですよ。ジャルバダール以外なら、お金の威力は充分ですからね。純粋に強さを求めてる連中じゃないから、危険なことも卑怯なことも何でもやってますよ。
国が乱れてるのを良いことに、劇薬の売買や奴隷の斡旋……ナヨカトルが倒れて彼の命令が効力を失ったとき、真っ先に暴走するのは彼らでしょうねぇ」
どの世界でも金は天下の回り物だな。
「注意すべき人物は、
ランゴ『7』の『ヴァルゴサ』。
ランゴ『14』の『クラッチマン』。
ランゴ『21』の『ウルウェーテル』」
「すまん、そろそろ覚えられんわ」
「まーこのへんは基礎知識ですんで、そのうち嫌でも覚えますよ。まずは聞くだけでも」
ロストグラフのときもそうだったが、透明人間の一番の力は「情報」だ。
これは間違いない。
そうなると、誰よりも色んなことを知っておくのはたしかに大事なのだ。
問題は、俺の頭の出来がそんなに良くないってことなんだよなぁ……。
「三つ目は他の二つに比べると大分規模が小さくなるんですが、結束力と一人ひとりの質の高さは反乱軍に次ぐ組織です。名前は──『ピケトレヤ』」
「それって……」
「その通りです。かつてピケトレヤ将軍の
「そいつらが反乱軍と協力したら一番いいんじゃないか?」
「ところがドッコイ! そうは上手く行きませんねぇ〜。ロクペルヤ元将軍とロクセンタ元将軍はピケトレヤ将軍の信奉者です。どちらかといえば温和派のナヨカトルは、ピケトレヤ将軍の弔い合戦を狙う彼ら双子戦士とは正反対なんですよ」
ドッコイのとこ、力こめすぎじゃない?
「つまりトップの方針が合わないと」
「もちろん、ナヨカトルの下につくことに対するピケトレヤ将軍への引け目もあるんでしょう」
「なんでナヨカトルの下って決まってるんだよ。別にロクペルヤだかロクセンタだかのどっちかが連合組織のトップに立ってもいいだろう」
「だってそれは、ランゴが下ですし」
あー、そういうことか。
「以上でシューシュカちゃんの情報提供は終わりです〜。どうですか? お役に立てましたかぁ?」
きゅるんきゅるんと目を輝かせてこっちを見てくる。
コイツのお仕着せがましさは何なんだろうな。
「えーっと、整理。
『国王軍』。約五千人。
ティワカンヤ王──ランゴ『1』。
絶炎のバルゲア──ランゴ『3』。
雹魔のイルシーク──ランゴ『4』。
『反乱軍』。約二千人。
ナヨカトル──ランゴ『2』。
『
ユキセツ──ランゴ『5』。
『ブトランテラ』。約千人。
ヴァルゴサ──ランゴ『7』。
クラッチマン──ランゴ『14』。
ウルウェーテル──ランゴ『21』。
『ピケトレヤ』。約三百人。
ロクペルヤ──ランゴ『8』。
ロクセンタ──ランゴ『9』。
合ってるか?」
「合ってます! シューシュカ役に立てましたかぁ?」
「立ったよ。ありがとな」
そう言わないと終わらなそうな雰囲気だしな。
「……と、そういえば一つひとつ挙げて気づいたがランゴ『6』だけ抜けてるな。もっと下位の組織にいるのか?」
「あ、それは反乱軍におりますよ。ナヨカトルの恋人ですねぇ」
「恋人? てことは女の人?」
「ジャルバダール最強の女性戦士、『ハルゲマルタ』です」
まさかの女性がランクインしてるのか。
「魔法でも使うのか?」
「いえいえ、単純に腕っ節ですよ。筋肉ムキムキ、ご主人様の倍くらい身長があって、顔はゴリラよりちょっとゴツ目な感じです」
……。
ゴリラよりさらにゴツいのかよ。
というか、この世界にもゴリラいるのかよ。
まあ人の趣味に口を出したりはしないが。
「ふいー……ちょっとばかし疲れたわ」
「ちゅきと、大丈夫ー?」
天井を向いて頭を冷やしていると、ニュトが心配そうにくいくい、と服を引いた。
「大丈夫だよ。早速明日から動く」
「ご主人様ってば働き者ですねぇ! シューシュカ感激ですぅ!」
声がでかい。
「──で、まずは何をするんですか?」
「いきなりギラギラした蛇みたいな目つきに変わるなよ。決まってるだろう、探し人の居場所が分かったんだから接触するのさ。レモネットのところへ行く」
「えっ……『大喰らいのゾゾル』のとこへ? いやいや、相手はランゴ『30』の大物ですよ!? まずはコツコツ小さい勢力から順に戦って、少しずつ組織を大きくしては……」
「そんなことしてたら何年かかるか分かんないだろ。ハッキリ言ってやろうか、シューシュカ。お前が紹介した勢力やそれらの力関係は、おそらくここ一年ほとんど変わっていない」
シューシュカは驚いたように目を見開いた。
コイツが驚くのを見るのは結構気持ちいい。
「常識、とまで言っていたよな。大きな変動が起きまくっていたら勢力図なんて国中に浸透しないだろう。
つまり今は
絶対不変の国王軍と、対抗勢力の反乱軍。それに三つ巴の三勢力。
どこも自分たちが一番になるために力を溜めている。下手を打って組織ごと潰れたら元も子もない。だからある種の安定した状況にあるんだ」
「つまり……警戒が薄いと?」
「薄いってことは無いだろうが、少なくとも常に戦場下にある状態よりはピリピリしていないだろうな。
ちまちま組織を大きくしていたら今の状況が変わっちまうよ。それより大きめの組織を狙い、上位ランゴを手に入れて下位の連中を従えた方が早い」
「はわ〜……ご主人様ってば大胆不敵ですねぇ。そしてなんという傲慢」
「その傲慢に負けているんだからな、お前は」
煽るつもりでそう言ったら、シューシュカはニュトにぎゅっと抱きついた。
は?
何やってんだおめえぇー!
「ふふふ、女の子の特権です。今度は私の勝ちのようで、これで引き分けですねぇ、ご主人様」
「うにゅー?」
ニマニマと笑いながら上目遣いに挑発してくるこの女を、想像の中で思い切りひっぱたいた。
さてと。
明日から忙しくなるぞ──。
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