第5話

 俺は彼女の手をゆっくりと振り払い、肩を掴んで少し距離を取った。


「あぁ~逃げた~!」


「違う。逃げていない」


「じゃあ、この手は何?」


「食べさせてくれ」


「えっ?」


 彼女の顔がみるみる赤く染まっていく。耳の先端まで赤くなると彼女が本当に恥ずかしがっているのが分かる。

 恥ずかしがる?いや、待てよ。


「違うからな。そういう意味じゃ」


「いい・・・ん?違うの?」


 俺は二、三度頷く。

 そうすると、彼女は一瞬目を見開いてから少ししょんぼりした顔になり、呟いた。


「なんだーーーーーよーーーー。夕日に当てられて狼になったと思ったのにーーーー!」


 そこは月では?というのはやめておこう。


「とにかくパスタを食べさせてくれってお前・・・もう食べ終わったのか?」


「はぁ~話そらしたぁ~・・・せっかく・・・そうだよ!食べ終わってます!美味しかったです!」


 彼女は腕を組んで『ぷい』っとそっぽを向いた。

 悪いとは思っているが、そんなに怒らなくても・・・まぁ怒るか。

 

 沈黙が流れる。俺が何か言おうかと口を開きかけた瞬間、彼女がため息をつきながら振り返った。


「・・・ねぇ、優斗」


「ん?・・・痛い・・・」


 いきなりおでこにデコピンを四回もされる。


「へ、た、れ、め」


「悪いな・・・」


 少し頭を下げて謝ると、彼女は満足したように笑顔になった。


「たくぅーしょうがないなぁ~。反省しているようだし、これ以上はやめておきますか。でも、その代わりにー?」


 そう言って、手のひらを上に向けて差し出してきた。


「デザートだな」


「分かってるぅ~!」


 俺は彼女の食器を片付け、冷蔵庫から買ってきたデザートを取り出す。

 そのデザートは彼女の好きなフルーツタルトだ。

 遅れることが確定していたため、お詫びにと、来る途中で買ってきたのだ。

 テーブルに置き、俺は残ったパスタと一緒に食べた。

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