第7話 ハーレム野郎
冒険者ギルドの上の階には簡易宿泊所が常設されており、新人の冒険者が最長で三カ月まで利用出来るシステムになっている。合格者説明会での後、希望者を募っていたので、もちろん俺も希望した。日本人は節約思考だからね。
ギルドの三階が男性用の簡易宿泊施設になってる。一つ上が女性用だ。
一部屋に三段ベッドが両壁側に二台有り、六人が泊まれる仕様の部屋が幾つかあった。ベッドの三段はかなりキツイが、無料で泊まらせてくれてるので文句は言えない。
簡易宿泊所は新人以外は入れない事になっているので、意外に安全なのだそうだ。但し、貴重品の管理は厳重にする事と念を押された。
簡易宿泊所に新人以外を入れないのは、一部中堅冒険者の中には、なかなか腕が上がらない事へのストレス発散目的か? 新人をターゲットに新人狩りを平気で犯す者も少なくなく、寝込みを襲うのは一番造作もない事なのだ。そこで、冒険者ギルドは新人の三カ月のみとしたようだ。
ただ、問題がないわけじゃない。この世界は毎日お風呂に入る習慣がなく身体を水やお湯で拭くだけって事が多い。そんな冒険者の男たちが六人もその部屋に集まれば、そこは得も言われぬヒャッハー世紀末的地獄と化してしまう。
はっきり言ってとんでもなく
まあ、だが俺にはクリーンがあるので、そこは何とか乗り越えられるだろう。早くここから出て、ちゃんとした宿屋へ泊まれるようになりたいと、切に思う【潔癖症】のショートだった。
俺が割り当てられた部屋には、今は俺以外に三人がいる。その中の一人に見覚えがあった。そうだ参考にさせてもらった第三種魔法使いエミリーの仲間のハーレム剣士君だ。決して羨ましいわけではないんだからねって、心の中で涙しながら、その剣士君を見つめていると眼があってしまった。
「お、君はエミリーを助けてくれた魔法使い君だよね。あれは、ほんと助かった。ありがとな。俺はマルクスって言うんだ。よろしく」
え? そう言われたけど、実はエミリーを助けた記憶はない。
「ああ、よろしく。俺はショートだ」
何となくだが、誤魔化すように挨拶をかわす。
「俺、あの時はエミリーがいる試験会場の反対側の入口近くにいたんだよ」
と言うマルクス。だけど、エミリーはあの暴走した子の近くにいたらしい。暴走で膨れ上がったフィリスの魔力に当てられ、呆然と立ち尽くしてしまっていた。助けに行こうとしても間に合わないとマルクスは相当に焦ったようだ。
「だけど、君が暴走を止めてくれたお陰で、あいつは無事だったんだよ。ありがとうな」
エミリーは大事な幼馴染なんだ。あの時は本当に肝をつぶしたよと苦笑するマルクス。
そう言えば、人にぶつからないように避けながらフィリスの元へ行こうと必死だったから、そこにいるのがエミリーだとは気付かなかったんだ。 「エミリーちゃんゴメンよ」と心の中で謝ったが、無自覚とはいえ、参考にさせてもらえたエミリーを助けられた事には安堵した。
「ショートって呼んでいいよな。俺の事はマルクスでいいからな」
ハーレム剣士マルクスは爽やかな笑顔を俺に向けてきた。そこから、お互いの事を色々と話していくうちに、俺の中でハーレムクソ野郎から爽やかハーレムナイスガイへと変化した。
マルクスの話を聞くと、彼らの村は王都から40キロほどの所に浮かぶ離島だそうだ。彼らの両親たちが若いころに島に渡り、森を切り開いて開墾した村であり、その当時から、たびたび魔物や獣の被害に悩まされてきたのを、彼らは自力で乗り越えてきた。
そんな両親を見て育った三人は、村を守る為の力が欲しいと切に願っていたという。
離島にある唯一の村であるオリブ村には、教会などあるはずもない。司祭や助祭がわざわざ離島などに来てくれるはずがないからだ。そこで『授けの儀』は王都まで船で行かないといけないんだけど、定期船は月に一度しかない。
だが、離島で暮らすのはかなり過酷であり、職を得た後に村へ帰らなかった者も大勢いた。
「村の若い奴らの中には大きな街に憧れて、出て行った奴もいるけど、俺たちは故郷のオリブ村を守りたいんだ。だから、女神様に毎日お祈りを欠かさなかったんだよ」
だから、皆が戦える職を貰えた時は三人で大喜びしたと言う。
「これで、大手を振って村へ帰れるよ。あの島は
そう言うマルクスは白い歯をキラリと覗かせて屈託なく笑う。うん、やっぱり、爽やかイケメンハーレムナイスガイだ。
「俺たちは次の定期便を待って島へ帰るけど、ショートはこれからどうするんだ? 」
「俺か? しばらく王都で依頼をこなした後は、どこかの初級ダンジョンに入ろうって思ってる。レベル上げたいんだ」
「初級ダンジョンか? どこに行くかの目途は立ててるのか? 」
「いや、まだ調査中。ギルド職員に情報を聞くか、ここの資料室で調べるかしようかと思ってるんだけどね」
その言葉を聞いたマルクスはニヤリと笑う。
「だったらさ、俺らと一緒に島に行かないか? 村からちょっと行った所に新しくダンジョンが見つかったんだよ。俺らは村へ帰ったら、そこを攻略しようって話してるんだ。まだ、新しいから荒らされて無い分、お宝は豊富なんじゃないかって思ってる」
次の定期船は三週間後だから、それまでじっくりと考えてみてくれないかと言うマルクス。それを聞いて、レベル上げには最適じゃないか? ソロで潜るも良し、マルクスたちと行動するも良し。
(それって、願ってもない話かも)と、ショートはその話に思わず乗り気になった。
「ああ、少し考えさせてくれ。もし一緒に行くとなったらよろしくな」
◇◇◇
次の日、朝にギルド受付で常駐のマホラ草採取の依頼を受け、それが生息するであろう森へと行くために、フィリスに伝えていた門へと向かった。
来るかどうかは半信半疑だったけど、門の前にはすでにフィリスは待っていた。フィリスの横には、落ち着いた雰囲気の女性が付き添っている。
「待たせちゃったかな? 」
「ううん、私も今来た所です。それから、隣にいるのが、私の魔法の先生でアンナ先生。昨日の事もあって、私を心配して付いてきてくれたんです」
俺はアンナ先生と紹介された女性に向かって挨拶をする。
「どうも、初めまして。俺はショートといいます」
アンナ先生は気さくな感じで、挨拶をかえしてくれた。お嬢様に付いた虫けらのような態度をされるかとドキドキしていたけど、それは無いようで安心した。
「初めまして。フィリスを助けて頂いたそうで、どうもありがとうございます。二人のデートにお邪魔してごめんなさいね。フィリス一人で外に出る許可が下りなかったの」
「先生! デ、デートなんかじゃ、ないです! 落ち込んでた私を、ただ、気晴らしに誘ってくれただけなんですって」
フィリスは真っ赤な顔になって、あたふたと訂正する。
「はい、はい。ではショート君。マホラ草採取でしたわね。昨晩はフィリスが何かを一生懸命に調べていたので、何を調べているかちょっと気になったのね。そこで、軽く問い詰めたら、あっさり白状しましたのよ」
そう言いながら、クスクスと面白そうに笑うアンナ先生。
「先生! もうバラさないでください」
「でも、フィリスがちょっと元気になってて本当に良かったって思ってるの。これもショート君のお陰なのね」
アンナ先生はフィリスの父の運営する商会の専属冒険者チームのメンバーで、その事からフィリスとは昔からの知り合いだそうだ。フィリスが魔法職を授かった事で、父親からお願いされ何度か練習に付き合った事があった。だが、昨日の件があって、心配した父親から彼女の正式な魔法の先生に是非にと頼まれ、それを了承したのだとか。
「じゃあ、早速に行きましょうか? 私も含めて初依頼よ。二人とも準備はいい? 」
「イエッサー!(*>ω<*)ゞ 」
ついつい、返事してしまった。結局、年上の綺麗なお姉さんには尻に敷かれてしまう、日本人特有の押しの弱さが露見したショート君でした。
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