第3話 ステータスはどうしよう

 俺は冒険者になるために、王都に数ある冒険者ギルド支局の一つへとやってきた。この『授けの儀』の時期には臨時の受付が開設されていて、そこには俺と同じ年齢の数人の少年少女が並んでいる。


 何故に俺が、朝からギルド併設の食堂のカウンター席に陣取って、周りを観察しているのかと言うと、実はここで魔法使いLv.1の子が来るのを待っているからだ。


 俺の職業スキルだと、魔法使いでしか冒険者にはなれないだろう。だけどだ、俺のユニーク職業と日本語表記では、冒険者ギルドでも確認は不可能だと思われるわけで。


 だったら、確認できる様にしちゃえばいいんじゃねぇ? うんうん、そうしよう!って事になったわけです。

 

 そこで使えるスキル【本音と建前】の出番だ。うん、それを使って偽装すれば良いだけ。だが、待て! 偽装と言ってもこの世界の標準が分からないときた。困った…。


 そこでだ、参考になる魔法使いLv.1をここで探していると言うわけだ。俺の【本音と建前】Lv.1では、同じLv.1のステータスだけが確認できるからね。


 臨時の受付カウンターに並んでいる者の頭の上には、職業とLv.1という数字が表示されている。そこだけは、まるでVRMMOのようだ。何か、それ見てるだけでゲームの世界にダイブしたみたいな感覚になったりする。Lv.1以外の人は、差し詰めNPCノンプレイヤーキャラクターって感じだろうか。


 俺はまず、冒険者ギルドに行く前に、自分の職業を確認してから、保有SPを最初にどのように振るかを考えた。


 【器用貧乏】に、まず振るのは確定だが、残りも必然的だ。これから、この魔物が蔓延る過酷な世界で生き抜くため、初期ステータスとして【忍耐】【回避】は必須である。

 【勤勉】【潔癖症】は標準装備であり、これはしばらくは上げる必要はないだろう。


 俺のユニーク職業と言えるようなステータスは、とりあえず隠しておかなければいけない。だが、ステータスを見る事ができるスキルや道具で見られると、かなり不味い状況になるのは目に見えている。だって、ここの世界の人からしたら、壊れているとしか見えないからだ。真実を隠すために、偽装できるものならした方がいいに決まっている。


 そこで、有用なのが【本音と建前】となる。


 それとだ、また【本音と建前】と対にしておきたいのが【几帳面】だ。整理整頓で自身の取得魔法を並び替え、隠匿術で隠すものは隠したうえ、こちらの言語で表示させる作業が必要になってくるからだ。


 それだけでなく、俺は見た目はまだ子供だ。子供一人が治安の最悪の世界に放り出されたら、それはもう狩ってくれとでも言っているようなもので、アイテムやお金は極力隠しておくに限る。【几帳面】の収納はとても大事なのだ。


 そこで、【器用貧乏】SP1、【忍耐】SP1、【回避】SP1、【本音と建前】SP2、【几帳面】SP5、これらにSP10ポイントを振り分けると、こうなりました。


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 名前 : 小鳥遊 翔斗(タカナシ ショウト)

 種族 : 人族(転生者)

 職業 : 日本人 Lv.1

 スキル :

  【器用貧乏】 Lv.1/SP5

  【寡黙】 Lv.0/SP5

  【勤勉】 Lv.1/SP5

  【魔改造】 Lv.0/SP20

  【本音と建前】 Lv.1/SP3

  【忍耐】 Lv.1/SP5

  【回避】 Lv.1/SP5

  【集団行動】 Lv.0/SP5

  【潔癖症】 Lv.1/SP5

  【几帳面】 Lv.1/SP10


 〈保有SPスキルポイント : 0〉


 <※SPクエストリスト>

  リスト:無


 ≪スキル依存取得魔法≫ 魔力量 : 500

 ┣・属性魔法 : ファイアボール、ライトボール、ダークボール、ウィンドカッター、ウォーターバレット、アイスランス、サンダーボール、ストーンバレット

 ┣・防御魔法 : シールド、マジックシールド

 ┣・援護魔法 : プロテクト、クイック

 ┣・状態異常魔法 : スリープ

 ┣・浄化魔法 : クリーン

 ┣・回復魔法 : ヒール

 ┗・生活魔法 : ファイア、ウォーター、ライト


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 【器用貧乏】をSPを振ってLv.1になった事で、かなりの初級魔法が使えるようになってるじゃないか【忍耐】と【回避】で防御、援護魔法の使える上、【潔癖症】と合わせて複合でだろうか回復魔法と生活魔法までも使えるとは、これってめっちゃ使える職じゃん。


 自分のステータスをニマニマと眺めながら、朝食として出された固いパンを、野菜が僅かに入ったスープに浸して食べていると、それは眼に入った。


「あ、居た!」


 男の子一人と女の子二人の三人組が楽し気に話しながら列の後ろに並んだ。その中の一人の女の子の頭には、<第三種魔法使い Lv.1>と言う文字が見える。そして男の子は剣士で、もう一人の女の子はシーフだ。


 俺はすっと席を立つと、その三人の後ろに並んだ。そして、心の中で「ごめんなさい」と謝りながら、魔法使いの女の子のステータスを確認することにした。


 なんだか、秘密をのぞき見してるみたいで罪悪感が半端ないんだけど、背に腹は代えられないです。


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 名前 : エミリー

 年齢 : 10歳

 種族 : 人族

 職業 : 第三種魔法使い Lv:1

 魔力量 : 50

 ・火属性魔法:ファイアボール

 ・防御魔法:シールド

 ・生活魔法:ファイア、ウォーター


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 普通はこうだよね。やっぱり俺の魔力量が少しばかり可笑しいってだけだ。第三種は属性魔法が一種類で防御と生活魔法が使えると言うことらしい。第三種と言うのは一属性の特化型って事なのだろう。


 彼女を参考に自分のステータスを偽装する事にして、スキルボードを立ち上げようとしたところ、ギルドの入口から上等な服を着た女の子がお供の老紳士を連れて入ってくるのが見えた。その子の頭には<第二種魔法使い Lv:1>と表示されている。その子は優雅にゆっくりとこちらに進んで来ると、俺のすぐ後ろに並んだのだ。


「(おお、これはチャンスだ!)」


 そこですかさず、その子のステータスも確認する事にした。


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 名前 : フィリス

 年齢 : 10歳

 種族 : 人族

 職業 : 第二種魔法使い Lv:1

 魔力量 : 50

 ・風属性魔法:ウインドカッター

 ・雷属性魔法:サンダーボール

 ・防御魔法:マジックシールド

 ・援護魔法:プロテクト

 ・生活魔法:ウインド、ライト


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 第二種となると、二属性魔法が使える複合型だ。防御の他にも援護魔法も使えるとかは、これはなかなかに優秀だ。


 そこで、二人のステータスを参考にし、俺のステータスを【几帳面】で整理整頓し、【本音と建前】で偽装する事にした。


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 名前 : ショート

 年齢 : 10歳

 種族 : 人族

 職業 : 第二種魔法使い Lv:1

 魔力量 : 50

 ・水属性魔法:ウォーターバレット

 ・光属性魔法:ライトボール

 ・防御魔法:マジックシールド

 ・援護魔法:クイック

 ・生活魔法:ウォーター、ライト


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「(よ~し、こんなところでいいかな? )」


 名前はヴァルドールの姓だけでなく、アルスと言う名も捨てることにして、前世の翔斗からショートに変更する。これを機に、これからはショートとして生きて行こうと決めた。


 偽装を完了しステータスを確認しながら自分の順番になるのを待っていると、後ろからボソボソと押し殺した声での会話が聞こえてきた。


「ねぇ、爺、冒険者ギルドには本当に登録しないといけないの? 」

「はい、お嬢様。お嬢様は第二種を授けられたのですよ。旦那様は魔法科への入学を大変望まれておられます。試験までにお嬢様のレベルをあげる為にダンジョンでのレベリングが大変重要なのだそうです」


 ダンジョンに入るために、冒険者のギルドカードが必要だと言う事での登録のようだ。


「私はダンジョンなんて入りたくない。あそこはとっても怖いものなのでしょう? 」

「大丈夫でございます。危険な事はございません。私どもが絶対にお守りいたしますので」

「はぁ~、私はお父様のように、商人関係の職を望んでいましたのに……」


 フィリスは、どこかの大店おおだなのお嬢様と言ったところだろうか。いくら金持ちだからと言っても、平民で第二種だと現在の段階では魔法科の推薦はもらえないようだ。入学試験を受けて合格しないといけないわけで、そのためにも、何としても試験までに彼女の魔法のレベルを上げておきたいのだろう。


 家がどう思おうと、フィリス本人は魔法使いの職が気に入らなかったようだ。本当は商才がほしかったのだとか。二属性が使える優秀な魔法使いの職を得たとしても、本人は気に入らないと嘆いている。世の中、ままならないものだ。


 それに対して、第三種のエミリーは仲間たちと和気あいあいと話している。仲間と同じく、自分の村を守る事が出来る職業が貰えた事を女神様に感謝していると言っている。そんなエミリーはとても嬉しそうだった。


 人生はそれぞれって感じだなって、俺はつくづくそう思うのだった。

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