第2話 追放されました

 頭がくるくるとなって目が回る。それが徐々に緩やかになってくると意識がはっきりしだした。アルスは大聖堂へと戻された事を知る。


 目の前には驚愕の顔をした司教。司教はじっと『授けの水晶』を凝視している。


「おおお、神よ。何と言う事でしょう……」


 司教は『授けの水晶』に示された文字を読もうとしても、その文字が理解出来ない事に戸惑ってしまっている。額ににじみ出る汗をネッカチーフで拭いながらヴァルドール辺境伯になんと言ったらいいかを考えあぐねているようだ。


 結局、分からないとしか言いようがなかったのだろう、恐る恐る言葉を発した。


「ヴァルドール辺境伯閣下、誠に申し訳ございません。ご子息様の職業は判別不明でございます」


 その言葉を聞いた辺境伯は怒りで真っ赤になった顔で司教に滲みよる。


「なんだと! もう一度言ってみろ。 わしの息子の職業が分からないだと! 」


 幾多の修羅場をくぐりぬけた歴戦の将である凄みを帯びた面構えの辺境伯に睨みつけられ、怒声を浴びせられている司教は、ガクガクと震える両手を胸の前で結びて、神に救いを求めるように天を見上げていた。


 怒る辺境伯の後ろには、教会のベンチに母親が寝かされている。『授けの儀』を受けた直後、アルスの身体は光に包まれて、金色だった髪が逆立ちドンドンと黒く染まっていったのを見て彼女は卒倒してしまったのだ。


 儀式の最中、司教は光に包まれた意識の飛んだアルスの眼が見開いた時、そのエメラルドグリーンの瞳が黒く光っていたと後に証言した。


 その後、アルスは本来の金髪に戻ってはいるのだが、あれ以来、彼の母は彼に会おうとはしなくなった。母は黒く染まったアルスの事を悪魔の子だと恐れ、自分の息子とは思えなくなったようだ。


 辺境伯は、アルスの職業名が認識できない状態だった事で、女神に見放された壊れ職だと判断したようだった。そこでアルスをヴァルドール家から除籍する事を決めるとすぐに手続きを進めてしまった。そしてアルスは十年育ったこのヴァルドールの家から追放される事となった。


「アルス、お前をこの家から追放する。女神様から見捨てられたお前の存在はこの家の災いでしかない。今後、ヴァルドールの姓を名乗る事を一切禁じる。もし、お前の口からその名を出せば、命は無いものと思え!」


 辺境伯は彼にそう宣言した。


「父上、どうか考え直してください。私は必ずこの家のお役に立てると……」


「黙れ! 処分されなかった事を幸いと思え。二度とこの家の敷居を跨げるとは思うな。分ったら、さっさとこの家から出て行け」


 アルスは完全に両親から見捨てられてしまったのだった。粗末な衣服と身の回りの物、わずかばかりの路銀を渡され、彼はこの家を出て行かざるをえなくなった。



 ◇◇◇



 あの女神に呼ばれた時に、前世が日本人だった事を思い出した。地球では四十年近くを生きていた事を合わせると、彼の精神年齢はすでに五十路だ。それなりに酸いも甘いも承知している年なのである。


 十年間、当たりまえのようにこの世界に生を受けたアルスとして、そしてヴァルドール辺境伯家の子として、ずっとその道を歩んでいくと信じて疑わなかった。それが突然に終焉を迎えた。


 それまでのアルスは、十歳になるまで剣術と勉学に一心に励んでいた。それもこれもヴァルドール辺境伯家の家名の為だけにだ。


 長兄は家を継ぐ者であり、次兄はスペアであり長兄の補佐をするためにあると。そしてアルスはと言えば、学園を卒業後は領軍部の士官として、家の為、領土の為に力を振るった後には、どこかの有力な貴族の婿となって、ヴァルドール辺境伯家に資するものだと期待されていた。


 アルスは小さい頃からそう教えられてきたからだ。


 だが、そんな努力も無駄であったのだ。簡単に追放だと断じられた時、今までの家への想いは木っ端みじんに壊されてしまった。今までの努力はなんだったのかとアルスはふと思うのだ。だが、前世を思い出した今、そんな事、もうどうでもいいように思えて来るのだった。


 追放だと言われた時は、最初は頭が真っ白になった。だが、よく考えれば、家の為だけに尽くす人生よりも、この世界を自分の為だけに自由に生きる事の方が魅力的ではないのかと。


 この世界は前世で読んでいたラノベに似た世界のようだ。勘違いダメ女神とオタク先輩女神によって、結局は追放となってしまったけれど、これは悪い事ではないのではないか? 貰った職業である『日本人』を最大限活かせば、この唐突に降ってわいた苦難をも乗り越えられるのではないか? と、そう思ってしまった。


「よーし、何か、楽しくなってきたな」


 家を出る時のアルスの顔には薄っすらとした笑みが見られ、足取りがつい軽いスキップになっていた事を、本人ですら気付いてはいなかったのだった。



 ◇◇◇



 俺は早々にこの家を追い出されるわけだが、これから一人で生きて行くためのしっかりとした将来設計を立てないといけない。


「早い話、どうやって食っていこうか? 」 って事だ。


 幸いにも、今『授けの儀』が行われた直後であり、その時期には多くの子供たちが授かった職業に合ったそれぞれのギルドに登録を行う。今なら子供一人でギルドにやって来ても誰も不審には思わないだろうから。


 薬師ギルド、錬金ギルド、商業ギルド、裁縫ギルド、鍛冶師ギルド等、様々なギルドに多くの子供たちがやってくる。だがその中で、最後の砦である冒険者ギルドがあるのだ。


 最後の砦とは、冒険者ギルドは、身元を詮索する事はなく、どんな職であっても受け入れてくれるからなのだ。ただし冒険者になるための試験でそれなりの力を示す必要はある。それは、冒険者とは命がけの仕事だからだ。


 俺の職業だったら、この冒険者が一番都合がいいだろう。とりあえず職業とスキルの確認をする事にした。


 やはりここはお約束の言葉を唱えるとしよう。


「ステータスオープン! 」


 ************************************


 名前 : 小鳥遊 翔斗(タカナシ ショウト)

 種族 : 人族(転生者)

 職業 : 日本人 Lv.1

 スキル :

  【器用貧乏】 Lv.0/SP1

  【寡黙】 Lv.0/SP5

  【勤勉】 Lv.1/SP5

  【魔改造】 Lv.0/SP20

  【本音と建前】 Lv.0/SP2

  【忍耐】 Lv.0/SP1

  【回避】 Lv.0/SP1

  【集団行動】 Lv.0/SP5

  【潔癖症】 Lv.1/SP5

  【几帳面】 Lv.0/SP5


 <保有SPスキルポイント : 10>


 <※SPクエストリスト>

  リスト:無


 ≪スキル依存取得魔法≫ 魔力量 : 500

 ┣・状態異常魔法 : スリープ

 ┗・生活魔法 : クリーン


 ************************************


 おおお、目の前に半透明のスキルボードが出てきた。まるでゲームの世界のようでオタク心をくすぐられる。因みに、このスキルボードは本来自分以外の者には見る事は出来ないようなのだ。


 名前の所は前世での名前が表示されている。その上、転生者ってあるじゃないか。まぁ、だれも読めないだろうから、あまり気にする必要はないかとは思う。

 だが、問題はその下だ。


「なんか、訳わからん日本人ぽいスキル? が、いっぱい並んでるんですけど」


 前世のゲーム知識から察して、Lv.0と言うのはまだ覚えていないって事だと思う。 取得して成長すればこのレベルが上がるのだろう。スキル名下の〈保有SPスキルポイント〉が現在持っているポイントで、それが10ポイント有り、レベル横のSP**数を消費させる事で覚えられるって事なのだろうか?。



 【器用貧乏】。これなんだろう? とクリックしてみる。するとだ。何か、説明が出てきた。


【器用貧乏】


 魔法はそれなりに卒なく使える。だが、強さはそこそこ。

 鍛錬によって、オールラウンダーへと進化可能。レベル10までが初級、レベル11~20で中級、レベル21~30で上級。上級を極めればオールラウンダーへと進化。


「おお、やった! 魔法が使えるじゃん! 」


 これで何とか冒険者にはなれそうだと安堵した。安堵したのも束の間……。


「うん??? あれ??? 」


 ちょっと最後になんか頭が痛くなる文章が眼に入ってきた。


 ※オールラウンダーへ進化すれば【】へと変身できる。その間は超オールラウンダーである。


 !!! ハイ?! 【】ってなんよ。その後に括弧書きでの補足説明もあった。


(お姉さまが、「2次元も良いけど、2.5次元って、う~ん最強! 」って言ってたけど。どうも日本人って変身好きみたいよね。だから、ちゃんと用意してあるからね。任せて頂戴。byアリア)


 ああ、頭痛くなってきた。これ見なかった事にして先に進もう……。次は【寡黙】だ。


【寡黙】


 無詠唱(魔法の無詠唱スキル)


 ※上級魔法を極めれば、詠唱でミスリル銀、無詠唱でヒヒイロ金が発現するなどの錬金魔法も使えるようになる。


(日本人って、あまり感情を外に表現しないんだってね。お姉さまが「沈黙は金なり、雄弁は銀なり」って言ってたけど、沈黙で金を出すって日本人って最高じゃない。 byアリア)


【勤勉】 ※LV.1は標準装備

 

 努力家で、貪欲に知識を吸収する。前世の知識もあり、豊富な知識と経験もある。知識の利用と鑑定能力もある。


 鑑定スキル : 最初は成功率は低い。簡単なものしか見極める事が出来ないが、レベルを上げ、知識や経験を積むことで進化する。


(前世の知識をどんどん利用して、この世界を進化させてくれたら嬉しいわ。ただし、働きすぎは良くないわよ。たまにはゆっくりと眠って、疲れを取ってね。 byアリア)


【魔改造】


 魔法の改造する事が出来る能力。

 魔法の構築理論や魔法陣の構造を読み取り、より良く改造する能力。


(日本人って食べ物や飲み物とかだけでは飽き足らず、おもちゃや人形、文房具とか、はたまたトイレまでも魔改造しちゃうとか、なんかすごいのね。 byアリア)


【本音と建前】


 隠匿術 : 自分のステータスなどを秘匿出来、書き換える事が出来る。


 読心術 : 相手のステータスが読める。


(本音は大切だけど、嘘も方便。日本人って周りの空気が読めるとか。見えない物まで読めるってホントすごいのね。 byアリア)


【忍耐】


 身体能力が上がる。防御力、魔法耐性が上昇。どんな状況でも決して挫けぬ心と身体を持つ。

 魔法:シールド、マジックシールド、バリアなど防御魔法、プロテクト、ブーストなどの援護魔法が使える。


 ※別名 : 歯を喰いしばって前を向け


(投げ出さない事、諦めない事、這いつくばっても、食いしばって前を向く、それが一番大事だよね。でもさ、痛いのは嫌だもん。 byアリア)


【回避】


 回避能力:高い回避能力。速度アップ、クイック、忍び足等を自然に使って回避する能力。

 動体視力:動いているものや動きながらにして目標物を瞬時に識別できる能力がアップする。


 ※別名 : スクランブル交差点


(眼の良さと凄まじい回避能力。これって忍者? byアリア)


【集団行動】


 召喚能力

 ※魔物の群れを呼び寄せ、敵を強襲。レベルが上がる毎に召喚する魔物が増える。


(家に帰るまでが遠足、おやつは三百円まで、生きて帰るまでが戦い。どんな時でも集団ルールを守り、協調性と最後まで安全を考慮する。恐ろしきは集団での生存戦略よね。ぶるぶる byアリア)


【潔癖症】 ※LV.1は標準装備


 浄化能力:身も心も清潔に保つ浄化魔法が使える。最初の内は身体や衣服が少し綺麗になる程度。レベルが上がると状態異常の解除や水や食物の毒素の除去、魔や呪いをはらうなど高度な浄化能力になる。


 ・浄化魔法が使える


 (浄化魔法もいいけど、温泉は最高に気持ち良いわ。お風呂上がりのフルーツ牛乳は欠かせないのよね。異論は認めるわ^^ byアリア)


【几帳面】


 整理整頓能力、時間に厳しい。

 <整理整頓>覚えた魔法を整理整頓し、スキルボードをカスタマイズする機能。

 <インベントリー>整理整頓には収納が大事。最初は小容量。スキルが上がると収容容量があがり、時間経過も無くなる。


(こだわりや正確さ時間厳守は大事だと思うのよ。残念ながら私には無理だわね。ゆったりとした時間も、だ・い・じ・にしてよね。 byアリア)



 スキル関連の下にある……。


 <※SPクエストリスト>

  リスト:無


 ってのも気になる。クリックすると、やはり、そこにも何かが書かれていた。


【備考】

 スキルはSPスキルポイントで進化する。


SPスキルポイントを入手する為の手段もちゃんと用意しているからね。期待して待っててね byアリア)


 やはりスキルはSPスキルポイントを消費して進化し、SPスキルポイントを手に入るものがSPクエストリストって事で正解なようだ。そして最後は取得魔法だ。


 ≪スキル依存取得魔法≫ 魔力量 : 500

 ┣・状態異常魔法 : スリープ

 ┗・浄化魔法 : クリーン


 魔力量が500ってどうなの? これは他の人を見て見ないと解らないってところだろう。

 ≪スキル依存取得魔法≫に表示されている魔法は、標準装備のスキルにて、すでに覚えている【潔癖症】に依存する魔法が表示されているという事なのか。ところで、状態異常魔法のスリープって……???


 あああ、そっか。【勤勉】での追記にあった。(前世の知識をどんどん利用して、この世界を進化させてくれたら嬉しいわ。ただし、働きすぎは良くないわよ。たまにはゆっくりと眠って、疲れを取ってね。 byアリア)

 女神様ってば、働きすぎを心配してくれたって事ね。



 以上、これが俺の職業って事のようだが……。【器用貧乏】で魔法はそこそこ使えるようだけど、見た感じは剣や武力に関してのスキルはないようだ。強いて言うなら【忍耐】による身体能力の上昇と【回避】による動体視力の能力アップかな。


 日本人って職業なら、日本刀を駆使してのカッコいい侍とかになれたら良かったんだけど、女神が持つ日本人の認識は、どうもそうじゃなかったみたいだ。


 ここまで見て、勘違いはなはだしい、突っ込みどころ満載ではあるけれど。それでも女神様なりにかなり頑張ってくれたようだ。これは感謝しないといけないかもだ。家からは追い出されちゃったけどね。ダメダメ女神なんて思ってしまったこと、本当にすいませんでした。


 そして、日本人だったら、もうこう言うしかないだろうが――――。


「ご提案ありがとうございます。上記の件につきましては、前向きに検討させていただきます」

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