二十五日目の鐘

 鐘楼の鐘が厳かに、日付が変わったと報せ始める。

 その合図に急かされて、あちらの道からもこちらの道からも人々がひと所へ向かって急ぎ足になった。目指す先は街の中心に建つ中央教会である。

 十二月二十四日から二十五日へ変わる真夜中、クリスマス礼拝の始まりだ。

 人の群れに混ざって教会に辿り着いたウェスペルは、空色の襟巻きを外してくるりと巻いた。走ってきた上に常の何倍もの人が密集した教会に入ると暑い。

 聖堂内は煌々と照明が点けられ、夜中だというのが信じられないほど明るい。


 聖歌斉唱と説教が交互に行われ、粛々と正義ミサが進行する。終会まもなくの段になって、会衆同士の挨拶が交わされた。

「あなたに祝福がありますように」

 互いに与えることほぎは、見知らぬ隣人に対して発していても、自分が救われる気持ちで満たされる。


 教会を出た瞬間にピンと張った空気が頬を刺す。急いで襟巻きに顔を埋めたら、鼻先に白い結晶がふわりと落ちてきた。

 顔を上げると、濃紺の空から無数の雪片が花びらの如く舞い落ちていた。

 

 見上げた先では教会の高い尖塔。そしてその下に光る文字盤がある。

 一時を告げる鐘の音が、教会広場に鳴り渡る。


 その音を聞きながら瞼を閉じる。あの日出会った一つ一つの顔、そしてあの明るく強い紅葉の瞳が浮かび、おのずから笑みが溢れた。

 妙なる調べが身の内に蘇る。あの日、胸に感じた熱と共に。


 厳冬の夜道に踏み出す。フラットまで急ぎ足で行けばあっという間だ。

 

 真冬の夜空には、白銀の月が輝いていた。



 ——完——

 

 あとがきに続く



 


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