十二日目の鐘
街の中心に建つ教会でツリーの点灯式も終わり、夏の終わりからどんどん長くなっていた暗い夜が途端に明るく照らされ始める。
家々では木の枝を編んで葉の間に蝋燭を四本立てた輪が卓上に出された。アドヴェント・クランツと呼ばれるクリスマスの飾り物である。クリスマスから遡って数えて四回の日曜日を第一アドヴェントとして、毎日曜日のアドヴェントにひとつずつ蝋燭に火を灯すのだ。
ボランティアをしている教会の司祭から、せっかくだからと小さなアドヴェント・クランツを頂いた。火事になっては大変だが、最近増えてきたLED照明を持つ蝋燭の模型である。フラットの自室には幸い実家の勉強机よりも大きなデスクがあり、薄桃色の蝋燭がいつでも見えるように勉強道具を片して隅に置く。
第一アドヴェントに一番手前に立った薄桃色の頭に明かりを灯す。そして第二アドヴェントに右側の二つ目を、第三アドヴェントに左側にある三つ目を。
日に日に外気温は下がり、朝晩は氷点下の冷え込みになる。四時半を過ぎればもう外は暗く、フラットに帰り窓のない石壁に囲まれた居住棟に入ると、もうそこは闇である。
視界が心許ない廊下を抜けて自室の扉を開けたとき、クランツの灯し火はほぅと溜め息を誘う。
そして早くも、第四アドヴェント。
日の入りは早く、日の出は遅いのがこの地域の冬である。朝七時前の世界はまだ目覚めておらず、分厚い壁の外の世界はひっそりと静まっている。
布団の上で身を起こすと、机を中心に暖かな色がぼんやりと広がっていた。それに励まされて毛布をのけ、机に近づく。
三つの灯し火が、蝋燭の影を細長く壁に写し出す。まるでそれは、丈高い塔のように。そして光源を戴く蝋燭の薄桃色が、どこか懐かしい。
あの街で、厳かな塔の上に認めた色と同じだ。遠目からでも分かる、文字盤に嵌る宝玉の煌めき。
近くの教会の鐘が七時を告げて、一回、二回と鳴り出した。
——シレアの時計はもうきっと、正しく鳴っているんだろうな。
妙なると言われる時計の
ウェスペルは鐘の音を聴いていない。
聴かずのままに、気づけばもうこちらにいた。
しかし壮麗で厳粛な鐘楼の佇まいは瞼の裏に焼きつき、あの時間に得た輝きは、いまでも胸の中で温かな焔のように灯り続けている。
それが色を持ち、もしその色に名を付けるとしたら、ひとつしかない。
強くて
——鐘の
最奥の蝋燭に手を伸ばす。
四つ目の明かりが灯る。
突如、光の輪が一瞬で広がり、室内に煌々たる輝きが満ちたかと思うと、烈しい閃光が迸ってウェスペルを襲った。
一切のものの輪郭が分からなくなる。
ウェスペルの目の前は、真っ白になった。
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