六日目の鐘
街のあちこちの路上や駐車場で大小のもみの木が売り始められ、繁華街を色とりどりの電飾が飾り始めると、クリスマスの訪れが近いと感じる。そう思っているが早いか、クリスマス前の待降節に入るよりも少し前から、一番大きいものを中心にクリスマスマーケットが次々に開かれていく。
大学やアルバイトの帰り、どこを歩いても何かしらのマーケットにぶつかるのがこの街だ。そして出会ってしまうと、どうしても温かな飲み物に惹かれて人混みの中に体が吸い込まれてしまう。
「クリストキンドルへの願い事?」
「そうそう。今年のクリストキンドルには何をお願いするのって聞いたらね、従妹のお願いがおもちゃとかのモノじゃなくて、『身長が大きくなりたい』で困っちゃった」
スパイスの効いたホットワインの蒸気で眼鏡を曇らせながら友人が笑う。マグを置く丸太の上では硝子の中で蝋燭が灯され、夕方の薄闇の中で手元を優しく照らしてくれる。
「いくら
遠方出身の小さな従妹がいる友人は、毎年のクリスマスにクリストキンドルの役目を買って出て、プレゼントをあげているという。ドイツ語圏ではサンタクロースではなく子供姿のキリストがプレゼントをくれると言われているのだ。
背が高くなりたい、なんて、成長の早い学友たちへの憧れが芽生えているのか。聞くだけて微笑ましい。
「モノでないと運べないよ、って説明するとか、どうにか考えてあげないとねぇ」
「ほんとほんと。でもこの歳になるとモノとか要らないから、願いが叶ったらいいよね」
「モノなら専門書欲しいかも。図書館じゃないと買えないような」
「またウェスペルらしいの。それじゃ、もしモノじゃなくて願いが叶うならどうする?」
「モノじゃなくて、ねぇ……」
手を温めるマグを持ち上げて、ウェスペルはグリューワインに口をつけた。耐熱性が高い分厚いマグの中でワインはちっとも冷めておらず、唇が途端に火傷しそうになる。咄嗟に口を離して顔を上げ、早くも雪が降り出しそうな空気に晒して冷やした。
頭を上げたら、露天の間を巡らせた照明の向こうに一等星が見えた。晩秋は夜の訪れが早い。
「何かあるかなぁ」
大学に入って、
そういえば、クリストキンドルはどんな姿をしているのだろう。幼子キリストと言ってもいくつくらいで、どんな服装をしているのか。人間の子供と変わらないのか、光輪がついていたりするのだろうか。それとも翼を持っているのか。
まるで天使や——妖精みたいに。
そう思ったとき、まばゆい金色の世界が瞼の裏に瞬いた。
黄金、赤金、白金に色づいた木々の葉が、ウェスペルを包み込んだ絢爛の秋。
妖精が住まうという、壮麗で厳粛な森。ひらひらと、輝く葉が音もなく舞い落ちる、あの世界。
そしていくつものアーチをくぐって抜けた先に開けた先に見えた、美しき鐘楼。
あの鐘の
「シレア……へ……」
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