五日目の鐘

 冬本番ももう直ぐという晩秋の夕暮れは驚くほど早く感じられる。

 講義のあと、教授への質問が長引いてしまって講義室を出るのが遅れた。急がないと遅刻してしまう。少女はマフラーを首に巻きながら、大学のキャンパスを小走りに駆けた。

「ウェスペル!」

 声の方を見ると、道の向こうから女子学生が手を振っている。

「明日、二限来る?」

「行く! ごめん、急いでて!」

 キャンパスの入り口の先にトラムが見えた。あれに乗らないとアルバイトに間に合わない。友人も悟ったらしい。

「走れーっ、頑張って!」

 声援に手をふり返して全力疾走に切り替える。ギリギリ、搭乗客の列の最後尾に間に合った。

 大学構内に並ぶ並木から、落ち葉がキャンパスの塀を越えて目の前をひらひらと落ちていく。 

 その途端、ウェスペルの目の前が一瞬、金の色で塗りつぶされた。

 澄んだ音が数回、空気を震わす。

 どこかの教会なのか、あの街なのか。

 鐘の音は、まるで胸の内に響くよう。

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